ブラックホール

ブラックホールの「音」とは何か、ペルセウス座銀河団の音波

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ペルセウス座銀河団の中心のX線画像
Photo: NASA/SAO / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

「宇宙は真空だから音はない」とよく言われます。ところが2003年、ペルセウス座銀河団の中心にあるブラックホールのまわりで、ガスを伝わる音の波が見つかりました。その高さは「シのフラット、中央のドより57オクターブ下」と発表されています。この記事では、何が観測されたのか、NASAが2022年に出した「ブラックホールの音」は何なのかを分けて書きます。

3行でわかる

  1. ペルセウス座銀河団の中心では、ブラックホールが噴き出した泡がまわりの熱いガスを押し、波紋のような圧力の波(音波)が広がっている。X線の観測で見つかった。
  2. 波の間隔は約3万6000光年、1回揺れるのに約1000万年かかる(論文の見積もり)。人が聞ける最も低い音よりおよそ6000兆倍低い(計算)。
  3. NASAの2022年の音声は、この波を57〜58オクターブ上げて人の耳に聞こえる高さに直したもの。宇宙で実際にこの音が聞こえるわけではない。

01 わかっていることブラックホールは本当に音を出している?

ブラックホール自体が鳴っているのではありません。ブラックホールが噴き出したエネルギーが、まわりのガスを押して波を起こしています。その波は空気中の音と同じ「圧力の波」なので、音波と呼ばれます。

音は、空気や水のような物質が押されたり戻ったりして伝わる波です。ふつうの宇宙空間は物質がほとんどないため、音はほぼ伝わりません[5]。

ところが銀河団(何百もの銀河の集まり)の中は、温度が数千万度の薄いガスで満たされています。ペルセウス座銀河団は地球から約2億5000万光年の所にあり、中心の銀河NGC 1275に巨大なブラックホールがあります[4]。

このブラックホールから出た噴流が、ガスの中に泡(空洞)をふくらませます。泡が広がるときにまわりのガスが押され、池に石を投げたときのような波紋が外へ広がっていきます[1]。

02 どうやってわかったのか見えない音の波をどうやって見つけたの?

X線望遠鏡チャンドラで、銀河団のガスが出すX線を長い時間撮り、明るさのわずかなむらを強調しました。すると、中心から同心円のように並ぶ波紋が浮かび上がりました。

わかっているFabianら(2003年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[1]

ペルセウス座銀河団の中心で、泡の外側に弱い衝撃波と、ほぼ等間隔の波紋が見つかりました。波紋を音波とみなすと、間隔は約11キロパーセク(約3万6000光年)、伝わる速さは秒速約1170キロ、1回揺れるのにかかる時間は約960万年です。

どうやって: チャンドラで約20万秒(約53時間)観測し、なめらかにした画像との差をとって、わずかな明るさのむらを取り出しました。速さは温度(約5keV、約5800万度)から計算した音の速さで、周期はそこからの見積もりです。

わかっているFabianら(2006年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[2]

さらに長い観測で圧力の地図を作ると、泡のまわりに高い圧力の帯と、外側の鋭いふち(衝撃波)が見えました。波紋は圧力の波、つまり音波だと確かめられました。

どうやって: X線の明るさと色(ガスの温度)から、場所ごとの圧力を計算しました。波紋の振れ幅から、音波がガスをあたためる熱源になりうると見積もっています。

有力な仮説Fabian(2012年、Annual Review of Astronomy and Astrophysics)[3]

銀河団の中心のガスは、本来なら冷えて星がたくさん生まれるはずなのに、そうなっていません。ブラックホールのエネルギーがガスをあたため、冷えるのを止めているという考えが有力です。音波はその運び手の候補の1つです。

どうやって: 多くの銀河団のX線・電波の観測をまとめたレビュー論文です。熱がどんな仕組みでガス全体に行きわたるのかは、まだ決着していません。

わかっているNASAチャンドラX線センター(2022年に公開した音声化)[5][6]

ネットで聞ける「ブラックホールの音」は録音ではありません。ペルセウス座銀河団の音声は、画像から取り出した本物の波を57オクターブと58オクターブ上げ、もとの高さの約14.4京倍と約28.8京倍(2の57乗と2の58乗)にして、人に聞こえるようにしたものです。

どうやって: 中心から外向きに波を取り出し、レーダーのように向きを回して音にしました。同じころ公開されたM87銀河の音声は作り方がちがい、画像の明るい所を大きな音、中心から遠い所を高い音に置きかえたもので、実際の音波ではありません。

ペルセウス座銀河団の音波は「観測で見つかった本物の圧力の波」です。ネットで聞ける音声は「聞こえる高さに直したもの」か「画像を音に置きかえたもの」です。どちらも、宇宙で耳に届く音そのものではありません。

03 数字と例えでいうとどれくらい低い音なの?

