夜空に見える星は、もう存在しないのか

「今見ている星の光は昔の光だから、その星はもう消えているかもしれない」。よく聞く話です。光が届くのに時間がかかるのは本当です。では、実際に消えている星はどれくらいあるのか。衛星が測った星の距離と、星の寿命の数字で確かめます。
3行でわかる
- ヒッパルコス衛星のデータで、6等より明るい約5000個の星の距離を数えると、半分は約355光年より近く、約9割が1000光年以内だった(SEADICEが集計)。
- 星の寿命は、重い星で数百万年、軽い星では何兆年にもなる。太陽もあと数十億年は輝く。光が届くまでの数百年は、寿命に比べてとても短い。
- だから肉眼で見える星が「もう消えている」可能性はとても小さい。ベテルギウスでも、研究の見積もりを使うと1%に届かない。ただしベテルギウスの最期の時期は研究で意見が割れている。
01 わかっていること夜空に見える星は、もう消えているの?
肉眼で見える星のほとんどは、今も存在していると考えられます。星までの距離はほぼ数百〜千数百光年で、光が届くまでの時間が、星の寿命の数百万〜数十億年よりずっと短いからです。
NASAによると、星の寿命は重い星の数百万年から、軽い星の何兆年までさまざまです[10]。光は1年に約9.5兆キロ進みます。この距離が1光年です。400光年先の星の光は、400年前に星を出た光です。
「もう消えているかも」と言えるのは、光が届くまでの間に、星が一生を終えた場合だけです。そこで、星までの距離(光が届くまでの年数)と、星の寿命を比べます。
星の明るさの決まりや、肉眼で何等星まで見えるかは1等星と6等星はどれくらい明るさが違うのかにまとめています。
02 どうやってわかったのか肉眼で見える星までの距離は、どうやってわかったの?
ヨーロッパ宇宙機関のヒッパルコス衛星が、地球の公転で星の見える位置がわずかにずれる角度(年周視差)を測りました。その値から、肉眼で見える星のほとんどの距離がわかっています。
わかっているヒッパルコス星表(ESA 1997年)と van Leeuwen(2007年、Astronomy & Astrophysics)をSEADICEが集計[1][2]
6等より明るい星4992個のうち、約355光年より近い星が半分、500光年以内が約68%、1000光年以内が約89%、2000光年以内が約96%でした。
どうやって: 星表の明るさ(V等級6.0未満)の星を選び、2007年に計算し直された年周視差から距離を出して数えました。年周視差が誤差の5倍より小さい星が約5%あり、遠い星ほど距離のずれが大きくなります。
有力な仮説Joyceら(2020年、The Astrophysical Journal)・Kavli IPMU(2021年)[3][5]
ベテルギウスの距離を約168パーセク(約550光年)と見積もりました。今はヘリウムを燃やす段階の初めのほうで、爆発まで10万年以上あるとしています。
どうやって: 明るさの変化の観測と、星の内部の計算を組み合わせました。電波の観測を使った別の研究では約222パーセク(約720光年)と、距離の見積もりは割れています[4]。
有力な仮説Saioら(2023年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[9]
ベテルギウスの明るさの4つの周期を説明できるのは、中心で炭素を燃やす段階の終わりに近い星だとしました。次に天の川銀河で起きる超新星の候補だとしています。
どうやって: 星の脈動(ふくらんだり縮んだりする動き)を計算し、観測された周期と比べました。爆発が何年後かは数字で示していません。
わかっているArnettら(1989年、Annual Review of Astronomy and Astrophysics)・Pietrzyńskiら(2019年、Nature)[7][8]
1987年に大マゼラン雲で超新星SN 1987Aが肉眼で見えました。爆発した星は、それ以前から写真に写っていた青い超巨星でした。大マゼラン雲までは約49.6キロパーセク(約16万光年)です。
どうやって: 爆発の前後の写真と光の観測を比べ、もとの星を突き止めました。距離は大マゼラン雲の中の連星を使って約1%の精度で測られました。
SN 1987Aは、「光が届いたとき、その星はもう爆発していた」ことを確かめた例です。ただし約16万光年先の別の銀河の星で、ふだん夜空に見えている星ではありません。
03 数字と例えでいうともう消えている確率は、どれくらい?
太陽のような星が355光年先にあるなら、光が届く間に寿命が尽きている確率は約1400万分の1です(単純な計算)。爆発が近いといわれるベテルギウスでも、10万年後とする見積もりを使うと約0.5〜0.7%です。
| 星 | 距離(光が届く年数) | もう消えている可能性 |
|---|---|---|
| シリウス | 約9光年[1] | 9年前の光。ほぼゼロ |
| ベガ(織姫星) | 約25光年[1] | 25年前の光。ほぼゼロ |
| 北極星 | 約430光年[1] | 安土桃山時代ごろに出た光 |
| ベテルギウス | 約550〜720光年[3][4] | 爆発まで10万年以上なら、0.55〜0.72%以下(計算) |
| リゲル | 約860光年[1] | 平安時代の終わりごろに出た光 |
| デネブ | 約1200〜1600光年[1] | 距離の誤差が大きい遠い星 |
| 太陽のような星(例え) | 355光年(肉眼の星の真ん中の距離) | 残り50億年なら約1400万分の1(計算) |
確率は「光が届く年数 ÷ 残りの寿命」で、最期の時期がどの年にも同じくらいありうるとした、単純な見積もりです。太陽が赤色巨星としての最後の段階に向かうのは約76億年後と計算されていて[6]、太陽のような星の残り寿命は数十億年の単位です。重い星でも寿命は数百万年あります[10]。
北極星・リゲル・デネブの距離は、2007年版のヒッパルコスの年周視差から計算しました。光年は1パーセクを約3.26光年として計算しています。
04 まだわかっていないこともう消えている星について、まだわからないことは?
