宇宙では時間の進み方が変わるのか、相対性理論でわかること

1971年10月、4台の原子時計が旅客機に乗せられ、世界を東回りと西回りで1周しました。戻ってきた時計は、地上の時計とずれていました。東回りは0.000000059秒遅れ、西回りは0.000000273秒進んでいたのです。時間の進み方は、どこでも同じではありません。
3行でわかる
- 時計は、速く動くほどゆっくり進み、重力の強い場所ほどゆっくり進む。アインシュタインの相対性理論が予想し、原子時計や素粒子の実験で確かめられている。
- 地球のまわりを回るGPS衛星の時計は、地上より1日に約38マイクロ秒速く進む(計算)。打ち上げ前に時計の進み方を調整して、このずれを打ち消している。
- ごく小さな世界や、ブラックホールの中心のような場所で時間がどうふるまうかは、重力と量子力学をまとめた理論がまだないため、わかっていない。
01 わかっていること宇宙では本当に時間の進み方が変わるの?
変わります。速く動く時計はゆっくり進み、重力の強い場所の時計もゆっくり進みます。地球の上でも起きていますが、ずれがとても小さいので、ふだんは気づきません。
1つめは速さによる遅れで、特殊相対性理論(動きと時間の関係の理論)が説明します。光の速さに近いほど、時計の進みは遅くなります。
2つめは重力による遅れで、一般相対性理論(アインシュタインの重力の理論)が説明します。重い天体の近くほど時計は遅れ、高い場所ほど速く進みます。ブラックホールの近くでは、この遅れがとても大きくなります。
宇宙に出ると、この2つが同時に効きます。地球を回る人工衛星は速く動くので遅れ、地上より重力が弱いので速く進みます。どちらが勝つかは、衛星の高さで決まります[5]。
02 どうやってわかったのか時間のずれは、どうやって確かめたの?
原子時計を旅客機に乗せて世界を回る実験、光に近い速さで回る素粒子の寿命の測定、高さを少し変えた精密な時計の比べっこなどで確かめられました。どれも相対性理論の予想と合っています。
わかっているHafeleとKeating(1972年、Science)[1][2]
原子時計4台を旅客機で世界1周させると、地上の時計に比べて東回りは59ナノ秒(±10)遅れ、西回りは273ナノ秒(±7)進みました。理論の予想(東回り40ナノ秒遅れ、西回り275ナノ秒進む)と、誤差の範囲で合いました。
どうやって: 1971年10月、ふつうの定期便に時計を乗せ、実際の飛行経路から予想を計算しました。地球は東へ自転しているので、東回りの飛行機は地球の中心から見て速く動き、時計が遅れます。高い所を飛ぶので重力が弱く、その分は時計を進めます。
わかっているBaileyら(1977年、Nature)[3]
ミューオン(すぐにこわれる小さな粒)を光の速さの約99.94%で円形の装置の中を回すと、寿命は約64.4マイクロ秒になりました。止まっているときの約2.2マイクロ秒の約29倍で、特殊相対性理論の予想と0.2%以内で一致しました。
どうやって: スイスのCERN(欧州原子核研究機構)の装置で、回っているミューオンがこわれていく速さを測りました。動く粒の「時計」がゆっくり進むので、長生きに見えます。
わかっているChouら(2010年、Science)[4]
とても精密な光時計2台を比べると、1mに満たない高さの差でも、高いほうの時計が速く進むのがわかりました。秒速10mほど、短距離走の選手くらいの速さで動かしたときの遅れもとらえました。
どうやって: アルミニウムのイオン1個を使う光時計2台を、長さ75mの光ファイバーでつないで進み方を比べました。
わかっているGRAVITY共同研究チーム(2018年、Astronomy & Astrophysics)[6]
天の川銀河の中心のブラックホールに約120天文単位(地球と太陽の距離の120倍)まで近づいた星S2の光が、重力で引き伸ばされていました。値は一般相対性理論の予測と合いました。
どうやって: 2018年5月に星が最も近づいたときの光をVLT(ヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡)で測りました。強い重力の中で時間がゆっくり進むため、光の色が赤い側にずれます。
03 数字と例えでいうと時間はどれくらいずれるの?