1回揺れるのに約1000万年かかる、とてつもなく低い音です。人が聞ける最も低い音(約20ヘルツ)より、およそ6000兆倍低い計算になります。

項目値身近な例えでいうと
波の間隔(波長)約11キロパーセク(約3万6000光年)[1]光の速さで進んでも3万6000年かかる距離
1回揺れる時間(周期)約960万年[1]振動数は約0.0000000000000033ヘルツ(計算)。人が聞ける最も低い音の約6000兆分の1
音の高さシのフラット、中央のドより57オクターブ下[4]1オクターブ下がるごとに振動数は半分。57回半分にすると約14京分の1(2の57乗)
音の速さ秒速約1170キロ[1]空気中の音(秒速約340メートル)の約3400倍。ガスが約5800万度と熱いため
ガスの濃さ1立方センチに約0.03個のイオン[1]地上の空気の約10の21乗分の1という薄さ(計算)。それでも音が伝わる

振動数は周期から、空気との比は地上の空気の分子の数(1立方センチに約2.7×10の19乗個)から計算しました。チャンドラの発表では、この音は人の耳の限界より「100万の10億倍以上」低いとされています[4]。

04 まだわかっていないこと音の波はガスを本当にあたためているの?

音波がどれくらいの熱をガスに渡しているのかは、まだ決まっていません。音波のほかに、ガスのかき混ぜ(乱流)や熱の伝わりも候補にあり、割合はわかっていません。

05関連する記事

06よくある質問

宇宙には音がないって本当?

ほとんどの宇宙空間は物質が少なすぎて、音はほぼ伝わりません。ただし銀河団の中のように熱いガスが満ちている場所では、ガスを伝わる圧力の波(音波)があります。ペルセウス座銀河団では、チャンドラX線望遠鏡がその波を見つけました。

ブラックホールの音は人の耳で聞こえる?

聞こえません。ペルセウス座銀河団の音波は1回揺れるのに約1000万年かかり、人が聞ける最も低い音よりおよそ6000兆倍低い計算です。NASAが公開した音声は、57〜58オクターブ上げて聞こえる高さに直したものです。

「シのフラットの57オクターブ下」とはどういう意味?

2003年にチャンドラの研究チームが発表した、音波の高さの言い方です。ピアノのシのフラットの音から、振動数を半分にすることを57回くり返した高さにあたります。音階で表した例えで、実際に耳で聞いた音ではありません。

NASAのブラックホールの音は作り物なの?

ペルセウス座銀河団の音声は、観測で見つかった本物の圧力の波を、人に聞こえる高さに上げたものです。録音ではありませんが、データからまったく別の音を作ったわけでもありません。M87銀河の音声は、画像の明るさや位置を音に置きかえたもので、作り方がちがいます。

出典

  1. Fabian, A. C., Sanders, J. S., Allen, S. W., Crawford, C. S., et al. (2003). A deep Chandra observation of the Perseus cluster: shocks and ripples. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 344, L43–L47. https://doi.org/10.1046/j.1365-8711.2003.06902.x
  2. Fabian, A. C., Sanders, J. S., Taylor, G. B., Allen, S. W., et al. (2006). A very deep Chandra observation of the Perseus cluster: shocks, ripples and conduction. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 366, 417–428. https://doi.org/10.1111/j.1365-2966.2005.09896.x
  3. Fabian, A. C. (2012). Observational Evidence of Active Galactic Nuclei Feedback. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 50, 455–489. https://doi.org/10.1146/annurev-astro-081811-125521
  4. NASA / Chandra X-ray Center (2003). Chandra "Hears" a Black Hole(プレスリリース、2003年9月9日). https://chandra.harvard.edu/press/03_releases/press_090903.html
  5. NASA / Chandra X-ray Center. A Universe of Sound: Perseus Cluster(音声化の説明). https://chandra.si.edu/sound/perseus.html
  6. NASA / Chandra X-ray Center. A Universe of Sound: M87(音声化の説明). https://chandra.si.edu/sound/m87.html
  7. Hitomi Collaboration (2016). The quiescent intracluster medium in the core of the Perseus cluster. Nature 535, 117–121. https://doi.org/10.1038/nature18627