星までの距離はどうやって測るのか、年周視差とガイア衛星

夜空の星は、どれも同じ黒い天井に貼りついているように見えます。それでも天文学者は「この星まで11.4光年」と言い切ります。巻き尺も届かない星までの距離を、どうやって測っているのでしょうか。
3行でわかる
- 近い星の距離は、地球が太陽を回ることで星の位置がわずかにずれる「年周視差」から、三角形の計算で求めます。
- 初めて成功したのは1838年のベッセルです。今はガイア衛星が、約15億個の天体の年周視差を測っています。
- 年周視差が測れない遠くの銀河は、明るさがわかる変光星や超新星を「ものさし」にして、段階的に測ります。
01 わかっていること星までの距離は何で測るの?
近い星は年周視差で測ります。地球が太陽の反対側へ動くと、近い星は遠くの星に対してわずかに位置がずれます。そのずれの角度が小さいほど、星は遠くにあります。
片目ずつ閉じて、目の前の指を見てください。指が左右に動いて見えます。これが視差(見る場所が変わると、近いものの位置がずれて見えること)です。
地球は1年で太陽を1周します。半年たつと、地球は約3億キロ離れた反対側にいます。この差を「両目の間隔」にして星を見ると、近い星だけがわずかに動きます。
ずれの角度が1秒角(1度の3600分の1)なら、距離は1パーセク(約3.26光年)です。角度が半分なら距離は2倍。この単純な関係が、宇宙の距離の土台になっています。星の明るさだけでは距離が決まらないことは、北斗七星の星の距離や等級のしくみの記事でも書いています。
02 どうやってわかったのか星の距離を初めて測ったのは誰?
1838年、ドイツのベッセルがはくちょう座61番星の年周視差を測ったのが最初とされます。その後、ヒッパルコス衛星とガイア衛星が、宇宙から何億もの星の視差を測りました。
わかっているベッセル(1838年発表、Astronomische Nachrichten)[1]
はくちょう座61番星の年周視差を0.314秒角と求めました。距離にすると約10.4光年です。現在のガイアの値は0.286秒角(約11.4光年)で、ベッセルの値は約1割大きかったものの、誤差の範囲に近い結果でした。
どうやって: 星の位置を細かく測れる特別な望遠鏡で、近くの暗い星2つとの角度を1年間に100回以上測りました。2020年に当時のデータを計算し直した研究も、ベッセルの結果をほぼそのまま再現しています [2]。
わかっているヨーロッパ宇宙機関 ヒッパルコス衛星(1989〜1993年の観測)[6]
11万8218個の星の位置と年周視差を、それまでで最も正確に測りました。大気のゆらぎがない宇宙から測ることで、地上より多くの星に手が届きました。
どうやって: 衛星が回りながら空を何度もなぞり、星の位置を繰り返し記録しました。カタログは1997年に公開されています。
わかっているガイア・コラボレーション(2023年、Astronomy & Astrophysics)[3][5]
ガイア衛星の第3版データ(2022年公開)には約18億個の天体が載り、そのうち14億6774万個あまりに年周視差と動きの値があります。明るい星(G等級15より明るい)の視差の誤差は0.02〜0.03ミリ秒角です。
どうやって: ヨーロッパ宇宙機関のガイア衛星が、2014年7月から2017年5月までの34か月に集めた観測をまとめました。
わかっているリービットとピッカリング(1912年、ハーバード大学天文台回報)[7]
小マゼラン雲の変光星(明るさが周期的に変わる星)25個を調べ、明るさが変わる周期が長い星ほど明るいことを示しました。この星はセファイド変光星と呼ばれます。
どうやって: 同じ雲の中の星はほぼ同じ距離にあるので、見かけの明るさの差がそのまま本当の明るさの差になります。周期を測れば本当の明るさがわかり、見かけの明るさとの差から距離が出せます。
わかっているリースら(2022年、The Astrophysical Journal Letters)[4]
ガイアの年周視差などでセファイド変光星の明るさを決め、そのセファイドで42個のIa型超新星(明るさがほぼそろった星の爆発)が起きた銀河の距離を測りました。近くから遠くへ、ものさしを順につないでいます。
どうやって: ハッブル宇宙望遠鏡で銀河の中のセファイドを観測しました。この「距離のはしご」の一段目が年周視差なので、ガイアの精度がはしご全体の精度を左右します。
03 数字と例えでいうと年周視差はどれくらい小さい角度?
