宇宙の始まりと終わり

ハッブル・テンションとは何か、宇宙の膨張の速さが合わない問題

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銀河M100の中の変光星セファイド(距離のものさし。ハッブル宇宙望遠鏡の画像)
Photo: Dr. Wendy L. Freedman, Observatories of the Carnegie Institution of Washington, / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

宇宙が広がる速さを2つの方法で測ると、答えが合いません。昔の宇宙の光から計算すると67.4、近くの銀河を直接測ると約73です(単位はキロメートル毎秒毎メガパーセク)。差は約8%。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で測り直しても、まだ決着していません。

3行でわかる

  1. 宇宙が広がる速さ(ハッブル定数)は、宇宙マイクロ波背景放射からは67.4、近くの銀河の距離からは73.04と出て、約8%食い違う。
  2. JWSTで変光星を測り直しても、ハッブル宇宙望遠鏡の距離の測定に大きな誤りは見つからなかった。一方で、別の星を使うチームは約70と報告している。
  3. 測り方に見落としがあるのか、宇宙のモデルに足りないものがあるのかは、まだわかっていない。

01 わかっていることハッブル・テンションとは何?

宇宙が広がる速さ(ハッブル定数)が、測り方によって約8%食い違う問題です。どちらも誤差は小さく、偶然のずれでは説明しにくい大きさです。

遠くの銀河ほど、速く遠ざかって見えます。その割合をハッブル定数と呼びます。326万光年(1メガパーセク)離れるごとに、遠ざかる速さが秒速何キロ増えるかで表します。

測り方は大きく2つあります。1つは、宇宙が約38万歳のときに出た光(宇宙マイクロ波背景放射)の模様から、標準的な宇宙のモデルで今の速さを計算する方法です。もう1つは、近くの銀河までの距離と遠ざかる速さを直接測る方法です。

前者は秒速67.4キロ毎メガパーセク、後者は73.04と出ます[1][2]。後者を測ったリースらは、この差を5σ(誤差の5倍)としています[2]。この速さは宇宙の年齢の計算にも使われるため、宇宙の基本の数字にかかわる問題です。

02 どうやってわかったのかどうやって測って、何がわかったの?

背景放射から計算した値と、変光星と超新星を使った「距離のはしご」の値が食い違っています。JWSTでの測り直しでも、変光星の測定に大きな誤りは見つかっていません。

わかっているプランク・コラボレーション(2020年、Astronomy & Astrophysics)[1]

背景放射の模様から計算したハッブル定数は、秒速67.4キロ毎メガパーセク(誤差0.5)でした。

どうやって: プランク衛星で背景放射の温度のむらを全天で測り、標準的な宇宙のモデル(ΛCDMモデル)に当てはめて今の膨張の速さを計算しました。モデルが正しいことが前提の値です。

有力な仮説リースら・SH0ESチーム(2022年、The Astrophysical Journal Letters)[2]

近くの銀河から直接測った値は、秒速73.04キロ毎メガパーセク(誤差1.04)でした。背景放射からの計算と5σの差があり、原因は測定の誤りでは見つからなかったとしています。

どうやって: 「距離のはしご」(近いものから順に距離を測り、遠くへつなげる方法)を使いました。周期から本当の明るさがわかる変光星(セファイド)で、42個のIa型超新星がある銀河までの距離を測っています。

有力な仮説リースら(2024年、The Astrophysical Journal Letters)[3]

JWSTで1000個を超えるセファイドを測り直すと、ハッブル宇宙望遠鏡で測った距離との差は−0.01±0.03等級で、ほぼ一致しました。近くの星の光が混ざる誤差が食い違いの原因だという説は、8.2σで否定されたとしています。ただし、別の星を目印にするCCHPは約70と報告しており[4]、近くの宇宙の値そのものはまだ決着していません。

どうやって: JWSTは細かく見分ける力が高く、近くの星の光が混ざりにくくなります。距離の基準となる銀河NGC 4258と、8個の超新星がある5つの銀河で測りました。

有力な仮説フリードマンら・CCHP(2025年、The Astrophysical Journal)[4]

赤色巨星の明るさの上限(TRGB)を使った値は、秒速70.39キロ毎メガパーセクでした。JWSTのデータだけでは、TRGBで68.81、炭素の多い巨星(JAGB)で67.80です。著者らは、標準的なモデルのままで矛盾しないとしています。

どうやって: セファイドとは別の種類の星を目印にして、10個の銀河にある11個の超新星までの距離を測りました。ハッブル宇宙望遠鏡の分と合わせると、24個の超新星を使っています。

有力な仮説リースら(2024年、The Astrophysical Journal)[5]

JWSTで測った16個の超新星を、セファイド・TRGB・JAGBの3つの方法でまとめると、秒速72.6キロ毎メガパーセク(誤差2.0)でした。CCHPとの約2.5の差は、使った超新星の選び方の違いで説明できるとしています。

どうやって: JWSTで測った2つのチームの銀河を合わせ、距離2500万パーセク以内の超新星にそろえて比べました。数が少ないため、ハッブル宇宙望遠鏡の42個の結果ほど精度はありません。

有力な仮説LIGOとVirgoの共同研究(2017年、Nature)[6]

中性子星どうしの合体から出た重力波を使うと、ハッブル定数は約70(誤差は−8〜+12)でした。距離のはしごを使わない、独立した測り方です。

どうやって: 重力波の波形から距離を、合体した銀河の光から遠ざかる速さを求めました。合体1回の測定なので誤差が大きく、どちらの値とも矛盾しません。

03 数字と例えでいうと数字にすると、どれくらい違うの?

