星と銀河

宇宙にラズベリーの香りの分子はあるのか、星と星の間で見つかった分子

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天の川銀河の中心付近のガス雲
Photo: NASA/ESA/CSA JWST NIRCam; Adam G Ginsburg et al. & Melina Thévenot / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

「天の川銀河の中心はラズベリーの味がする」という話があります。元になったのは、2009年に銀河の中心近くのガス雲で「ギ酸エチル」という分子が見つかったという論文です。分子が見つかったのは本当ですが、ラズベリーの味とまで言えるかは別の話です。

3行でわかる

  1. 2009年、地球から約2万5000光年先のガス雲「いて座B2」で、ギ酸エチルが初めて見つかった。果物のようなにおいの分子。
  2. ただし、ラズベリーの香り成分276種類をまとめた総説(2015年)では、香りの主役はラズベリーケトンなどほかの分子とされ、その表にギ酸エチルは見当たらない。
  3. 星と星の間で見つかった分子は、2025年2月時点の数え方(ケルン大学のデータベースと論文のまとめ)で334種類。多くは電波望遠鏡で、分子ごとに決まった「電波の指紋」を読んで見つけた。

01 わかっていること宇宙でギ酸エチルは見つかった?

はい。2009年、ベロッシュらのチームが、天の川銀河の中心近くにあるガス雲いて座B2(N)で、ギ酸エチルを宇宙で初めて見つけたと報告しました。同時にシアン化n-プロピルという分子も見つかりました。

ギ酸エチルは、炭素・水素・酸素でできた小さな分子です。においは「果物のよう」とされます[6]。いて座B2は、星が次々に生まれている、濃くて熱いガスのかたまりです(星の生まれ方は星の誕生の記事)。

いて座B2までの距離は約2万5000光年で、銀河の中心より約400光年手前にあると測られています[3]。銀河の中心にある巨大ブラックホールの話は天の川銀河の中心のブラックホールの記事にあります。

02 どうやってわかったのか遠くの分子をどうやって見分けるの?

分子はくるくる回転していて、分子ごとに決まった周波数の電波を出します。実験室で測った「電波の指紋」と、望遠鏡で受けた電波を照らし合わせて、どの分子があるかを見分けます。

わかっているBellocheら(2009年、Astronomy & Astrophysics)[1]

いて座B2(N)で、ギ酸エチルとシアン化n-プロピルを宇宙で初めて見つけました。ギ酸エチルの量は、水素分子の約2億8000万個に1個です。

どうやって: スペインにあるIRAMの30メートル電波望遠鏡で、波長3ミリの電波をすき間なく調べました。知られている分子すべての電波を同時に計算して当てはめ、残った電波から量の少ない分子を探しました。ちりの表面で小さな部品がつながってできた、と計算で説明しています。

わかっているMcGuire(2022年、The Astrophysical Journal Supplement Series)[2]

2021年の時点で、星と星の間や星のまわりで見つかった分子は241種類でした。原子2個の分子から70個の分子まであり、19種類の元素でできています。

どうやって: それぞれの分子が最初に見つかった観測と、その元になった実験室での測定を1つずつ一覧にしました。まだ確かでない報告や、異論のある報告は分けて載せています。

わかっているJiménez-Serraら(2025年、Handbook of Astrochemistry の章の原稿)[4]

2025年2月の時点で、星と星の間で見つかった分子を334種類と数えています。

どうやって: ドイツ・ケルン大学の分子データベース(CDMS)の一覧と、著者たちが集めた論文の報告をもとに数えました。本の章の原稿で、査読を経た論文ではありません。McGuireの241種類とは数えた範囲が同じとは限らないため、2つの差をそのまま「増えた数」とは読めません。

わかっているApreaら(2015年、Molecules)[5]

ラズベリーの果実から見つかった香りの分子は276種類あり、ラズベリーらしい香りの決め手は「ラズベリーケトン」とされ、α-イオノン・β-イオノンも全体の香りに大事とされています。この総説の一覧表に、ギ酸エチルは見当たりません。

どうやって: ラズベリーの香りの分子を調べた研究を集めて、一覧表にまとめた総説です。ギ酸エチルがラズベリーに少しも入っていないという意味ではなく、香りの主役ではないということです。

03 数字と例えでいうと宇宙の分子はどれくらい薄くて、どれくらい見つかっている?

