宇宙の始まりと終わり

インフレーション理論とは何か、宇宙が一瞬で膨らんだ証拠はあるのか

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南極点の観測基地(原始重力波を探すBICEP望遠鏡がある場所)
Photo: Christopher Michel / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

宇宙のどの方向を見ても、ビッグバンの名残の電波はほぼ同じ温度です。互いに一度も触れ合えなかったはずの場所どうしなのに、です。この不思議を説明するために1981年に提案されたのが、インフレーション理論です。観測とよく合う有力な仮説ですが、決め手の証拠はまだ見つかっていません。

3行でわかる

  1. インフレーションは、熱いビッグバンの直前に、宇宙がほんの一瞬で何十けたも大きく引き伸ばされたとする仮説。1981年にグースが提案し、同じ年に佐藤勝彦も似た考えを発表した。
  2. 宇宙がほぼ平らなことや、宇宙全体から届く電波の温度のむらの性質は、プランク衛星の観測でインフレーションの予測と合っている。
  3. 決め手とされる原始重力波は、2021年の解析でも見つかっていない。2014年に「見つけた」という発表があったが、銀河のちりの影響を除くと、確かな証拠は残らなかった。

01 わかっていることインフレーション理論とは何?

インフレーションは、熱いビッグバンが始まる直前に、宇宙がごく短い時間で何十けたも大きく引き伸ばされたという仮説です。今の宇宙が、どこでも同じようにそろっていて平らな理由を説明できます。

ここでいうインフレーションは、物価ではなく宇宙のふくらみのことです。ふつうのビッグバンの考えだけでは、説明しにくい謎が2つありました。

1つ目は、宇宙の反対側どうしの温度がそろっていることです。宇宙全体から届く電波の温度は、どの方向でも2.726Kです[12]。ふつうのビッグバンの計算では、空の反対側どうしは光が行き来する時間がなく、温度をそろえ合えなかったはずです。

2つ目は、宇宙がとても平らなことです。グースは1981年、宇宙の初めに急激な膨張があれば両方を説明できると提案しました[1]。小さくよく混ざった場所が一気に引き伸ばされたなら、見える範囲が全部そろっていても不思議はありません。風船を大きく膨らませると、表面の一部が平らに見えるのと似ています。

02 どうやってわかったのか宇宙が一瞬で膨らんだ証拠はあるの?

間接的な証拠はあります。宇宙が平らなことや、温度のむらの性質は、インフレーションの予測と合います。ただし、インフレーションを決定づける原始重力波は、まだ見つかっていません。

有力な仮説Guth(1981年、Physical Review D)[1]/佐藤勝彦(1981年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[2]

宇宙の初めに、真空の状態が切りかわるときのエネルギーで、宇宙が急激に膨張したという考えを、それぞれ発表しました。グースはこれを「インフレーション」と名づけました。

どうやって: 理論の提案です。最初の形には膨張をうまく終わらせにくい問題があり、1982年にリンデ[3]や、アルブレヒトとスタインハート[4]が改良した形を発表しました。

わかっているPlanck Collaboration(2020年、Astronomy & Astrophysics)[5]

温度のむらの強さは、大きな広がりほどわずかに強く、その傾きを表す数は0.9649(誤差0.0042)でした。どの大きさでも同じ強さ(ちょうど1)という単純な形は、誤差の8.4倍の差で否定されました。ほかの観測と合わせると、宇宙は0.4%の精度で平らでした。

どうやって: ESAのプランク衛星で、宇宙全体から届く電波の温度と偏り(偏光)を全天で測りました。論文は、この結果がゆっくり進むタイプのインフレーションと合うと書いています。ただし、ほかの説明を完全に否定したわけではありません。

わかっていないBICEP2(2014年)[6]/BICEP2・Keck Arrayとプランクの共同解析(2015年、どちらも Physical Review Letters)[7]

2014年、南極の望遠鏡BICEP2が、原始重力波の強さ r=0.20 にあたる信号を報告しました。翌年、プランクのデータと合わせて調べると、銀河のちりの強い証拠が見つかり、原始重力波の確かな証拠は残りませんでした。2014年の「見つかった」という報告は、ちりの影響を十分に取り除けていなかったとわかり、取り下げに近い形になりました。原始重力波があるかどうかは、今もわかっていません。

どうやって: 天の川銀河のちりも、よく似た偏光を出します。ちりがよく見える高い周波数のプランクの地図と比べ、ちりの分を差し引きました。

わかっていないBICEP/Keck Collaboration(2021年、Physical Review Letters)[8]

2018年までの観測をすべて使っても、原始重力波は見つかりませんでした。強さ r は0.036より小さい(95%の確かさ)という、これまでで最も厳しい上限がつきました。

どうやって: 南極の3つの観測装置(BICEP2・Keck Array・BICEP3)の偏光の地図を、プランクとNASAの衛星WMAPの地図と合わせて解析し、ちりなどの影響を取り除きました。

03 数字と例えでいうとどれくらい膨らんだの?

