太陽系

もし木星がなかったら地球に生命はいたのか

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探査機ジュノーが撮影した木星
Photo: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Gerald Eichstadt/Sean Doran / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

「木星は大きな重力で彗星や小惑星をはじき飛ばし、地球を守る盾になっている」。こんな話を聞いたことがあるかもしれません。ところがコンピューターで太陽系を計算し直した研究では、木星は地球を守るどころか、小惑星を地球のほうへ送り込む役もしていることがわかってきました。木星がなかったら地球に生命がいたかどうかは、まだ誰にもわかりません。

3行でわかる

  1. 「木星は地球の盾」説は、木星の重力が遠くから来る彗星を太陽系の外へはじき出す、という考えから広まった。
  2. Horner と Jones らのシミュレーション(2008〜2010年)では、遠くから来る彗星には盾になるが、小惑星や近くの彗星については、木星がむしろ地球への衝突を増やす場合もあった。
  3. 木星は太陽系ができるときに、火星の小ささや地球の水にも関わったという説がある。木星がないと地球がどうなったかは、計算の前提によって答えが変わる。

01 わかっていること「木星は地球の盾」説は本当?

半分だけ当たっています。シミュレーションでは、木星は遠くから来る彗星を減らす盾になる一方で、小惑星帯の小惑星を地球へ送り込む役もしていました。差し引きでどちらが大きいかは、まだ決着していません。

木星は地球の約318倍の重さがある、太陽系で最も重い惑星です。その重力は、近くを通る小さな天体の通り道を大きく変えます。

「盾」説が広まったのは、地球への大きな脅威が、遠くのオールトの雲(太陽系の外側をとり巻く彗星のすみか)から来る彗星だと考えられていた時代でした。そうした彗星の多くは、最初に近づいたときに木星の重力で太陽系の外へはじき出されます[2]。

ところが今わかっている、地球に近づく天体の大部分は小惑星です[2]。小惑星を小惑星帯から地球のほうへ押し出している主な力も、木星の重力です。そこで、木星の役割を計算で確かめ直す研究が行われました。

02 どうやってわかったのか木星がない太陽系はどうやって調べたの?

本物の太陽系から木星を消すことはできないので、木星の重さだけを変えた太陽系をコンピューターで何通りも作り、地球に天体がどれだけぶつかるかを数えました。

有力な仮説Wetherill(1994年、Astrophysics and Space Science)[1]

木星ほど大きくなれず、天王星や海王星ほどで止まった惑星しかない惑星系では、地球のような惑星への衝突が今の太陽系の約1000倍になりうると論じました。

どうやって: 太陽系ができたころ、大きな惑星が小さな天体をどれだけ外へはじき出すかを考えました。「盾」説の代表的な根拠とされますが、後の研究は、この結論を確かめる研究はほとんどなかったと指摘しています[2]。

有力な仮説Horner と Jones(2008年、International Journal of Astrobiology)[2]

小惑星について計算すると、木星が今の約5分の1の重さのとき、地球への衝突がいちばん多くなりました。今の木星のときの約2倍です。逆に木星がごく軽いと、小惑星はあまり地球へ送られず、衝突は少なくなりました。

どうやって: 木星の重さを今の0.01倍から2倍まで12通りに変え、小惑星に見立てた粒の動きを1000万年分計算しました。ぶつかる数を十分に数えるため、地球を半径100万キロに大きくして計算しているので、出てくるのは「何倍か」という比べた値です。

有力な仮説Horner と Jones(2009年)、Horner, Jones, Chambers(2010年)(International Journal of Astrobiology)[3][4]

近くから来る彗星(周期の短い彗星)では、大きな惑星があるほうが地球への衝突がかえって大きく増えることが多くありました。遠くのオールトの雲から来る彗星では、木星が重いほど衝突は減り、大きな惑星がないときに最も多くなりました。

どうやって: 同じ方法で、彗星のもとになる天体の集まりごとに計算しました。「盾」になるかどうかは、どこから来る天体かで逆になります。

有力な仮説Walsh ら(2011年、Nature)、Batygin と Laughlin(2015年、PNAS)[5][6]

太陽系ができたころ、木星が太陽から約1.5天文単位(太陽と地球の距離の1.5倍)まで近づいてから戻ったとすると、火星が小さいことや、太陽のすぐ近くに惑星がないことを説明できます。

どうやって: 木星と土星が生まれたばかりのガスの円盤の中を動く様子を計算しました。「グランドタック」と呼ばれるこの動きは有力な仮説のひとつで、実際にあったかは確かめられていません。

有力な仮説Raymond と Izidoro(2017年、Icarus)[7]

木星や土星が急に大きくなるとき、まわりの氷を含む小さな天体をあちこちにはじき飛ばします。その一部が、育ちつつあった地球に水を運んだ可能性があります。

どうやって: 巨大な惑星が生まれるときの小さな天体の動きを計算しました。地球の水がどこから来たかには、ほかの説もあります。

わかっているKent ら(2018年、PNAS)[8]

木星と金星の重力で、地球の公転の道すじの形は約40万5000年ごとにゆっくり変わります。このリズムが、少なくとも2億1500万年前から地球の気候に記録されていました。

どうやって: アメリカの地層に残る気候のリズムを、地層の中の鉱物(ジルコン)の年代測定と地磁気の記録で年代づけしました。木星は今も、地球の気候の長い周期に関わっています。

03 数字と例えでいうと木星の重さが変わると、衝突はどれくらい変わる?