いて座B2のギ酸エチルは、水素分子約2億8000万個に1個しかありません。見つかった星間分子は、2021年の一覧で241種類、2025年2月の別の数え方で334種類です。

項目値身近な例えでいうと
いて座B2までの距離約2万5000光年[3]光の速さで進んでも約2万5000年かかる。今届く電波は約2万5000年前に出たもの
ギ酸エチルの量水素分子に対して約0.0000000036[1]約2億8000万個に1個。日本の人口(約1億2000万人)の2倍あまりの中の1人
見つかった星間分子(2021年)241種類[2]原子2個から70個まで。星のまわりのガスで見つかった分子も含む一覧
見つかった星間分子(2025年2月)334種類[4]本の章の原稿(査読前)の数え方。241種類と数えた範囲が同じとは限らない
ラズベリーの香りの分子276種類[5]1つの分子だけで「ラズベリーの香り」になるわけではない

距離(約7.8キロパーセク)の光年への換算と、割合の換算は計算で出しました。距離の測定には約1割の誤差があります。

04 まだわかっていないこと宇宙の分子でまだ謎なのは何?

宇宙の分子がどこでどうやってできるのか、どこまで大きな分子があるのかは、まだわかっていません。アミノ酸のような生命の材料が星と星の間にあるかどうかも、確かめられていません。

NASAの解説ページにも「ギ酸エチルはラズベリーの風味を生む分子」と書かれています[7]。ただ、ラズベリーの香りの研究をまとめた総説では、主役は別の分子です。宇宙でギ酸エチルが見つかったことは確かですが、ラズベリーの香りの主役はほかの分子とされるので、「銀河の中心はラズベリーの味がする」と言える根拠はありません。

05関連する記事

06よくある質問

宇宙はラズベリーの味がするって本当?

そうとまでは言えません。2009年に天の川銀河の中心近くのガス雲で、果物のようなにおいの分子ギ酸エチルが見つかったのは本当です。ただ、ラズベリーの香りの研究をまとめた総説では、香りの主役はラズベリーケトンなどほかの分子とされ、ギ酸エチルは一覧に見当たりません。ガスもとても薄く、ギ酸エチルは水素分子約2億8000万個に1個しかありません。

宇宙では何種類の分子が見つかっている?

2025年2月の時点で、星と星の間で見つかった分子を334種類と数えた本の章の原稿(査読前)があります。2021年の一覧(McGuire)では、星と星の間や星のまわりで241種類で、原子2個の分子から70個の分子までありました。2つは数えた範囲が同じとは限りません。

遠い宇宙の分子はどうやって見つけるの?

分子は回転していて、分子ごとに決まった周波数の電波を出します。電波望遠鏡で受けた電波を、実験室で測った分子ごとの電波の指紋と照らし合わせて見分けます。

いて座B2はどこにある?

いて座の方向、地球から約2万5000光年先で、天の川銀河の中心より約400光年手前にある巨大なガス雲です。星がさかんに生まれている場所で、たくさんの種類の分子が見つかっています。

出典

  1. Belloche, A., Garrod, R. T., Müller, H. S. P., Menten, K. M., Comito, C., Schilke, P. (2009). Increased complexity in interstellar chemistry: detection and chemical modeling of ethyl formate and n-propyl cyanide in Sagittarius B2(N). Astronomy & Astrophysics 499, 215–232. https://doi.org/10.1051/0004-6361/200811550
  2. McGuire, B. A. (2022). 2021 Census of Interstellar, Circumstellar, Extragalactic, Protoplanetary Disk, and Exoplanetary Molecules. The Astrophysical Journal Supplement Series 259, 30. https://doi.org/10.3847/1538-4365/ac2a48
  3. Reid, M. J., Menten, K. M., Zheng, X. W., Brunthaler, A., Xu, Y. (2009). A Trigonometric Parallax of Sgr B2. The Astrophysical Journal 705, 1548–1553. https://doi.org/10.1088/0004-637X/705/2/1548
  4. Jiménez-Serra, I., Codella, C., Belloche, A., et al. (2025). Observations of complex organic molecules in the gas phase of the interstellar medium. To appear in Handbook of Astrochemistry (arXiv:2503.17104). https://arxiv.org/abs/2503.17104
  5. Aprea, E., Biasioli, F., Gasperi, F. (2015). Volatile Compounds of Raspberry Fruit: From Analytical Methods to Biological Role and Sensory Impact. Molecules 20, 2445–2474. https://doi.org/10.3390/molecules20022445
  6. PubChem. Ethyl formate (CID 8025), Odor. https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/8025
  7. NASA Ames Research Center (2021). What does space smell like? Interesting Fact of the Month, December 2021. https://www.nasa.gov/space-science-and-astrobiology-at-ames/interesting-fact-of-the-month-current/interesting-fact-of-the-month-2021/