彗星とは何か、オールトの雲は本当にあるのか

彗星は、氷とちりでできた小さな天体が太陽に近づき、ガスやちりの尾をのばしたものです。周期の長い彗星のふるさととされる「オールトの雲」は、1950年に提案されてから70年以上たった今も、直接は観測されていません。それでも、あると考えられている理由があります。
3行でわかる
- 彗星は、氷とちりでできた核が太陽に近づいて温まり、ガスやちりを出して明るく見える天体。
- オールトの雲は、太陽から約1000〜5000天文単位より外、10万天文単位ほどまでの遠くにあると考えられているが、2026年10月時点でまだ直接は観測されていない。
- 周期の長い彗星がやってくる軌道が、オールトの雲があると考える主な手がかりになっている。
01 わかっていること彗星とは何?オールトの雲は本当にあるの?
彗星は、氷とちりのかたまり(核)が太陽で温められ、ガスやちりを出す天体です。オールトの雲は直接は見つかっていませんが、周期の長い彗星の軌道から、あると考えられている仮説の場所です。
NASAは彗星を「汚れた雪玉」とたとえています。核の大きさは数km程度のものが多く、太陽に近づくと氷がガスになって、核のまわりに「コマ」と呼ばれる大きな雲ができます[6]。太陽の光と太陽風に押されて、ちりの尾とガスの尾の2本の尾がのびることもあります[6]。
太陽のまわりを200年より短く回る彗星は、海王星の外側にある氷の天体の帯(カイパーベルト)から来ると考えられています[6]。もっと長い周期の彗星の多くは、さらに遠くのオールトの雲から来るとされます[6]。
NASAはオールトの雲を「理論上の、氷の天体の集まり」と説明しています[7]。彗星が残したちりが流れ星になる話は流れ星の記事で、太陽系のでき方は太陽系の成り立ちの記事で説明しています。
02 どうやってわかったのか見えないのに、なぜオールトの雲があると言えるの?
太陽から遠く離れたところから、ときどき長い周期の彗星がやってきます。その軌道をさかのぼると、太陽系をとりまく遠い場所に、彗星のもとがたくさんあると考えると説明がつくからです。
有力な仮説Oort(1950年、Bulletin of the Astronomical Institutes of the Netherlands)[1]
オランダの天文学者オールトが、太陽系をとりまく「彗星の雲」の構造と、その成り立ちについての仮説を発表しました。これが「オールトの雲」の名前の由来です[7]。
どうやって: 周期の長い彗星の軌道を集め、彗星がどこからやってくるのかを考えました。
有力な仮説Vokrouhlickýら(2019年、The Astronomical Journal)[2]
海王星の外側にあった氷の天体の円盤が、移動した巨大な惑星にはじき飛ばされ、多くがオールトの雲にたまったという流れを計算で再現しました。観測された周期の長い彗星の軌道の分布とよく合いました。ただし、計算で予想した彗星の数は、観測より2分の1ほど少なくなりました。
どうやって: 太陽系ができたころから今までの天体の動きを、銀河の重力やそばを通る星の影響も入れてコンピューターで追いました。
有力な仮説Huiら(2022年、The Astrophysical Journal Letters)[4]
オールトの雲から来たと考えられるバーナーディネリ・バーンスタイン彗星(C/2014 UN271)の核の直径を、約119〜137kmと見積もりました。これまでに見つかった周期の長い彗星の中で、いちばん大きな核です。
どうやって: ハッブル宇宙望遠鏡で彗星の明るさを測り、核のまわりのちりの光を差し引いて核の大きさを求めました。電波望遠鏡ALMAの観測をどう読むかで、119kmと137kmの2つの値になります。
わかっているAltweggら(2015年、Science)[3]
探査機ロゼッタが、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)の水を直接測りました。水素の中の重い水素(重水素)の割合は約1万分の5.3で、地球の海の水の約3倍でした。彗星の水がすべて地球の海と同じ種類ではないことがわかりました。
どうやって: 彗星のそばを飛んだロゼッタの質量分析計で、彗星から出てきたガスの成分を測りました。67Pは周期の短い彗星です。
03 数字と例えでいうとオールトの雲はどれくらい遠いの?
