ブラックホール

ブラックホールの中はどうなっているのか、特異点と情報のなぞ

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ブラックホールの想像図
Photo: ESO/L. Calçada/M.Kornmesser / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

ブラックホールの中を見た人は、まだいません。事象の地平面(光も出られなくなる境目)の内側からは、光も情報も外に出てこないからです。それでも、外側の観測と理論の計算から、言えることと言えないことは分けられます。

3行でわかる

  1. ブラックホールの境目の外側は、撮影や重力波で確かめられている。境目の内側を観測で確かめる方法はない。
  2. 一般相対性理論では、中心に密度が無限大になる「特異点」ができる。ペンローズが1965年に数学で示し、2020年のノーベル物理学賞を受けた。ただし特異点は「理論が使えなくなる場所」の印で、本当の姿はわかっていない。
  3. 中に落ちた物の情報は消えるのか、外に出てくるのか。最近の計算は「出てくる」を支持するが、簡単にしたモデルでの結果で、決着はしていない。

01 わかっていることブラックホールの中は見えないの?

見えません。事象の地平面の内側からは光も出てこないため、どんな望遠鏡でも中は見えません。観測で確かめられているのは、境目のすぐ外側までです。

2019年、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、銀河M87の中心にあるブラックホールの影を撮影しました[8]。写っているのは、境目のまわりで光るガスと、真ん中の暗い部分です。中の様子が写ったわけではありません(ブラックホールの写真は何を撮ったのか)。

重力波も、ブラックホールどうしの合体を伝えてくれます。ただ、これも境目の外の空間のゆれです。だから中についての話は、ほとんどが理論の計算です。

境目に近づいた人の体に起きること(スパゲッティ化や時間の遅れ)は、ブラックホールに吸い込まれるとどうなるかで書いています。この記事では、そのさらに奥にある中心と、「情報」のなぞを扱います。

02 どうやってわかったのか見えない中のことを、どうやって考えているの?

一般相対性理論(アインシュタインの重力の理論)と量子力学(ごく小さな世界のルール)の計算で考えています。中心の特異点は前者の予測で、情報のなぞは2つを合わせたときに生まれた問題です。

わかっているPenrose(1965年、Physical Review Letters)[1][2]

星が自分の重さでつぶれ、光も出られない面ができると、その先で「特異点」(密度などが無限大になり、時空が途切れる所)ができるのは避けられないと、数学で示しました。この仕事は2020年のノーベル物理学賞を受けました。

どうやって: 星の形が完全な球でなくても成り立つ、一般的な定理として証明しました。ただし一般相対性理論が正しいとした場合の結論です。ノーベル委員会は特異点を「知られている自然の法則がすべて止まる場所」と説明しています。

有力な仮説Bekenstein(1973年、Physical Review D)[3]

ブラックホールにも「エントロピー」(外からは見えない中の状態がどれだけあるかを表す量)があり、その量は境目の面積に比例すると提案しました。

どうやって: 理論の計算です。熱の法則がブラックホールでも成り立つように考えました。のちにホーキングの計算で裏づけられましたが、観測で確かめたものではありません。

わかっていないHawking(1976年、Physical Review D)[4]

ブラックホールが熱い光(ホーキング放射)を出して蒸発すると、落ちた物の情報の一部は失われ、元の状態を計算で戻せなくなると論じました。量子力学では情報は消えないはずなので、「情報のパラドックス」と呼ばれる問題になりました。

どうやって: 重力は一般相対性理論のまま、まわりの物質だけに量子力学を当てはめて計算しました。重力そのものに量子力学を入れた計算ではありません。

有力な仮説Page(1993年、Physical Review Letters)[5][7]

情報が外に出てくるなら、出ていく光の「乱雑さ」は、蒸発の途中で増えるのをやめて減りはじめるはずだと示しました。この曲がり角を「ページ時間」と呼び、乱雑さがたどる曲線を「ページ曲線」と呼びます。

どうやって: 量子力学のふつうのルールが成り立つと仮定して計算しました。情報は、はじめはとてもゆっくり、ばらばらに出てくるため、細かく見ないと見つからないとも書いています。

わかっていないAlmheiri、Marolf、Polchinski、Sully(2013年、Journal of High Energy Physics)[6]

「情報は光にのって出てくる」「境目の外では今の物理が使える」「落ちる人は境目で何も感じない」の3つは、同時には成り立たないと論じました。いちばん控えめな答えは、落ちた人が境目で燃え尽きる(ファイアウォール)ことだと書いています。

どうやって: 理論の論証です。境目で何も起きないという、一般相対性理論の考えとぶつかるため、大きな議論になりました。

有力な仮説Almheiriら(2021年、Reviews of Modern Physics)[7]

2019年ごろから、出ていく光の乱雑さを計算する新しい方法が見つかりました。その結果はページ曲線と合い、「情報は外に出てくる」ことを支持しています。

どうやって: 研究の流れをまとめた解説論文です。計算は、重力を別の量子の仕組みに置きかえて考えられる、簡単にしたモデルが中心です。本物のブラックホールで同じことが言えるかは、まだ確かめられていません。

03 数字と例えでいうとブラックホールの「中」はどれくらいの大きさ?

