いちばん古い星座はいつできたのか、洞窟壁画に星座はあるのか

星座は何千年も前からあった、とよく言われます。では、いちばん古い星座はいつ、どこで生まれたのでしょうか。文字で残る最古級の星座の一覧はわかっています。でも、それより前の洞窟の壁画に星座が描かれているかは、研究者の間でも決着していません。
3行でわかる
- 星座を文字で書き残した最古級のまとまった記録は、メソポタミアの粘土板「ムル・アピン」です。紀元前8世紀より前に書かれました。
- 夜空を形にした物では、約3600年前にドイツで埋められた「ネブラの天文盤」が、宇宙の現象を描いた世界最古の具体的な表現とされています。
- ラスコーなどの洞窟壁画に星座があるという説はありますが、考古学のデータだけでは確かめにくく、論争が続いています。
01 わかっていること文字で残るいちばん古い星座は?
星座の一覧として文字で残る最古級の記録は、メソポタミア(今のイラクのあたり)の粘土板「ムル・アピン」です。紀元前8世紀より前に書かれ、古代メソポタミアで最も多く写された天文の書物でした。
ムル・アピンは、くさび形の文字で粘土板に書かれた天文の手引きです。星の一覧、惑星の見え方、昼と夜の長さの計算、暦の決まり、空のできごとによる占いなどがまとめられています [1]。
ただし、ムル・アピンは「星座が生まれた瞬間」の記録ではありません。それまでの知識をまとめた書物なので、星座はそれより前からあったと考えられます。メソポタミアの星座がギリシャへ伝わり、今の星座になるまでの流れは、星座の神話はどこから来たのかで書いています。
文字より前のことは、残った絵や物から推し量るしかありません。ここから先が、まだ答えの出ていない領域です。
02 どうやってわかったのか洞窟の壁画に星座は描かれているの?
洞窟壁画に星座が描かれているという説はありますが、確かめられていません。旧石器時代の絵に天文の意味を読む主張には強い論争があり、考古学の資料だけでは確かめにくいとされています。同じ記号を、星でなく月の暦と読む研究もあります。
わかっているフンガーとスティール(2018年、Routledge)[1]
ムル・アピンは紀元前8世紀より前に書かれ、古代メソポタミアで最も多く写された天文の書物でした。星の一覧から暦の決まりまでを収めています。
どうやって: 残っている写しの粘土板をもとに本文を組み立て直し、英語に訳して解説をつけました。
わかっているユネスコ「世界の記憶」(2013年登録)[2]
ドイツのネブラ近くの山で約3600年前に埋められた青銅の円盤「ネブラの天文盤」は、宇宙の現象を描いた世界で最も古い具体的な表現とされています。ただし円盤は正式な発掘で見つかった物ではなく、年代は一緒に出てきた剣などから紀元前1600年ごろと決められています。2020年には、もっと新しい時代の物ではないかという批判が出され、研究チームが反論の論文を出しました[7]。
どうやって: 剣2本、斧2本、腕輪2つ、のみ1本と一緒に、儀式のために埋められた状態で見つかりました。星座そのものを描いた物かどうかは、登録の説明には書かれていません。
わかっていないスウェットマンとクームズ(2019年、Athens Journal of History)[3]
ラスコー洞窟の「井戸の場面」の動物の絵は星座を表し、紀元前1万5150±200年ごろの彗星の衝突を記録したものだと主張しました。トルコのギョベクリ・テペの石の彫刻も、同じ読み方ができるとしています。
どうやって: 絵の具の年代測定の結果と、星空の計算ソフトで出した当時の星の位置を照らし合わせました。著者らの解釈で、考古学者の間で認められた結論ではありません。
わかっていないヘイデンとヴィルヌーヴ(2011年、Cambridge Archaeological Journal)[4]
旧石器時代の絵に天文の意味を読む主張は、月の満ち欠けの記録から星座の絵までありますが、どれも強い論争があるとまとめました。こうした絵や道具は数が少なく、考古学のデータだけで確かめるのは難しいとしています。
どうやって: 近代の狩猟採集民の記録と比べて、ありえそうかを考えました。複雑な社会をもつ狩猟採集民では夏至・冬至の観察や暦づくりがよく見られ、旧石器時代の暦の記録は「少なくともありえる」としています。
有力な仮説ベーコンら(2023年、Cambridge Archaeological Journal)[5]
ヨーロッパの400以上の洞窟に残る点や線の記号は、星座ではなく「何か月目か」を表す数字で、動物が子を産む季節などを記した暦だという読み方を示しました。
どうやって: 旧石器時代の絵の記録を集め、動物の絵のそばに並ぶ点・線・Yの形の記号の数と、その動物の季節の行動を照らし合わせました。1つの研究チームの読み方で、まだ広く確かめられたわけではありません。
わかっていないノリスとノリス(2021年、Springer『Advancing Cultural Astronomy』)[6]
すばる(プレアデス星団)を「7人の姉妹」とし、オリオンにあたる男に追われる話が、オーストラリアの先住民とギリシャのように遠く離れた文化で似ています。著者らは、この話が人類の多くがアフリカを出る前、紀元前10万年ごろより前からあった可能性を示しました。
どうやって: 各地の話を比べ、星が少しずつ動くこと(固有運動)で大昔はすばるの見え方が違った可能性とあわせて考えました。著者ら自身も「可能性」として示しています。
03 数字と例えでいうと古い星空の手がかりを、年代順に並べると?
