星と銀河

重力レンズとは何か、アインシュタインの輪

約7分で読めます

重力レンズでできたアインシュタインの輪
Photo: NASA, ESA, and STScI / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

望遠鏡で見ると、まったく同じ天体が空に2つ並んでいることがあります。双子の天体ではありません。手前にある重い天体の重力が、奥の1つの天体の光を曲げて、2つに見せているのです。この現象を「重力レンズ」と呼びます。

3行でわかる

  1. 重力レンズは、重い天体の重力で光の通り道が曲がり、奥の天体がゆがむ・増える・輪になって見える現象です。
  2. 1919年の日食で、太陽のそばの星の位置がずれることが測られ、光が重力で曲がることが確かめられました。
  3. 1979年に初めて重力レンズで2つに見えるクエーサーが見つかり、今は見えないダークマターの分布を描く道具になっています。

01 わかっていること重力で光が曲がるのは本当?

本当です。アインシュタインの一般相対性理論(重力を空間のゆがみとして説明する理論)は、重い天体のそばで光が曲がると予言しました。この曲がりは日食や遠くの銀河の観測で何度も確かめられています。

虫めがねは、ガラスで光を曲げて像をつくります。重力レンズでは、ガラスの代わりに銀河や銀河団の重さが光を曲げます。

手前の天体と奥の天体と地球がほぼ一直線に並ぶと、奥の天体は2つや4つに分かれて見えます。ぴったり一直線なら、光は輪のように広がります。これが「アインシュタインの輪」です。

光が曲がる量は、手前の天体の重さだけで決まります。光っていない物質の重さも効くので、見えないダークマターの量を測る道具になります。重力が時間に与える影響は宇宙では時間の進み方が変わるのかの記事で書いています。

02 どうやってわかったのか光が曲がることはどうやって確かめたの?

最初の証拠は1919年の皆既日食です。太陽のそばに見える星の位置がずれていました。その後、2つに見えるクエーサーや輪の形の電波源が見つかり、重力レンズは実際の観測の道具になりました。

わかっているダイソン、エディントン、デイビッドソン(1920年、Philosophical Transactions of the Royal Society A)[1][2]

太陽の縁をかすめる星の光の曲がりは、ブラジルのソブラルで1.98±0.12秒角、アフリカのプリンシペ島で1.61±0.30秒角と測られました。一般相対性理論の予言1.75秒角に近く、ニュートンの重力から考えた値(その半分)より大きい結果でした。

どうやって: 日食で太陽が隠れた間に周りの星を撮影し、太陽がない夜の写真と星の位置を比べました。ソブラルのもう1台の望遠鏡は像がぼやけたため、結果に使われませんでした。精度には限りがあり、その後の観測で確かめが重ねられています [2]。

わかっているアインシュタイン(1936年、Science)[3]

手前の星と奥の星がぴったり並ぶと、奥の星の光が輪のように見え、明るくなることを計算で示しました。ただし星どうしでは角度が小さすぎて、直接見るのはほぼ望めないと考えていました。

どうやって: 一般相対性理論の光の曲がりの式を、星が星を照らす場合に当てはめました。後に、星よりはるかに重い銀河や銀河団がレンズになれば、見分けられる大きさの像ができることがわかります。

わかっているウォルシュ、カースウェル、ウェイマン(1979年、Nature)[4]

5.7秒角だけ離れて並ぶ、明るさ17等の2つのクエーサー(遠くの銀河の中心で明るく輝く天体)を調べました。光の色の並び(スペクトル)も遠さを表す赤方偏移1.405もそっくりで、1つの天体が重力レンズで2つに見えている可能性を示しました。

どうやって: 2つの天体のスペクトルを細かく比べました。これが重力レンズでできた像として最初に見つかった例とされます。クエーサーについてはクエーサーとは何かの記事で書いています。

わかっているヒューイットら(1988年、Nature)[5]

電波で見た天体MG1131+0456が、だ円形の輪の形をしていました。論文はこれを「アインシュタインの輪」の例かもしれないと報告しました。

どうやって: 1秒角より細かく見分けられる電波望遠鏡で地図をつくりました。著者らは、ほかの説明はデータで否定されると書いています。

わかっているマッシーら(2007年、Nature)[6]

遠くの銀河の形のわずかなゆがみから、ダークマターの分布を奥行きつきで描きました。ダークマターは糸のような筋でつながり、筋が交わる所に銀河団がありました。

どうやって: 望遠鏡で多数の銀河の形を測り、重力レンズによるゆがみの向きと強さから、手前にある重さの分布を逆算しました。光らない物質も含めて測れるのが、この方法の強みです。

03 数字と例えでいうと光はどれくらい曲がるの?

