天の川銀河の中心にあるブラックホール、星の動きで重さを量った30年の観測

私たちの天の川銀河の真ん中には、太陽の約400万倍の重さのブラックホールがあります。目には見えないのに重さがわかったのは、そのまわりを回る星の動きを、30年近く追い続けたからです。
3行でわかる
- 天の川銀河の中心には「いて座Aスター」というブラックホールがあり、重さは太陽の約400万倍。
- 重さは、まわりを16年で1周する星S2などの軌道から計算した。2つのチームの結果が一致し、2020年のノーベル物理学賞になった。
- 2022年には、その姿(明るいリングと黒い影)も撮影された。どうやってここまで重くなったかなどは、まだわかっていない。
01 わかっていること天の川銀河の中心に本当にブラックホールがある?
あります。天の川銀河の中心には、太陽の約400万倍の重さが太陽系ほどの広さに詰まった、見えない天体があります。今これを説明できるのは超大質量ブラックホールだけです。
この天体は「いて座Aスター(Sgr A*)」と呼ばれ、地球から約2万6000〜2万7000光年先にあります[6][7]。2020年のノーベル物理学賞の発表は、超大質量ブラックホールが「今知られている唯一の説明」だと書いています[5]。ほかの説明が完全に否定されたという意味ではなく、今の観測に合う説明がほかに見つかっていない、という意味です。
中心はガスやちりに隠れていて、ふつうの光では見えません。研究者は、ちりを通りぬける赤外線(目に見えない光の一種)で星を観測しました。
02 どうやってわかったのか見えないのにどうやって重さを量ったの?
まわりを回る星が1周する時間と、軌道の大きさを測って重さを計算しました。地球が太陽を回る動きから太陽の重さがわかるのと同じ考え方です。
ドイツのゲンツェル氏のチームと、アメリカのゲズ氏のチームが、1990年代のはじめから別々に観測を続けました[5]。2つのチームの結果は一致しています。
わかっているGhezら(2008年、The Astrophysical Journal)[1]
ハワイのケック望遠鏡で1995〜2007年に星の位置を測り、星S0-2(S2と同じ星)の軌道から、重さを太陽の410万倍(誤差60万倍)、距離を8.0キロパーセク(約2万6000光年)と求めました。
どうやって: 大気のゆらぎを打ち消す技術で星の位置を細かく測り、星の速さも別に測りました。中心の天体が止まっていると仮定すると、重さは太陽の450万倍になります。
わかっているGillessenら(2009年、The Astrophysical Journal)[2]
16年間の観測で28個の星の軌道を決めました。星S2は観測を始めてから1周を終えました。重さは太陽の431万倍、距離は8.33キロパーセク(約2万7000光年)です。
どうやって: 星の位置と速さを長年くり返し測り、28個の軌道をまとめて計算しました。重さの不確かさの多くは、地球から中心までの距離の不確かさから来ています。
わかっているGRAVITY Collaboration(2018年、Astronomy & Astrophysics)[3]
2018年5月、S2は中心から約120天文単位まで近づき、秒速約7650kmで動きました。S2の光は重力で引き伸ばされており、その量はアインシュタインの一般相対性理論の予測と合いました。
どうやって: 複数の望遠鏡の光を合わせる装置GRAVITYで、星の位置と速さを測りました。ESOはこの星を26年間観測してきたと発表しています[6]。
わかっているEHT Collaboration(2022年、The Astrophysical Journal Letters)[4]
地球規模の電波望遠鏡で、明るいリングと黒い影を撮影しました。リングの見かけの直径は51.8マイクロ秒角で、太陽の約400万倍のブラックホールと合う大きさでした。
どうやって: 世界8か所の電波望遠鏡をつないで、地球ほどの大きさの望遠鏡として使いました。星の動きとはまったく別の方法で、同じ重さが確かめられました。撮影の方法はブラックホールの写真は本物か、イベント・ホライズン・テレスコープは何を撮ったのかで書いています。
03 数字と例えでいうとどれくらい重くて、どれくらい遠い?
