宇宙の始まりと終わり

もし宇宙の広がる速さが違ったら、星や銀河はできたのか

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たくさんの銀河が集まった銀河団
Photo: NASA, ESA, J. Merten (Institute for Theoretical Astrophysics, Heidelberg/Astrono / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

宇宙は今も広がっていて、その広がりはダークエネルギーによって速まっています。もしこの「広げる力」がもっと強かったら、星や銀河は生まれたのでしょうか。これは想像だけの話ではなく、1987年から計算とシミュレーションで調べられてきた問いです。この記事では、計算でわかっていることだけを書き、想像は想像と分けます。

3行でわかる

  1. ダークエネルギー(宇宙の広がりを速める正体不明のもの)がずっと強いと、物質が重力で集まる前に宇宙が広がりすぎて、銀河ができない。Weinberg(1987年)が計算でその上限を示した。
  2. ただし上限は意外に大きい。今の10倍に強くしても、星のでき方への影響は小さいというシミュレーションがある(Barnesら 2018年)。
  3. 答えは、宇宙のはじめの「むら」の大きさにも左右される(Tegmark・Rees 1998年)。「人がいるから宇宙の値はこうなっている」という人間原理は、考え方の1つで、確かめられた事実ではない。

01 わかっていること広がる速さが違うと、なぜ星ができなくなるの?

星や銀河は、宇宙のはじめの小さなむらに物質が重力で集まってできました。宇宙が速く広がりすぎると、物質が集まりきる前に引き離されてしまいます。逆に、物質が多すぎて広がりにブレーキがかかりすぎると、宇宙は広がるのをやめてつぶれることもあります[1]。

宇宙の広がり方は、中に入っている物質とダークエネルギーの量で決まります。物質は重力で広がりにブレーキをかけ、ダークエネルギーは広がりを速めます。今の宇宙では、ダークエネルギーが中身の約69%、物質が約31%です[6]。

物質が集まって銀河になるのは、ブレーキ役の物質が多かった時代です。ダークエネルギーの効果が強くなるのが早すぎると、その時代が短くなり、銀河が育つ時間がなくなります[1]。

02 どうやってわかったのかどんな計算で確かめたの?

1987年のWeinbergの計算から始まり、ダークエネルギーの強さを変えた宇宙で物質がどれだけ集まるかが調べられてきました。2018年には、銀河づくりの細かいシミュレーションで、今の300倍までの宇宙が計算されています。

わかっているWeinberg(1987年、Physical Review Letters)[1]

宇宙がつぶれない場合、ダークエネルギー(宇宙定数)の強さの上限は「重力で固まった天体ができなくなるほど強くはない」ことだけだと示しました。その上限はかなり大きい、と結論しています。

どうやって: 宇宙のむらの育ち方を、宇宙定数を変えて計算しました。論文は、人間原理だけでは宇宙定数がなぜこんなに小さいのかは説明できないかもしれない、とも書いています。

有力な仮説Martel・Shapiro・Weinberg(1998年、The Astrophysical Journal)[2]

どの強さも同じくらいありえると仮定して、観測者が見そうなダークエネルギーの強さを計算しました。答えは「小さくて正、今の物質の濃さの約3倍まで」でした。

どうやって: 物質が十分大きなかたまりに集まる割合を、単純化した計算で求めました。実際の宇宙ではダークエネルギーは物質の約2.2倍で[6]、この範囲に入ります。ただし「どの強さも同じくらいありえる」という前提は確かめようがありません。

わかっているBarnesら(2018年)・Salcidoら(2018年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[3][4]

ダークエネルギーを0から今の300倍まで変えた宇宙を計算すると、10倍に強くしても星のでき方への影響は小さいとわかりました。私たちの宇宙でも、ダークエネルギーが星の総数を減らすのは、これから先を含めて約15%だけです。

どうやって: 銀河の誕生をガスや星、ブラックホールの働きまで含めて計算する「EAGLE」というシミュレーションを使いました。星づくりは宇宙が約35億歳のころにピークを迎えていて、それは広がりが速まり始めるより前だったことが理由です。

有力な仮説Tegmark・Rees(1998年、The Astrophysical Journal)[5]

宇宙のはじめのむらの大きさ(Q、今の宇宙では約10万分の1)が10のマイナス6乗より小さいと、ガスが冷えて星になれない。10のマイナス4乗より大きいと、星が密集しすぎて惑星の軌道が乱れやすいと見積もりました。

どうやって: 天体の温度やガスの冷え方を、基本的な物理定数から見積もりました。むらが大きければ、ダークエネルギーが強くても物質は早く集まれるので、「広がる速さの上限」はむらの大きさしだいで変わる、と指摘しています。

このサイトの宇宙をつくるシミュレーターでは、ダークエネルギーの量やむらの大きさを変えて、星ができる宇宙になるかを試せます。シミュレーターは単純化した計算なので、結果は目安です。

03 数字と例えでいうとどれくらい違うと星ができなくなる?