太陽の縁をかすめる光でも、曲がりは1.75秒角です。約2.4キロ先の1円玉の幅ほどの、ごく小さな角度です。

項目値身近な例えでいうと
太陽の縁での光の曲がり(予言)1.75秒角 [2]直径2センチの1円玉を約2.4キロ先から見た幅
ニュートンの重力から考えた値約0.87秒角 [2]相対性理論の半分。1919年の観測はこちらより大きかった
1919年 ソブラルの測定1.98±0.12秒角 [2]予言との差は誤差の2倍ほど
1919年 プリンシペの測定1.61±0.30秒角 [2]予言は誤差の範囲内
2つに見えたクエーサーの間隔5.7秒角 [4]1円玉を約720メートル先から見た幅

例えの数字はこの記事で計算したものです(1円玉の幅÷角度)。

04 まだわかっていないこと重力レンズでもわからないことは?

重力レンズは重さがどこにあるかは教えてくれますが、その重さが何でできているかは教えてくれません。ダークマターの正体は、まだわかっていません。

05関連する記事

06よくある質問

アインシュタインの輪はどうしてできるの?

手前の重い天体、奥の天体、地球がほぼ一直線に並ぶと、奥の天体の光は手前の天体の周りを四方から回り込んで届きます。そのため、奥の天体が輪のように広がって見えます。少しずれると、輪ではなく弧や複数の点になります。

重力レンズで遠くの天体が明るく見えるのはなぜ?

曲がった光が集められるからです。虫めがねで日光を集めるのと同じで、手前の天体の重力が奥の天体の光を集め、本来より明るく見せることがあります。このおかげで、そのままでは暗すぎる遠くの銀河が見つかることもあります。

太陽でも重力レンズは起きているの?

起きています。1919年の日食観測は、太陽の重力で星の光が約2秒角曲がることを測ったものです。ただ曲がりが小さいので、輪や二重の像として見えることはありません。

出典

  1. Dyson, F. W., Eddington, A. S. & Davidson, C. (1920). A Determination of the Deflection of Light by the Sun's Gravitational Field, from Observations Made at the Total Eclipse of May 29, 1919. Philosophical Transactions of the Royal Society A 220, 291-333. https://doi.org/10.1098/rsta.1920.0009
  2. Lemos, J. P. S. (2019). Shadow of the Moon and general relativity: Einstein, Dyson, Eddington and the 1919 light deflection. Revista Brasileira de Ensino de Física 41, e20190260. https://doi.org/10.1590/1806-9126-RBEF-2019-0260
  3. Einstein, A. (1936). Lens-Like Action of a Star by the Deviation of Light in the Gravitational Field. Science 84, 506-507. https://doi.org/10.1126/science.84.2188.506
  4. Walsh, D., Carswell, R. F. & Weymann, R. J. (1979). 0957 + 561 A, B: twin quasistellar objects or gravitational lens? Nature 279, 381-384. https://doi.org/10.1038/279381a0
  5. Hewitt, J. N. et al. (1988). Unusual radio source MG1131+0456: a possible Einstein ring. Nature 333, 537-540. https://doi.org/10.1038/333537a0
  6. Massey, R. et al. (2007). Dark matter maps reveal cosmic scaffolding. Nature 445, 286-290. https://doi.org/10.1038/nature05497
  7. Clowe, D. et al. (2006). A Direct Empirical Proof of the Existence of Dark Matter. The Astrophysical Journal 648, L109-L113. https://doi.org/10.1086/508162