Horner と Jones の小惑星の計算では、木星が今の約5分の1の重さのときに衝突が最も多く、今の約2倍でした。今の木星は、今の20分の1ほどの重さの惑星とほぼ同じ程度の盾でした。

木星の重さ(今を1)地球の重さでいうと(計算)小惑星の衝突(今の木星とくらべて)
2倍約640倍今とほとんど変わらない[2]
1倍(今の木星)約318倍基準
約0.2倍約64倍(土星の約3分の2)最も多く、約2倍[2]
0.05倍約16倍(天王星や海王星くらい)今の木星とほぼ同じくらい少ない[2]
0.01倍約3倍少ない。小惑星帯で新しい惑星ができ、小惑星が減る可能性も[2]

表は小惑星だけの結果で、彗星を入れると答えは変わります[3][4]。また計算は、今の太陽系から木星の重さだけを変えたものです。木星がなければ、ほかの惑星や小惑星帯もできたときから違っていたはずですが、そこまでは計算に入っていません[2]。

04 まだわかっていないこと木星がなかったら、地球に生命はいなかった?

わかっていません。衝突の数は計算でき始めましたが、木星がない太陽系で地球が同じように生まれ、水を持ち、生命が生まれたかは、まだ計算でも観測でも答えが出ていません。

05関連する記事

06よくある質問

木星は地球の盾って本当?

半分だけ当たっています。シミュレーションでは、遠くのオールトの雲から来る彗星については、木星が重いほど地球への衝突が減りました。一方で小惑星や近くから来る彗星については、木星のような惑星がむしろ衝突を増やす場合もありました。

木星がなかったら地球に生命はいなかった?

わかっていません。木星がなかった場合の衝突の数を計算した研究はありますが、木星がない太陽系で地球が同じように生まれ、水を持ち、生命が生まれたかどうかは、計算でも観測でもまだ答えが出ていません。

木星が小さかったら、地球にぶつかる小惑星は増えた?

Horner と Jones(2008年)の計算では、木星が今の約5分の1の重さのとき、小惑星の衝突が最も多く、今の約2倍になりました。ただし木星がごく軽いと、小惑星はあまり地球へ送られず、衝突は少なくなりました。

木星は今も地球に影響している?

しています。木星と金星の重力で地球の公転の道すじの形は約40万5000年ごとに変わり、そのリズムが少なくとも2億1500万年前から地球の気候に記録されていることが、地層の研究でわかっています。

出典

  1. Wetherill, G. W. (1994). Possible consequences of absence of “Jupiters” in planetary systems. Astrophysics and Space Science 212, 23–32. https://doi.org/10.1007/BF00984505
  2. Horner, J., Jones, B. W. (2008). Jupiter – friend or foe? I: The asteroids. International Journal of Astrobiology 7, 251–261. https://doi.org/10.1017/S1473550408004187
  3. Horner, J., Jones, B. W. (2009). Jupiter – friend or foe? II: the Centaurs. International Journal of Astrobiology 8, 75–80. https://doi.org/10.1017/S1473550408004357
  4. Horner, J., Jones, B. W., Chambers, J. (2010). Jupiter – friend or foe? III: the Oort cloud comets. International Journal of Astrobiology 9, 1–10. https://doi.org/10.1017/S1473550409990346
  5. Walsh, K. J., Morbidelli, A., Raymond, S. N., O'Brien, D. P., Mandell, A. M. (2011). A low mass for Mars from Jupiter's early gas-driven migration. Nature 475, 206–209. https://doi.org/10.1038/nature10201
  6. Batygin, K., Laughlin, G. (2015). Jupiter's decisive role in the inner Solar System's early evolution. Proceedings of the National Academy of Sciences 112, 4214–4217. https://doi.org/10.1073/pnas.1423252112
  7. Raymond, S. N., Izidoro, A. (2017). Origin of water in the inner Solar System: Planetesimals scattered inward during Jupiter and Saturn's rapid gas accretion. Icarus 297, 134–148. https://doi.org/10.1016/j.icarus.2017.06.030
  8. Kent, D. V., Olsen, P. E., Rasmussen, C., et al. (2018). Empirical evidence for stability of the 405-kiloyear Jupiter–Venus eccentricity cycle over hundreds of millions of years. Proceedings of the National Academy of Sciences 115, 6153–6158. https://doi.org/10.1073/pnas.1800891115