GPS衛星の時計は地上より1日に約38マイクロ秒速く進みます(計算)。そのままにすると、位置の計算が1日に10km以上ずれてしまう大きさです。宇宙ステーションの飛行士は、半年で約0.0045秒だけ地上の人より年をとるのが遅くなります。
| 場面 | 時計のずれ | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| GPS衛星(高さ約2万km) | 1日に約38マイクロ秒速く進む(計算) | 光は38マイクロ秒で約11km進む。位置の計算がそれだけずれる大きさ |
| 国際宇宙ステーション(高さ約400km、高度は少しずつ変わる) | 1日に約25マイクロ秒遅れる(計算) | 半年(182.5日)の滞在で約0.0045秒、地上より年をとるのが遅い |
| 旅客機で世界1周(西回り) | 273ナノ秒進んだ [2] | 0.000000273秒。地球を1周して、1秒の約370万分の1 |
| 高さ1kmの差 | 100万年で約3秒、高いほうが進む [4] | 高さ350mの展望台で80年暮らすと、地上より約0.0001秒早く年をとる(計算) |
| 光の速さの99.94%で回るミューオン | 寿命が約29倍に延びた [3] | 約2.2マイクロ秒が約64.4マイクロ秒に |
GPS衛星と宇宙ステーションのずれは、SEADICEが相対性理論の式で計算しました。地球を半径6371kmの球、衛星を円軌道(GPSは軌道半径2万6560km、宇宙ステーションは高さ400km)とし、地上の時計の自転による動きは小さいので省きました。GPSでは、重力が弱いことで1日約45.7マイクロ秒進み、速さで約7.2マイクロ秒遅れ、差し引き約38.5マイクロ秒進みます。宇宙ステーションは低いので速さの効果が勝ち、遅れます。高度が420kmでも1日約24マイクロ秒で、ほとんど変わりません。
GPSの解説論文によると、衛星の原子時計は重力の効果でおもに速く進むため、打ち上げ前に地上で進み方を少し遅く調整してあります[5]。宇宙での体の変化は宇宙に長くいると体はどうなるのかで書いています。
04 まだわかっていないこと時間について、まだわからないことは?
ごく小さな世界やブラックホールの中心で時間がどうふるまうかは、わかっていません。相対性理論と量子力学(ごく小さな世界のルール)をまとめた理論がまだ完成していないためです。
- 重力と量子力学をまとめると、時間はどうなるのか相対性理論は、ここで紹介した時計の実験や星の観測と合っています[2][6]。しかし、原子よりずっと小さな世界のルールと1つにまとめた理論はなく、そこで時間がどうふるまうかは答えが出ていません。
- ブラックホールの中で時間はどうなるのか中心では、今わかっている物理の法則が使えなくなると考えられています。内側からは光も情報も出てこないため、観測で確かめる方法がありません。くわしくはブラックホールの中はどうなっているのかで書いています。
- 相対性理論はどこまで正しいのか時計がより精密になると、より小さなずれまで比べられます。光時計は1mに満たない高さの差まで見分けられるようになりました[4]。理論からのずれは今のところ見つかっていませんが、確かめる実験は続いています。
05関連する記事
06よくある質問
宇宙では時間の進み方が変わるの?
変わります。速く動く時計と、重力の強い場所の時計はゆっくり進みます。1971年に原子時計を旅客機で世界1周させた実験では、東回りは59ナノ秒遅れ、西回りは273ナノ秒進み、相対性理論の予想と合いました。
GPSには相対性理論が必要なの?
必要です。相対性理論の式で計算すると、GPS衛星の時計は地上より1日に約38マイクロ秒速く進みます。光はこの時間に約11km進むので、補正しないと位置がずれてしまいます。衛星の時計は、打ち上げ前に進み方を調整してあります。
宇宙飛行士は年をとるのが遅くなるの?
ほんの少しだけ遅くなります。高さ約400km(高度は少しずつ変わる)を回る宇宙ステーションでは、速さの効果が重力の効果より大きく、計算すると1日に約25マイクロ秒、半年で約0.0045秒、地上の人より時計が遅れます。
高い所では時間が速く進むの?
進みます。重力が少し弱くなるためです。精密な光時計の実験では、1mに満たない高さの差でも、高いほうの時計が速く進むことが確かめられました。高さ1kmの差では、100万年で約3秒の差になります。
ブラックホールの近くでは時間はどうなるの?
とてもゆっくり進みます。天の川銀河の中心のブラックホールの近くを通った星S2の光が、重力で引き伸ばされていることが2018年に観測されました。これは強い重力の中で時間がゆっくり進むことを示す現象です。
出典
- Hafele, J. C., Keating, R. E. (1972). Around-the-World Atomic Clocks: Predicted Relativistic Time Gains. Science 177, 166–168. https://doi.org/10.1126/science.177.4044.166
- Hafele, J. C., Keating, R. E. (1972). Around-the-World Atomic Clocks: Observed Relativistic Time Gains. Science 177, 168–170. https://doi.org/10.1126/science.177.4044.168
- Bailey, J., Borer, K., Combley, F., Drumm, H., et al. (1977). Measurements of relativistic time dilatation for positive and negative muons in a circular orbit. Nature 268, 301–305. https://doi.org/10.1038/268301a0
- Chou, C. W., Hume, D. B., Rosenband, T., Wineland, D. J. (2010). Optical Clocks and Relativity. Science 329, 1630–1633. https://doi.org/10.1126/science.1192720
- Ashby, N. (2003). Relativity in the Global Positioning System. Living Reviews in Relativity 6, 1. https://doi.org/10.12942/lrr-2003-1
- GRAVITY Collaboration (2018). Detection of the gravitational redshift in the orbit of the star S2 near the Galactic centre massive black hole. Astronomy & Astrophysics 615, L15. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833718