いちばん大きな謎は、ベテルギウスのような重い星がいつ一生を終えるかです。研究によって「10万年以上先」と「最後の段階に近い」が割れていて、「もう爆発しているか」の確率も決められません。
- ベテルギウスはいつ爆発するのか10万年以上先とする研究[3][5]と、中心で炭素を燃やす段階の終わりに近いとする研究[9]があります。後者が正しければ確率はずっと高くなりますが、何年後かは示されていません。くわしくはベテルギウスはいつ爆発するのかへ。
- 遠い星の本当の距離1000光年を超える星は年周視差がとても小さく、ヒッパルコスでは距離のずれが大きくなります[1]。デネブのような星の距離は、今も見積もりに幅があります。
- 爆発の前ぶれはつかめるのかSN 1987Aでは、爆発の前に青い超巨星が写っていましたが、爆発を前もって知ることはできませんでした[7]。重い星が最期の何年前に何を起こすのかは、まだよくわかっていません。
05関連する記事
06よくある質問
夜空の星はもう消えているって本当?
ほとんどの星は今も存在していると考えられます。肉眼で見える星の約9割は1000光年以内にあり、光が届くまでの時間は、数百万〜数十億年という星の寿命よりずっと短いからです。
肉眼で見える星はどれくらい遠いの?
ヒッパルコス衛星のデータで6等より明るい約5000個を数えると、真ん中の距離は約355光年で、約9割が1000光年以内でした。いちばん明るい恒星のシリウスは約9光年です。
ベテルギウスはもう爆発している?
わかっていませんが、確率は小さいと考えられます。爆発まで10万年以上とする研究の見積もりを使うと、距離約550〜720光年の光が届く間に爆発している確率は1%未満です。ただし、最期が近いとする研究もあります。
もう存在しない星を見たことはある?
あります。1987年に大マゼラン雲で見えた超新星SN 1987Aは、約16万光年先の星が爆発した光でした。光が地球に届いたとき、その星はすでに爆発していました。
出典
- van Leeuwen, F. (2007). Validation of the new Hipparcos reduction. Astronomy & Astrophysics 474, 653–664.(カタログ I/311、VizieR) https://doi.org/10.1051/0004-6361:20078357
- ESA (1997). The Hipparcos and Tycho Catalogues. ESA SP-1200(カタログ I/239、VizieR). https://cdsarc.cds.unistra.fr/viz-bin/cat/I/239
- Joyce, M., Leung, S.-C., Molnár, L., Ireland, M., Kobayashi, C., Nomoto, K. (2020). Standing on the Shoulders of Giants: New Mass and Distance Estimates for Betelgeuse through Combined Evolutionary, Asteroseismic, and Hydrodynamic Simulations with MESA. The Astrophysical Journal 902, 63. https://doi.org/10.3847/1538-4357/abb8db
- Harper, G. M., Brown, A., Guinan, E. F., O'Gorman, E., et al. (2017). An Updated 2017 Astrometric Solution for Betelgeuse. The Astronomical Journal 154, 11. https://doi.org/10.3847/1538-3881/aa6ff9
- Kavli IPMU (2021). Study of Supergiant Star Betelgeuse Unveils the Cause of its Pulsations; Recalibrated its Mass, Radius, and Distance. https://www.ipmu.jp/en/node/8466
- Schröder, K.-P., Smith, R. C. (2008). Distant future of the Sun and Earth revisited. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 386, 155–163. https://doi.org/10.1111/j.1365-2966.2008.13022.x
- Arnett, W. D., Bahcall, J. N., Kirshner, R. P., Woosley, S. E. (1989). Supernova 1987A. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 27, 629–700. https://doi.org/10.1146/annurev.aa.27.090189.003213
- Pietrzyński, G., Graczyk, D., Gallenne, A., Gieren, W., et al. (2019). A distance to the Large Magellanic Cloud that is precise to one per cent. Nature 567, 200–203. https://doi.org/10.1038/s41586-019-0999-4
- Saio, H., Nandal, D., Meynet, G., Ekström, S. (2023). The evolutionary stage of Betelgeuse inferred from its pulsation periods. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 526, 2765–2775. https://doi.org/10.1093/mnras/stad2949
- NASA Science. Stars. https://science.nasa.gov/universe/stars/


