宇宙に長くいると体はどうなるのか、骨・筋肉・目の変化

宇宙には、体を下に引っぱる重力がほとんどありません。そこで何か月も暮らすと、骨や筋肉、目にまで変化が出ます。NASAは、宇宙に340日いた宇宙飛行士と、地上にいた双子の兄弟を比べる研究もしました。多くの変化は地球に戻ると元に戻りますが、戻りきらないものもあります。
3行でわかる
- 宇宙では体の水分が頭のほうに移り、骨は1か月に約1〜1.5%減る。足の筋肉も衰えやすく、1日に約2時間の運動でおさえている。
- 6か月の滞在のあと、目の奥にむくみなどの変化が出た宇宙飛行士がいる。アンケートの自己申告では、長期滞在の約60%が見え方の悪化を感じていた。
- 多くの変化は帰還後に戻るが、骨の密度が1年たっても戻りきらない人もいる。目の変化の原因は、まだはっきりしていない。
01 わかっていること宇宙に長くいると、体はどう変わる?
重力がほとんどないため、体の水分が頭に移り、骨と筋肉が弱くなります。地上より多い放射線も浴びます。宇宙酔いは数日でおさまります。
地上では、重力で体の水分が足のほうにたまります。宇宙ではそれがなくなり、水分が頭のほうに移ります。JAXAによると、顔がむくみ、鼻がつまったようになることもあります[7]。
体を支える必要がないので、骨と筋肉は使われにくくなります。骨からはカルシウムが溶け出し、特に足の筋肉が衰えます[7]。そのため宇宙ステーションでは、1日に約2時間の運動をしています[7]。
バランスを感じる耳の奥の器官も、重力の手がかりを失います。これが宇宙酔いの原因の1つで、数日でおさまります[7]。地球に戻ったあとは、2週間ほどで問題がなくなるとされています。
この記事は、研究でわかったことの紹介です。体の不調や治療についての助言ではありません。
02 どうやってわかったのか宇宙での体の変化は、どうやって調べたの?
宇宙飛行士の骨や目を、宇宙に行く前と帰ったあとで測って比べました。NASAは、宇宙にいた1人と地上にいた双子の兄弟を比べる研究もしました。
わかっているLangら(2004年、Journal of Bone and Mineral Research)[2]
宇宙ステーションに4〜6か月いた14人の骨は、背骨で1か月に約0.9%、股関節で約1.4〜1.5%減っていました。かかとの骨の減り方は、それより小さいものでした。
どうやって: 宇宙に行く前と帰ったあとに、骨の密度をX線とCTで測りました。対象は40〜55歳の13人の男性と1人の女性です。
有力な仮説Gabelら(2022年、Scientific Reports)[3]
帰還から1年たっても、すねの骨の強さや密度は、宇宙に行く前より0.9〜2.1%低いままでした。17人のうち9人は、骨の密度が元に戻りきっていませんでした。
どうやって: 17人のすねと手首の骨を、細かく写せるCTで、出発前・帰還時・6か月後・12か月後に測りました。6か月より長く滞在した人ほど、戻り方が悪い傾向でした。人数が少ないため、今後の確認が必要です。
わかっているMaderら(2011年、Ophthalmology)[4]
6か月の宇宙滞在のあと、7人の宇宙飛行士に目の変化が見つかりました。視神経の付け根のむくみが5人、眼球の後ろが平らになる変化が5人、近くが見えにくくなったのが6人です。
どうやって: 7人の目を出発前と帰還後に詳しく検査しました。別に約300人へのアンケートでは、短い飛行の約29%、長期滞在の約60%が見え方の悪化を感じていました。変化が何年も残った人もいます。
有力な仮説Garrett-Bakelmanら(2019年、Science)[1][5]
宇宙に340日いたスコット・ケリーさんは、体重が減り、染色体の端(テロメア)が長くなり、遺伝子の働き方も変わりました。多くは帰還後6か月以内に元近くに戻りましたが、短いテロメアが増えるなど、残った変化もありました。
どうやって: 遺伝子が同じ双子の兄弟マークさんを地上の比較相手にして、10の研究チームが遺伝子・腸内細菌・認知力などを調べました。比べたのは1組の双子だけなので、すべての人に当てはまるとは言えません。
03 数字と例えでいうとどれくらい変わるの?