よく使われる見積もりでは、少なくとも約50〜60回、大きさが約2.7倍になることをくり返しました。60回なら約10の26乗倍で、1センチが約1.2億光年になる計算です。

項目値身近な例えでいうと
膨らんだ回数(約2.7倍を1回として)約50〜60回[5]プランクの解析で使われている幅
何倍に広がったか50回で約5×10の21乗倍、60回で約1×10の26乗倍(計算)60回なら、1センチが約1.2億光年に
電波の温度のむら約10万分の1[9]2.726Kのうち、0.00003Kほどの差
むらの傾き0.9649(誤差0.0042)[5]ちょうど1との差は誤差の8倍以上
原始重力波の強さ r0.036未満[8]2014年に報告された0.20の5分の1より小さい
次の衛星LiteBIRDの目標r を0.001の精度で測る[11]今の上限より、さらに弱い信号まで探せる

「何倍に広がったか」は、約2.7倍(e倍)を50回または60回かけ合わせて計算しました。1光年は約9.46兆kmとしています。プランクの数字は、インフレーションのどの時点から数えるかで少し変わる目安です。

04 まだわかっていないことインフレーションは本当に起きたの?

本当に起きたのか、何が宇宙を膨らませたのかは、まだわかっていません。原始重力波が見つかれば強い証拠になりますが、見つからなくても、重力波がとても弱くなるタイプのモデルは残ります。

05関連する記事

06よくある質問

インフレーション理論とは簡単に言うと?

熱いビッグバンの直前に、宇宙がほんの一瞬で何十けたも大きく引き伸ばされたという考えです。1981年にグースが提案しました。宇宙がどこでも同じ温度で、とても平らな理由を説明できる、有力な仮説です。

インフレーションの証拠はあるの?

間接的な証拠はあります。プランク衛星の観測で、宇宙が0.4%の精度で平らなことや、温度のむらの傾きが0.9649で1よりわずかに小さいことがわかり、インフレーションの予測と合っています。ただし決め手の原始重力波は見つかっていません。

原始重力波とは何?

インフレーションのときにできたと考えられている、空間のさざ波です。宇宙全体から届く電波に、特別な偏光の模様を残すはずです。2021年の解析でも見つからず、強さ r は0.036より小さいという上限がつきました。

インフレーションとビッグバンの違いは?

ビッグバンは、宇宙が熱く詰まった状態から広がって冷えてきたという考えで、観測で確かめられています。インフレーションは、その熱いビッグバンの直前に起きたとされる急な膨張で、有力な仮説の段階です。

出典

  1. Guth, A. H. (1981). Inflationary universe: A possible solution to the horizon and flatness problems. Physical Review D 23, 347–356. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.23.347
  2. Sato, K. (1981). First-order phase transition of a vacuum and the expansion of the Universe. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 195, 467–479. https://doi.org/10.1093/mnras/195.3.467
  3. Linde, A. D. (1982). A new inflationary universe scenario: A possible solution of the horizon, flatness, homogeneity, isotropy and primordial monopole problems. Physics Letters B 108, 389–393. https://doi.org/10.1016/0370-2693(82)91219-9
  4. Albrecht, A., Steinhardt, P. J. (1982). Cosmology for Grand Unified Theories with Radiatively Induced Symmetry Breaking. Physical Review Letters 48, 1220–1223. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.48.1220
  5. Planck Collaboration (2020). Planck 2018 results. X. Constraints on inflation. Astronomy & Astrophysics 641, A10. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833887
  6. BICEP2 Collaboration (2014). Detection of B-Mode Polarization at Degree Angular Scales by BICEP2. Physical Review Letters 112, 241101. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.112.241101
  7. BICEP2/Keck and Planck Collaborations (2015). Joint Analysis of BICEP2/Keck Array and Planck Data. Physical Review Letters 114, 101301. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.114.101301
  8. BICEP/Keck Collaboration (2021). Improved Constraints on Primordial Gravitational Waves using Planck, WMAP, and BICEP/Keck Observations through the 2018 Observing Season. Physical Review Letters 127, 151301. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.151301
  9. ESA. Planck and the cosmic microwave background. https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Planck/Planck_and_the_cosmic_microwave_background
  10. JAXA 宇宙科学研究所. マイクロ波背景放射偏光観測宇宙望遠鏡(LiteBIRD). https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/future/litebird.html
  11. Kavli IPMU(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構). LiteBIRD. https://www.ipmu.jp/ja/research-activities/research-program/litebird
  12. Fixsen, D. J. (2009). The Temperature of the Cosmic Microwave Background. The Astrophysical Journal 707, 916–920. https://doi.org/10.1088/0004-637X/707/2/916