最も近い星の一つでも、年周視差は1秒角に届きません。はくちょう座61番星の0.29秒角は、約14キロ先の1円玉の幅ほどの角度です。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| はくちょう座61番星の年周視差(ガイア) | 0.286秒角 [2] | 直径2センチの1円玉を約14キロ先から見た幅 |
| ベッセルの値(1838年) | 0.314秒角(約10.4光年)[1][2] | 本当の距離11.4光年より約1割近く見積もった |
| ガイアの視差の誤差(明るい星) | 0.02〜0.03ミリ秒角 [5] | 1円玉を約17万〜21万キロ先(月までの半分ほど)から見た幅 |
| ガイアが視差を測った天体 | 14億6774万個あまり [5] | 1秒に1個読み上げても約47年かかる数 |
| ヒッパルコスの主なカタログ | 11万8218個 [6] | ガイアはその1万倍以上 |
例えの数字はこの記事で計算したものです(1円玉の幅÷角度、1年は約3156万秒)。
04 まだわかっていないこと距離の測り方で、まだ決着していないことは?
距離のはしごで求めた宇宙の膨張の速さが、宇宙背景放射から計算した値と合いません。測り方のどこかに見落としがあるのか、宇宙の理解が足りないのかは、わかっていません。
- はしごの値と宇宙全体の値がずれる理由リースらの値は毎秒毎メガパーセク73.04キロで、プランク衛星のデータから予想される値と5σ(誤差の5倍)ずれています。原因は見つかっていません [4]。詳しくはハッブル・テンションの記事で書いています。
- 遠くて暗い星の距離ガイアでも、暗い星(G等級20)では視差の誤差が0.5ミリ秒角に広がります [5]。この誤差だと、約3300光年先の星でも距離が5割ほどずれうる計算です(この記事での計算)。より遠い星の距離は、まだ視差だけでは決めきれません。
05関連する記事
06よくある質問
光年とパーセクはどう違うの?
どちらも距離の単位です。光年は光が1年に進む距離で、パーセクは年周視差がちょうど1秒角になる距離です。1パーセクは約3.26光年にあたります。
いちばん近い星はどれくらい遠いの?
太陽を除くと、ケンタウルス座のプロキシマ・ケンタウリが最も近く、約4.24光年です。この星を回る惑星についてはいちばん近い系外惑星の記事で書いています。
なぜ宇宙から測るほうが正確なの?
地上では空気のゆらぎで星の像がにじみ、位置が細かく測れません。宇宙には空気がないため、ヒッパルコスやガイアは地上よりずっと小さな角度まで測れるようになりました。
出典
- Bessel, F. W. (1839). Bestimmung der Entfernung des 61sten Sterns des Schwans. Astronomische Nachrichten 16, 65-96. https://doi.org/10.1002/asna.18390160502
- Reid, M. J. & Menten, K. M. (2020). The first stellar parallaxes revisited. Astronomische Nachrichten 341, 860-869. https://doi.org/10.1002/asna.202013833
- Gaia Collaboration, Vallenari, A. et al. (2023). Gaia Data Release 3: Summary of the content and survey properties. Astronomy & Astrophysics 674, A1. https://doi.org/10.1051/0004-6361/202243940
- Riess, A. G. et al. (2022). A Comprehensive Measurement of the Local Value of the Hubble Constant with 1 km/s/Mpc Uncertainty from the Hubble Space Telescope and the SH0ES Team. The Astrophysical Journal Letters 934, L7. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac5c5b
- ESA Gaia. Gaia Data Release 3 (DR3). https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/dr3
- ESA. Hipparcos overview. https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Hipparcos_overview
- Leavitt, H. S. & Pickering, E. C. (1912). Periods of 25 Variable Stars in the Small Magellanic Cloud. Harvard College Observatory Circular 173, 1-3. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/1912HarCi.173....1L