ダークエネルギーが今の10倍でも、星のでき方はあまり変わらないと計算されています。どこで星ができなくなるかの境目は、宇宙のはじめのむらの大きさしだいで、1つの数字には決まりません。

もしも計算や観測での答えどれくらい確か?
ダークエネルギーが0だったら今の宇宙とほぼ同じように星ができた。違いが出るのは主にこれから先で、星の総数で約15%[4]シミュレーション
ダークエネルギーが今の10倍星のでき方への影響は小さい[3]シミュレーション
ダークエネルギーが今の300倍計算した範囲の上限。論文の要旨には、どこで星ができなくなるかは書かれていない[3]シミュレーション
むらQが10のマイナス6乗より小さいガスが冷えず、星や銀河がほとんどできない[5]見積もり
むらQが10のマイナス4乗より大きい星が密集し、惑星の軌道が乱れやすい[5]見積もり
実際の宇宙ダークエネルギーは物質の約2.2倍(中身の約69%)[6]観測

「約2.2倍」は、Planck衛星の観測値(ダークエネルギー68.5%、物質31.5%)の比から計算しました。

04 まだわかっていないことなぜ私たちの宇宙は、この速さなの?

なぜダークエネルギーが今の強さなのかは、わかっていません。素粒子の理論から見積もると、観測より何けたも大きくなってしまい、その差を説明する理論はまだありません[7]。

05関連する記事

06よくある質問

宇宙の膨張がもっと速かったら、星は生まれなかった?

ダークエネルギーがずっと強ければ、物質が集まる前に宇宙が広がりすぎて、銀河や星はできないと計算されています(Weinberg 1987)。ただし今の10倍程度なら、星のでき方への影響は小さいというシミュレーションもあります(Barnesら 2018)。

ダークエネルギーがなかったら、宇宙はどうなっていた?

EAGLEシミュレーションでは、ダークエネルギーがない宇宙でも、今までの星のでき方はほぼ同じでした。違いが出るのは主にこれから先で、星の総数が約15%変わる程度と計算されています(Salcidoら 2018)。

人間原理とは何?

「星や人が生まれる宇宙でなければ観測する人がいないので、宇宙の値はその範囲にある」という考え方です。ほかの値の宇宙があるかを確かめる方法がないため、確かめられた事実ではなく、説明の1つの考え方として扱われています。

宇宙の値を変えて試せる道具はある?

このサイトの「宇宙をつくるシミュレーター」で、物質・ダークエネルギー・むらの大きさを変えて、ビッグバンから星ができるかを試せます。登録不要で、ブラウザの中だけで計算します。単純化した計算なので、結果は目安です。

出典

  1. Weinberg, S. (1987). Anthropic Bound on the Cosmological Constant. Physical Review Letters 59, 2607–2610. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.59.2607
  2. Martel, H., Shapiro, P. R., Weinberg, S. (1998). Likely Values of the Cosmological Constant. The Astrophysical Journal 492, 29–40. https://doi.org/10.1086/305016
  3. Barnes, L. A., Elahi, P. J., Salcido, J., Bower, R. G., et al. (2018). Galaxy formation efficiency and the multiverse explanation of the cosmological constant with EAGLE simulations. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 477, 3727–3743. https://doi.org/10.1093/mnras/sty846
  4. Salcido, J., Bower, R. G., Barnes, L. A., Lewis, G. F., et al. (2018). The impact of dark energy on galaxy formation. What does the future of our Universe hold? Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 477, 3744–3759. https://doi.org/10.1093/mnras/sty879
  5. Tegmark, M., Rees, M. J. (1998). Why Is the Cosmic Microwave Background Fluctuation Level 10^-5? The Astrophysical Journal 499, 526–532. https://doi.org/10.1086/305673
  6. Planck Collaboration: Aghanim, N., et al. (2020). Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters. Astronomy & Astrophysics 641, A6. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833910
  7. Weinberg, S. (1989). The cosmological constant problem. Reviews of Modern Physics 61, 1–23. https://doi.org/10.1103/RevModPhys.61.1