文字で確かめられるのは、2800年以上前のムル・アピンまでです。約3600年前とされるネブラの天文盤も有力ですが、年代には異論があります。それより古い1万7000年前や4万年前の話は、どれも読み方が決着していません。
| 手がかり | 年代 | 確かさ | 世代で数えると(計算) |
|---|---|---|---|
| すばるの「7人の姉妹」の話 | 紀元前10万年ごろより前の可能性 [6] | わかっていない(仮説) | 4000世代以上前 |
| 洞窟の点や線の記号 | 約4万2000年前から [5] | 記号があることはわかっている。意味は論争中 | 約1700世代前 |
| ラスコー「井戸の場面」に読む彗星の衝突 | 紀元前1万5150±200年 [3] | わかっていない(著者らの主張) | 約690世代前 |
| ネブラの天文盤 | 約3600年前に埋められた [2](年代には異論もある [7]) | 有力な仮説 | 約140世代前 |
| ムル・アピン | 紀元前8世紀より前 [1] | わかっている | 110世代以上前 |
世代の数は、1世代を25年として2026年から数えた目安です。たとえばラスコーの年代は、紀元前1万5150年から2026年までの約1万7175年を25で割りました(紀元0年はないので1年引いています)。親・祖父母・曾祖父母…と690世代さかのぼったご先祖の時代にあたります。
04 まだわかっていないこと最初の星座について、まだ謎なのは?
最初の星座がいつ生まれたのかは、わかっていません。文字より前の星座は、残った絵や物から読むしかなく、同じ絵でも研究者によって星座とも暦とも読めてしまうからです。
- 最初の星座はいつ生まれたのか文字の記録はムル・アピンのころまでしかさかのぼれません [1]。それより前は絵や道具から推し量るしかなく、どの説も確かめられていません [4]。
- 洞窟の絵は星を描いたのか同じ旧石器時代の絵を、星座の暦と読む研究 [3] と、月の数を記した暦と読む研究 [5] があり、どちらも決着していません。
- ネブラの天文盤は本当に3600年前の物か正式な発掘で見つかった物ではないため、一緒に出てきた物から年代を決めています。2020年にはもっと新しいとする批判が出され、研究チームが反論しています [7]。
- すばるの話は本当にそれほど古いのか口伝えの話は形に残らず、年代を直接測る方法がありません。10万年前という年代は、話の似かたと星の動きから考えた可能性です [6]。
05関連する記事
06よくある質問
いちばん古い星座はどれ?
どれが最初の星座かは、わかっていません。文字で確かめられる範囲では、紀元前8世紀より前に書かれたメソポタミアの粘土板「ムル・アピン」に並ぶ星座が最古級です。ただし書かれた時点で星座はすでにあったので、本当の始まりはもっと前です。
ラスコーの洞窟壁画に星座が描かれているって本当?
そう読む説はありますが、確かめられていません。2019年にはラスコーの絵を星座の暦として読む論文も出ましたが、旧石器時代の絵に天文の意味を読む主張は強い論争があり、考古学のデータだけでは確かめにくいとされています。
夜空を描いた、いちばん古い物は何?
ユネスコは、約3600年前にドイツで埋められた青銅の円盤「ネブラの天文盤」を、宇宙の現象を描いた世界で最も古い具体的な表現としています。2013年にユネスコの「世界の記憶」に登録されました。
すばるの話は10万年前からあるって本当?
可能性として示された仮説です。ノリスら(2021年)は、すばるを7人の姉妹とする話が遠く離れた文化で似ていることから、人類の多くがアフリカを出る前、紀元前10万年ごろより前からあった可能性を示しました。口伝えの話は年代を直接測れないため、確かめられていません。
出典
- Hunger, H., Steele, J. (2018). The Babylonian Astronomical Compendium MUL.APIN. Routledge. https://doi.org/10.4324/9781315168722
- UNESCO Memory of the World. Nebra Sky Disc(2013年登録、2026年10月に確認). https://www.unesco.org/en/memory-world/nebra-sky-disc
- Sweatman, M. B., Coombs, A. (2019). Decoding European Palaeolithic Art: Extremely Ancient knowledge of Precession of the Equinoxes. Athens Journal of History 5(1), 1–30. https://doi.org/10.30958/ajhis.5-1-1
- Hayden, B., Villeneuve, S. (2011). Astronomy in the Upper Palaeolithic? Cambridge Archaeological Journal 21(3), 331–355. https://doi.org/10.1017/S0959774311000400
- Bacon, B., Khatiri, A., Palmer, J., Freeth, T., et al. (2023). An Upper Palaeolithic Proto-writing System and Phenological Calendar. Cambridge Archaeological Journal 33(3), 371–389. https://doi.org/10.1017/S0959774322000415
- Norris, R. P., Norris, B. R. M. (2021). Why Are There Seven Sisters? In: Advancing Cultural Astronomy (Historical & Cultural Astronomy), Springer, 223–235. https://doi.org/10.1007/978-3-030-64606-6_11
- Pernicka, E., et al. (2020). Why the Nebra Sky Disc Dates to the Early Bronze Age. An Overview of the Interdisciplinary Results. Archaeologia Austriaca 104, 89–122. https://doi.org/10.1553/archaeologia104s89