中の広さは、重さで決まる境目の大きさでわかります。地球ならビー玉ほど、M87の中心なら直径400億km弱。どの大きさでも、境目の内側を見る方法はありません。

項目値身近な例えでいうと
地球と同じ重さのブラックホール境目の直径 約1.8cm(計算)ビー玉くらい
太陽と同じ重さ境目の半径 約3km(計算)直径約6km。歩いて1時間半ほどで横切れる
天の川銀河の中心(太陽の約400万倍。測定によって約410万〜430万倍)境目の半径 約1270万km(430万倍として計算)太陽の半径(約70万km)の約18倍
M87の中心(太陽の約65億倍)[8]境目の直径 約380億km(65億倍として計算。EHTの発表では「400億km弱」)地球と太陽の距離の約260倍(EHTの発表の値では約270倍)
EHTが撮ったM87のリング見かけの直径 42マイクロ秒角[8]撮れたのは境目の外の光。中は写らない
一般相対性理論での中心(特異点)大きさゼロ、密度は無限大数字が無限大になるのは「理論がここで使えない」という印

境目の半径は「太陽の重さあたり約2.95km」として、重さに比例させて計算しました。回っていないブラックホールの場合の値で、回っているものは少し小さくなります。中に入った物が中心に着くまでの様子は、理論で計算できても、確かめる観測はありません。

04 まだわかっていないことブラックホールの中で、まだ謎なのは何?

中心に本当に特異点があるのか、落ちた物の情報がどこへ行くのか、境目で何も起きないのか。重力と量子力学をまとめる理論がないため、どれもまだ答えが出ていません。

05関連する記事

06よくある質問

ブラックホールの中には何があるの?

わかっていません。一般相対性理論では、中心に密度が無限大になる「特異点」ができると予測されます。ただし特異点は理論が使えなくなる場所の印で、境目の内側を観測する方法もないため、本当の姿は誰も確かめていません。

ブラックホールの特異点とは何?

密度などが無限大になり、時空が途切れてしまう所です。ペンローズは1965年、星がつぶれて光も出られない面ができると、特異点ができるのは避けられないと数学で示し、2020年のノーベル物理学賞を受けました。

ブラックホールに落ちた物の情報は消えるの?

まだ決着していません。ホーキングは1976年に情報は失われると論じましたが、量子力学のふつうの考えとぶつかります。2019年ごろからの新しい計算は「情報は外に出てくる」を支持していますが、簡単にしたモデルでの結果です。

ブラックホールの中を観測する方法はある?

今のところありません。事象の地平面の内側からは光も出てこないためです。撮影や重力波でわかるのは境目の外側までで、中の手がかりを運ぶかもしれないホーキング放射も、弱すぎてまだ観測されていません。

出典

  1. Penrose, R. (1965). Gravitational Collapse and Space-Time Singularities. Physical Review Letters 14, 57–59. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.14.57
  2. The Nobel Prize (2020). Press release: The Nobel Prize in Physics 2020. https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/press-release/
  3. Bekenstein, J. D. (1973). Black Holes and Entropy. Physical Review D 7, 2333–2346. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.7.2333
  4. Hawking, S. W. (1976). Breakdown of predictability in gravitational collapse. Physical Review D 14, 2460–2473. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.14.2460
  5. Page, D. N. (1993). Information in black hole radiation. Physical Review Letters 71, 3743–3746. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.71.3743
  6. Almheiri, A., Marolf, D., Polchinski, J., Sully, J. (2013). Black holes: complementarity or firewalls? Journal of High Energy Physics 2013, 62. https://doi.org/10.1007/JHEP02(2013)062
  7. Almheiri, A., Hartman, T., Maldacena, J., Shaghoulian, E., Tajdini, A. (2021). The entropy of Hawking radiation. Reviews of Modern Physics 93, 035002. https://doi.org/10.1103/RevModPhys.93.035002
  8. The Event Horizon Telescope Collaboration (2019). First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole. The Astrophysical Journal Letters 875, L1. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ab0ec7