重さは太陽の約400万倍で、距離は約2万6000〜2万7000光年です。そのすぐ近くを回る星S2は、光の速さの約2.6%という猛スピードで動いています。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 重さ | 太陽の410万〜431万倍[1][2] | 太陽400万個ぶんが、太陽系ほどの広さに詰まっている[5] |
| 地球からの距離 | 8.0〜8.33キロパーセク[1][2] | 約2万6000〜2万7000光年。今届いている光は、約2万6000年以上前に出た光 |
| 星S2が1周する時間 | 約16年[6] | 小学1年生が大学を卒業するころに1周 |
| S2が最も近づいた距離 | 約120天文単位[3] | 約180億km。太陽から海王星までの約4倍(計算) |
| そのときのS2の速さ | 秒速約7650km[3] | 光の速さの約2.6%。東京から大阪(約400km)を約0.05秒で通りすぎる(計算) |
| 事象の地平面の半径 | 約1270万km(太陽の430万倍として計算。NASAは丸めて約1250万kmと紹介) | 地球と太陽の距離の約12分の1 |
| 地球から見た大きさ | リングの直径51.8マイクロ秒角[4] | 月の上に置いたドーナツくらい[7] |
重さが2つのチームで少し違うのは、主に地球から中心までの距離の測り方の違いによるものです[2]。どちらも「太陽の約400万倍」という結論は同じです。
04 まだわかっていないことまだ決着していないのは何?
重さと場所はほぼ決まりましたが、ブラックホールがどれくらいの速さで回っているかや、どうやって太陽の400万倍まで育ったかは、まだわかっていません。
- どれくらいの速さで回っているのか2022年の撮影の分析では、まったく回っていないモデルは合いにくいという結果でした[4]。ただ、回転の速さそのものは、まだはっきり決まっていません。
- どうやってここまで重くなったのかガスや星を少しずつ飲み込んだのか、ほかのブラックホールと合体したのかなど、育ち方を直接確かめた観測はまだありません。
- 地球からの距離の最後の数%2008年と2009年の研究で、距離は8.0と8.33キロパーセクと少し違います[1][2]。距離が変わると重さも変わるため、観測は今も続いています。
05関連する記事
06よくある質問
天の川銀河の中心のブラックホールの名前は?
いて座Aスター(Sgr A*)と呼ばれます。いて座の方向、地球から約2万6000〜2万7000光年の場所にあり、重さは太陽の約400万倍です。
見えないブラックホールの重さはどうやって量るの?
周りを回る星の軌道を使います。星が1周する時間と軌道の大きさがわかると、真ん中にある物の重さが計算できます。地球が太陽を回る動きから太陽の重さがわかるのと同じ考え方です。
天の川銀河のブラックホールに地球は吸い込まれる?
吸い込まれません。地球は約2万6000光年離れており、ブラックホールの重力が強く効くのはそのすぐ近くだけです。地球を含む太陽系は、銀河の中心のまわりを回り続けています。
2020年のノーベル物理学賞は何に贈られた?
半分がブラックホールができることを理論で示したペンローズ氏に、残り半分が天の川銀河の中心に超大質量の見えない天体を見つけたゲンツェル氏とゲズ氏に贈られました。
出典
- Ghez, A. M. et al. (2008). Measuring Distance and Properties of the Milky Way's Central Supermassive Black Hole with Stellar Orbits. The Astrophysical Journal 689, 1044–1062. https://doi.org/10.1086/592738
- Gillessen, S. et al. (2009). Monitoring Stellar Orbits Around the Massive Black Hole in the Galactic Center. The Astrophysical Journal 692, 1075–1109. https://doi.org/10.1088/0004-637X/692/2/1075
- GRAVITY Collaboration (2018). Detection of the gravitational redshift in the orbit of the star S2 near the Galactic centre massive black hole. Astronomy & Astrophysics 615, L15. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833718
- Event Horizon Telescope Collaboration (2022). First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole in the Center of the Milky Way. The Astrophysical Journal Letters 930, L12. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac6674
- The Nobel Prize (2020). Press release: The Nobel Prize in Physics 2020. https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2020/press-release/
- ESO (2018). First Successful Test of Einstein's General Relativity Near Supermassive Black Hole. https://www.eso.org/public/news/eso1825/
- ESO (2022). Astronomers reveal first image of the black hole at the heart of our galaxy. https://www.eso.org/public/news/eso2208-eht-mw/