オールトの雲の内側の端は太陽から2000〜5000天文単位(NASAの別の資料では、近ければ約1000天文単位)、外側の端は1万〜10万天文単位と考えられています。10万天文単位は、光の速さでも約1.6年かかる距離です。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 内側の端 | 2000〜5000天文単位[7]。近ければ約1000天文単位とする資料もある[9] | 2000〜5000天文単位は約3000億〜7500億km(計算) |
| 外側の端 | 1万〜10万天文単位[7] | 10万天文単位は約15兆km。光の速さで約1.6年(計算) |
| ふくまれる天体の数 | 数千億〜数兆個[7] | どれもまだ1つも直接は見えていない |
| ボイジャー1号が着くまで | 入るまで約300年、抜けるまで約3万年(NASAの見積もり)[7][9] | 約300年は、内側の端を近ければ約1000天文単位とみた場合の見積もり[9]。2000〜5000天文単位とすると、今の速さ(1年に約3.56天文単位)では約500〜1400年(計算) |
| 周期の長い彗星の1周 | 最大で3000万年[6] | 恐竜がいなくなってからの時間(約6600万年)の半分ほど |
| 大きな彗星の核 | 直径約119〜137km[4] | 富士山の高さ(3776m)の30倍以上(計算) |
1天文単位は太陽と地球の平均の距離で、約1億4960万kmです[8]。1光年を約6万3000天文単位として、10万天文単位を約1.6光年としました。恐竜の絶滅の時期は小惑星の衝突の記事の数字に合わせています。
04 まだわかっていないことオールトの雲について、まだ謎なのは何?
オールトの雲の天体は、2026年10月時点で1つも直接は見えていません。どれくらいの数があり、どんな形をしているのかは、近づいてきた彗星と計算から推測している段階です。
- 直接見えていないオールトの雲の天体は遠くて小さいため、手がかりは太陽の近くまで来た彗星だけです。今のデータでわかるのは主に外側(1万天文単位より遠く)から来た彗星で、内側の部分の姿はよくわかっていません[2]。
- 形はどうなっているのかNesvornýら(2025年)は、オールトの雲の内側に、長さ約1万5000天文単位の渦巻きの形があると計算で示しました[5]。これはコンピューターの計算の結果で、望遠鏡で見えたものではありません。
- 彗星の数が合わない計算で予想した周期の長い彗星の数は、観測より2分の1ほど少なくなりました。このずれをどう埋めるかは、これからの観測と計算で確かめる段階です[2]。
- これからの観測研究チームは、太陽から15天文単位より遠くを通る周期の長い彗星がもっと見つかれば、オールトの雲の姿の理解が大きく進むとしています[2]。
05関連する記事
06よくある質問
オールトの雲は見つかっているの?
2026年10月時点で、オールトの雲の天体は直接は観測されていません。NASAも「理論上の」氷の天体の集まりと説明しています。周期の長い彗星がやってくる軌道から、あると考えられています。
彗星とは何?
氷とちりでできた核をもつ天体です。太陽に近づくと氷がガスになり、核のまわりに大きな雲(コマ)ができ、ちりの尾とガスの尾がのびることがあります。
ボイジャーはオールトの雲に着くの?
NASAは、ボイジャー1号がオールトの雲に入るまで約300年、外側の端を抜けるまで約3万年と見積もっています。約300年は内側の端を近ければ約1000天文単位とみた場合で、2000〜5000天文単位とすると約500〜1400年かかる計算です。内側の端の場所そのものに幅があります。
彗星の水は地球の海の水と同じなの?
すべてが同じではありません。探査機ロゼッタが測ったチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の水は、重い水素の割合が地球の海の約3倍でした。
出典
- Oort, J. H. (1950). The structure of the cloud of comets surrounding the Solar System and a hypothesis concerning its origin. Bulletin of the Astronomical Institutes of the Netherlands 11, 91–110. https://hdl.handle.net/1887/6036
- Vokrouhlický, D., Nesvorný, D., Dones, L. (2019). Origin and Evolution of Long-period Comets. The Astronomical Journal 157, 181. https://doi.org/10.3847/1538-3881/ab13aa
- Altwegg, K., Balsiger, H., Bar-Nun, A., et al. (2015). 67P/Churyumov-Gerasimenko, a Jupiter family comet with a high D/H ratio. Science 347, 1261952. https://doi.org/10.1126/science.1261952
- Hui, M.-T., Jewitt, D., Yu, L.-L., Mutchler, M. J. (2022). Hubble Space Telescope Detection of the Nucleus of Comet C/2014 UN271 (Bernardinelli-Bernstein). The Astrophysical Journal Letters 929, L12. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac626a
- Nesvorný, D., Dones, L., Vokrouhlický, D., et al. (2025). A Spiral Structure in the Inner Oort Cloud. The Astrophysical Journal 983, 74. https://doi.org/10.3847/1538-4357/adbf9b
- NASA. Comets: Facts. https://science.nasa.gov/solar-system/comets/facts/
- NASA. Oort Cloud: Facts. https://science.nasa.gov/solar-system/oort-cloud/facts/
- NASA. Earth Fact Sheet(NSSDCA). https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html
- NASA. Voyager Goes Interstellar (Artist Concept), PIA17046. https://science.nasa.gov/photojournal/voyager-goes-interstellar-artist-concept/


