月は毎年3.8cm遠ざかっている、レーザーでわかったこと

月は毎年およそ3.8cmずつ、地球から遠ざかっています。これは、アポロ11号の宇宙飛行士が1969年に月に置いた反射鏡にレーザーを当て、往復の時間を50年以上測り続けてわかった数字です。同じ潮の力で、地球の1日も少しずつ長くなっています。
3行でわかる
- 月レーザー測距(月の反射鏡にレーザーを当てて距離を測る方法)で、月は1年に約3.8cm遠ざかっているとわかった。
- 原因は潮の満ち引き。地球のふくらみが月を前へ引っぱり、そのぶん地球の回転にブレーキがかかって1日が長くなる。
- 約6億2000万年前の地層は「1日が約21.9時間、1年が約400日」を記録している。ただし過去の遠ざかる速さは今より遅く、その理由はくわしくわかっていない。
01 わかっていること月は本当に地球から遠ざかっている?
本当です。月レーザー測距で、月は1年に約3.8cmずつ地球から遠ざかっていることが測られています。月までの平均の距離は約38万4400kmです。
月の軌道はもともと楕円なので、地球との距離は1か月のあいだに約35万7000kmから約40万7000kmまで変わります[6]。3.8cmは、この月ごとの変化よりずっと小さな、年ごとに少しずつ積み重なる変化です。
遠ざかる原因は潮の力です。月の引力で地球の海や地面は少しふくらみます。地球は月が回るより速く自転しているので、ふくらみは月より少し先に進み、月を前へ引っぱります。月は勢いを得て少し外側の軌道へ移り、地球の自転はそのぶん遅くなります[2]。
月がどうやって生まれたのかは、月はどうやってできたのかで書いています。ここでは、生まれたあとの月がどう動いてきたかを見ます。
02 どうやってわかったのか3.8cmはどうやって測った?
月の表面に置かれた反射鏡に地球からレーザーを当て、光が戻るまでの時間を測りました。往復約2.6秒の時間を細かく測ることで、距離の変化がわかります。
わかっているDickeyら(1994年、Science)・Williams(2000年、Reviews of Geophysics)[1][3]
月レーザー測距によると、月が遠ざかる今の速さは1年に3.82±0.07cmです。
どうやって: アポロ計画などで月に置かれた反射鏡に、地上の望遠鏡からレーザーを当て、戻ってくる光の時間を測りました。NASAによると、1回の測定で距離を約3cmの精度で測れます[7]。
わかっているWilliams・Boggs(2016年、Celestial Mechanics and Dynamical Astronomy)[2]
長年の月レーザー測距と地球の潮の知識をあわせると、月の軌道の大きさは1年に38.30±0.08mmずつ広がっています。
どうやって: 測距のデータに、地球の海と地面の潮の効き方を組み合わせて、潮による月の軌道と地球の回転の変化を計算しました。
わかっているStephensonら(2016年、Proceedings of the Royal Society A)[4]
地球の1日の長さは、平均で100年に1.8ミリ秒ずつ長くなっています。潮のブレーキだけから予想される2.3ミリ秒より少し小さい値です。
どうやって: 紀元前720年から1600年までの古い日食・月食の記録と、それ以降に月が星を隠した記録を調べました。地球の回転が一定なら日食が見えたはずの場所と、実際に記録された場所のずれから、回転の遅れを計算しました。
わかっているWells(1963年、Nature)・Williams(2000年、Reviews of Geophysics)[5][3]
約4億年前のデボン紀のサンゴの化石には、1年に約400本の日ごとの成長線が刻まれていました。南オーストラリアの約6億2000万年前の地層からは、1日が21.9±0.4時間、1年が400±7日、月までの距離が今の約96.5%だったと読み取れます。
どうやって: サンゴは毎日少しずつ育ち、成長線が年輪のように残ります。地層は、潮の満ち引きで砂や泥が薄く積もった縞(しま)の厚さの周期から、当時の1か月や1日の数を数えました。
有力な仮説Meyers・Malinverno(2018年、PNAS)[8]
約14億年前の地層の気候のリズムから、当時の1日は約18.7時間、月までの距離は約34万900kmと見積もられました。
どうやって: 地球の軌道や軸のゆらぎがつくる気候の周期(ミランコビッチ・サイクル)を地層から読み取り、統計の方法で当時の地球の回転を逆算しました。1つの地層からの見積もりで、ほかの方法での確認が待たれます。
03 数字と例えでいうと1年に3.8cmはどれくらい?