骨が1か月に1〜1.5%減ると、6か月で約6〜9%になります。宇宙ステーションでの1日の放射線は、地上で暮らす約2.5〜5か月分です。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 骨の減り方 | 1か月に約1〜1.5%[7] | 6か月の滞在で約6〜9%(計算) |
| 股関節の骨(14人の平均) | 1か月に約1.4〜1.5%[2] | 6か月で約8〜9%(計算) |
| 帰還1年後のすねの骨 | 0.9〜2.1%低いまま[3] | 17人中9人が戻りきらず。著者らは、地上で10年以上年をとるのと同じくらいの骨の減り方だとしている |
| 放射線(宇宙ステーション) | 1日に約0.5〜1ミリシーベルト[8] | 地上の1年分(約2.4ミリシーベルト)の約5分の1〜5分の2。地上で暮らす約2.5〜5か月分(計算) |
| 毎日の運動 | 1日に約2時間[7] | 6か月で約360時間(計算) |
| 遺伝子の働き方の変化 | 約93%が帰還後に戻った[6] | 残りの約7%は免疫やDNAの修復に関わるもの |
6か月の計算は、1か月の減り方を6倍した単純な見積もりです。放射線の例えは、0.5÷2.4×12≒2.5か月、1÷2.4×12≒5か月として計算しました。NASAは、変わったのはDNAそのものではなく、遺伝子の働き方だと説明しています[6]。
04 まだわかっていないこと宇宙での体の変化で、まだ謎なのは?
目の変化がなぜ起きるのか、骨がどこまで元に戻るのかは、まだはっきりしていません。何年もかかる火星への旅で体がどうなるかも、わかっていません。
- 目の変化はなぜ起きるのかMaderらは、体の水分が頭に移ることが原因ではないかと考えています[4]。ただし、これはまだ仮説です。なぜ一部の人だけに強く出るのかも、わかっていません。
- 骨はどこまで元に戻るのか帰還1年後も戻りきらない人がいました[3]。それが一生続くのか、どんな運動や薬で防げるのかは、研究が続いています。
- 双子研究の変化は、ほかの人にも起きるのか調べたのは1組の双子だけです[1]。テロメアが長くなった理由や、残った変化が健康にどう影響するかは、わかっていません。
- もっと長く、もっと遠くへ行ったらどうなるのかこれまでの長期滞在は、地球に近い宇宙ステーションでのものです。火星のように何年もかかる旅で、骨や目、放射線の影響がどこまで大きくなるかは、まだ確かめられていません。
05関連する記事
06よくある質問
宇宙に行くと骨はどれくらい減る?
国際宇宙ステーションに4〜6か月滞在した14人の研究では、背骨で1か月に約0.9%、股関節で約1.4〜1.5%減っていました。JAXAは1か月に1〜1.5%と説明しています。滞在中は1日に約2時間の運動で、減り方をおさえています。
地球に戻ると体は元に戻る?
多くの変化は戻ります。宇宙酔いのようなバランスの乱れは、JAXAによると帰還後2週間ほどで問題がなくなります。一方、17人の宇宙飛行士を調べた研究では、帰還1年後も9人のすねの骨の密度が元に戻りきっていませんでした。
宇宙に長くいると目が悪くなるのは本当?
一部の宇宙飛行士で目の変化が見つかっています。6か月の滞在のあとに、視神経の付け根のむくみや眼球の後ろが平らになる変化が出た人がいました。約300人のアンケートでは、長期滞在の約60%が見え方の悪化を感じていました。原因はまだ確かめられていません。
NASAの双子研究で遺伝子が変わったのは本当?
DNAそのものが書き換わったわけではありません。NASAは、変わったのは遺伝子の働き方(どの遺伝子がどれだけ使われるか)だと説明しています。働き方の変化の約93%は帰還後に元に戻り、残りの約7%は免疫やDNAの修復に関わるものでした。
出典
- Garrett-Bakelman, F. E., Darshi, M., Green, S. J., et al. (2019). The NASA Twins Study: A multidimensional analysis of a year-long human spaceflight. Science 364, eaau8650. https://doi.org/10.1126/science.aau8650
- Lang, T., LeBlanc, A., Evans, H., et al. (2004). Cortical and Trabecular Bone Mineral Loss From the Spine and Hip in Long-Duration Spaceflight. Journal of Bone and Mineral Research 19, 1006–1012. https://doi.org/10.1359/JBMR.040307
- Gabel, L., Liphardt, A.-M., Hulme, P. A., et al. (2022). Incomplete recovery of bone strength and trabecular microarchitecture at the distal tibia 1 year after return from long duration spaceflight. Scientific Reports 12, 9446. https://doi.org/10.1038/s41598-022-13461-1
- Mader, T. H., Gibson, C. R., Pass, A. F., et al. (2011). Optic Disc Edema, Globe Flattening, Choroidal Folds, and Hyperopic Shifts Observed in Astronauts after Long-duration Space Flight. Ophthalmology 118, 2058–2069. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2011.06.021
- NASA (2019). NASA’s Landmark Twins Study Reveals Resilience of Human Body in Space. https://www.nasa.gov/news-release/nasas-landmark-twins-study-reveals-resilience-of-human-body-in-space/
- NASA (2018). NASA Twins Study Confirms Preliminary Findings. https://www.nasa.gov/missions/station/iss-research/nasa-twins-study-confirms-preliminary-findings/
- JAXA 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター. 宇宙滞在に伴う健康問題. https://iss.jaxa.jp/med/about/health/
- JAXA 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター. 放射線被ばく管理. https://iss.jaxa.jp/med/research/radiation/