326万光年先の銀河が遠ざかる速さは、背景放射からの計算で時速約24万キロ、近くの銀河の測定では時速約26万キロです。差は時速約2万キロです。

測り方ハッブル定数(km/s/Mpc)身近な例えでいうと
背景放射から計算(プランク)67.4 ± 0.5[1]326万光年先の銀河が時速約24万キロで遠ざかる。秒速67.4キロは、地球1周(約4万キロ)を約10分で回る速さ
セファイドと超新星(SH0ES、ハッブル宇宙望遠鏡)73.04 ± 1.04[2]時速約26万キロ。プランクの値より約8%速い
JWSTで3つの方法をまとめた値(SH0ES)72.6 ± 2.0[5]JWSTの分は超新星16個で、誤差はまだ大きい
TRGB(CCHP、ハッブル宇宙望遠鏡とJWST)70.39 ± 1.22(統計)± 1.33(系統)± 0.70(超新星)[4]2つの値のほぼ中間
重力波(合体1回)70.0(−8.0〜+12.0)[6]誤差が大きく、どちらとも矛盾しない
宇宙の年齢(プランク)137.87億年[1]ほかの条件を変えずに速さだけ73.04にすると約127億年(単純な計算)。古い星団の年齢の見積もり(約133億年、誤差は約±5億年)とぶつかる可能性がある

04 まだわかっていないことなぜ合わないのか、まだわかっていないことは?

食い違いの原因は、わかっていません。測定に見落としがあるのか、宇宙のモデルに新しい何かを足す必要があるのか、どちらの説も決め手がありません。

05関連する記事

06よくある質問

ハッブル定数とは何?

宇宙が広がる速さを表す数字です。326万光年(1メガパーセク)離れるごとに、銀河が遠ざかる速さが秒速何キロ増えるかで表します。プランク衛星の観測からは秒速67.4キロ毎メガパーセクと計算されています。

ハッブル・テンションは測定ミスではないの?

測定ミスの可能性は調べられ続けています。JWSTで1000個を超える変光星を測り直した研究では、ハッブル宇宙望遠鏡の距離とほぼ一致し、星の光が混ざる誤差が原因だという説は否定されました。ただし別のチームは約70という値を出しており、決着していません。

JWSTでハッブル・テンションは解決したの?

解決していません。SH0ESチームはJWSTでも約72.6と、高い値を確かめたとしています。一方CCHPチームは約70と報告し、標準的なモデルと矛盾しないとしています。JWSTで測れた超新星の数はまだ少なく、誤差も大きい段階です。

ハッブル・テンションが解決すると何が変わる?

食い違いの原因が新しい物理なら、宇宙の年齢や中身の割合など、今の宇宙のモデルの数字が見直される可能性があります。原因が測定の見落としなら、今のモデルがさらに確かになります。どちらになるかは、まだわかっていません。

出典

  1. Planck Collaboration (2020). Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters. Astronomy & Astrophysics 641, A6. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833910
  2. Riess, A. G., Yuan, W., Macri, L. M., et al. (2022). A Comprehensive Measurement of the Local Value of the Hubble Constant with 1 km/s/Mpc Uncertainty from the Hubble Space Telescope and the SH0ES Team. The Astrophysical Journal Letters 934, L7. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac5c5b
  3. Riess, A. G., Anand, G. S., Yuan, W., et al. (2024). JWST Observations Reject Unrecognized Crowding of Cepheid Photometry as an Explanation for the Hubble Tension at 8σ Confidence. The Astrophysical Journal Letters 962, L17. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ad1ddd
  4. Freedman, W. L., Madore, B. F., Hoyt, T. J., et al. (2025). Status Report on the Chicago-Carnegie Hubble Program (CCHP): Measurement of the Hubble Constant Using the Hubble and James Webb Space Telescopes. The Astrophysical Journal 985, 203. https://doi.org/10.3847/1538-4357/adce78
  5. Riess, A. G., Scolnic, D., Anand, G. S., et al. (2024). JWST Validates HST Distance Measurements: Selection of Supernova Subsample Explains Differences in JWST Estimates of Local H0. The Astrophysical Journal 977, 120. https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad8c21
  6. The LIGO Scientific Collaboration and the Virgo Collaboration, et al. (2017). A gravitational-wave standard siren measurement of the Hubble constant. Nature 551, 85–88. https://doi.org/10.1038/nature24471
  7. Poulin, V., Smith, T. L., Karwal, T., Kamionkowski, M. (2019). Early Dark Energy can Resolve the Hubble Tension. Physical Review Letters 122, 221301. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.122.221301
  8. Valcin, D., Bernal, J. L., Jimenez, R., Verde, L., Wandelt, B. D. (2020). Inferring the age of the universe with globular clusters. Journal of Cosmology and Astroparticle Physics 2020(12), 002. https://doi.org/10.1088/1475-7516/2020/12/002