1年に3.8cmは、人の一生(80年)で約3mです。地球の1日は100年で約1.8ミリ秒長くなり、1秒長くなるには約5万6000年かかります(計算)。
| 時代 | 1日の長さ・月までの距離 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 今 | 24時間・平均約38万4400km[6] | レーザーの光で往復約2.6秒(計算) |
| 80年後 | 月は約3m遠く(3.82cm×80年で計算) | 一生かけて、部屋の天井の高さくらい |
| 約4億年前(デボン紀) | 1年に約400日[5] | 1日は約21.9時間(365.25×24÷400で計算) |
| 約6億2000万年前 | 1日21.9時間・距離は今の約96.5%[3] | 今の距離で計算すると約37万1000km |
| 約14億年前 | 1日約18.7時間・約34万900km[8] | 1日が今より5時間以上短い |
約6億2000万年前から今までの平均の遠ざかる速さは1年に約2.17cmで、今の約3.82cmの半分ほどでした[3]。今の速さのまま過去にさかのぼって計算すると、月が近すぎる時代が出てきてしまい、合いません[8]。
04 まだわかっていないこと月が遠ざかる速さは昔も同じだった?
昔は今より遅かったことは地層からわかっていますが、時代ごとに速さがどう変わったのかは、まだくわしくわかっていません。遠い過去ほど証拠が少ないためです。
- なぜ今の速さは過去の平均より速いのか今の遠ざかる速さは、6億年あまりの平均の約2倍です[3]。潮の効き方は海の形などで変わりうるため、時代ごとの速さを決めるには、昔の海の様子を正しく知る必要があります。
- 古い地層の読み方は正しいか14億年前の見積もりは1つの地層の気候のリズムから出したもので[8]、ほかの地層や方法で同じ答えが出るかの確認が続いています。
- 地球の1日の伸びが潮の予想より小さいのはなぜか実際の伸び(100年に1.8ミリ秒)は潮だけの予想(2.3ミリ秒)より小さく、氷河期のあとに地面がゆっくり戻る動きや、地球の核とマントルのやりとりが候補に挙げられています[4]。
05関連する記事
06よくある質問
月は毎年どれくらい遠ざかっている?
月レーザー測距によると、月は1年に約3.8cm(3.82±0.07cm)ずつ地球から遠ざかっています。人の一生の80年で約3mにあたります(計算)。
月が遠ざかるのはなぜ?
潮の力のためです。月の引力でできた地球のふくらみが、地球の自転で月より少し先に進み、月を前へ引っぱります。月は少しずつ外側の軌道へ移り、そのぶん地球の自転は遅くなります。
昔の地球の1日は何時間だった?
約6億2000万年前の地層からは1日が約21.9時間、約14億年前の地層からは約18.7時間という見積もりが出ています。約4億年前のサンゴの化石には、1年に約400本の日ごとの成長線がありました。
月の反射鏡は誰が置いたの?
最初の反射鏡は1969年、アポロ11号の宇宙飛行士が月面に置きました。その後の探査で置かれた反射鏡も使われ、地上からレーザーを当てる測定が今も続いています。
月はいつか地球から離れていってしまう?
月は今も少しずつ遠ざかっていますが、その速さは1年に約3.8cmで、遠い過去は今より遅かったことがわかっています。遠い未来の月の動きは、地球の海の様子なども関わるため、この記事で示せる確かな数字はありません。
出典
- Dickey, J. O., Bender, P. L., Faller, J. E., Newhall, X. X., Ricklefs, R. L., Ries, J. G., Shelus, P. J., Veillet, C., Whipple, A. L., Wiant, J. R., Williams, J. G., Yoder, C. F. (1994). Lunar Laser Ranging: A Continuing Legacy of the Apollo Program. Science 265, 482–490. https://doi.org/10.1126/science.265.5171.482
- Williams, J. G., Boggs, D. H. (2016). Secular tidal changes in lunar orbit and Earth rotation. Celestial Mechanics and Dynamical Astronomy 126, 89–129. https://doi.org/10.1007/s10569-016-9702-3
- Williams, G. E. (2000). Geological constraints on the Precambrian history of Earth's rotation and the Moon's orbit. Reviews of Geophysics 38, 37–59. https://doi.org/10.1029/1999RG900016
- Stephenson, F. R., Morrison, L. V., Hohenkerk, C. Y. (2016). Measurement of the Earth's rotation: 720 BC to AD 2015. Proceedings of the Royal Society A 472, 20160404. https://doi.org/10.1098/rspa.2016.0404
- Wells, J. W. (1963). Coral Growth and Geochronometry. Nature 197, 948–950. https://doi.org/10.1038/197948a0
- NASA Goddard Space Flight Center. Moon Fact Sheet. https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/moonfact.html
- NASA Goddard Space Flight Center. Measuring the Moon's Distance. https://eclipse.gsfc.nasa.gov/help/ApolloLaser.html
- Meyers, S. R., Malinverno, A. (2018). Proterozoic Milankovitch cycles and the history of the solar system. Proceedings of the National Academy of Sciences 115, 6363–6368. https://doi.org/10.1073/pnas.1717689115


