水星はなぜ鉄が多いのか、太陽にいちばん近い惑星の謎

水星は太陽系でいちばん小さな惑星ですが、中身の大部分は鉄を主とする「核」です。探査機メッセンジャーの観測から、核の半径は水星の半径の約8割と見積もられました。なぜこれほど鉄が多いのかは、2026年10月時点でもまだ決着していない謎です。
3行でわかる
- 探査機メッセンジャーの重力の観測から、水星の核は半径約2020km、水星の半径の約8割あると見積もられている。
- 鉄が多い理由には、大きな天体がぶつかって外側の岩がはがれた説などがあるが、どれが正しいかは決着していない。
- 日本とヨーロッパの探査機ベピコロンボは、2026年10月時点のESAの予定では、2026年11月21日に水星を回る軌道に入る。
01 わかっていること水星の中身は本当に鉄だらけなの?
ほぼ本当です。水星は半径約2440kmの小さな惑星ですが、鉄を主とする核の半径は約2020kmと見積もられています。地球の核が半径の約5割なのに比べ、水星は約8割を核が占めます。
水星の平均の密度(1立方メートルあたりの重さ)は5429kgで、地球の5513kgとほぼ同じです[6][7]。小さな惑星は自分の重さで押し縮められる力が弱いので、ふつうなら密度は低めになります。それでも地球並みに重いのは、中に重い鉄がたくさんあるからだと考えられています。
Hauckら(2013年)は、探査機のデータに合う水星の中身の模型を数百万通り計算しました[1]。その結果、液体の核の上の端は中心から約2020km、その上の岩の層の密度は1立方メートルあたり約3380kg、核の部分は約6980kgと見積もられました[1]。
水星は太陽から平均約5790万kmのところを、約88日で1周しています[6]。太陽系の惑星がどうできたかは太陽系の成り立ちの記事で、水星より金星のほうが熱い理由は金星の記事で説明しています。
02 どうやってわかったのか掘ってもいないのに、なぜ中身がわかるの?
2011年から水星を回った探査機メッセンジャーが、重力のわずかなちがいや表面の成分を測りました。直接掘ったのではなく、重力の測定と計算から中身を推定しています。
わかっているSmithら(2012年、Science)[2]
水星の「回りにくさ」を表す数(慣性モーメント)は0.353±0.017でした。重さが中心に集まっているほど小さくなる数で、水星の中心には重い核があることを示します。岩の殻とマントルの下に、鉄と硫黄の固い層、鉄の多い液体の外核、そしてたぶん固体の内核があるという模型が、この結果に合いました。
どうやって: メッセンジャーが出す電波を地球で追いかけ、機体の動きのわずかな変化から、水星の重力の分布を求めました。
わかっているHauckら(2013年、Journal of Geophysical Research: Planets)[1]
液体の核の上の端は、中心から2020±30kmと見積もられました。水星の半径は約2440kmなので、核の上の岩の層は厚さ約420kmしかないことになります(計算)。
どうやって: 水星の大きさ・平均の密度・回りにくさに合う中身の模型を、数百万通りつくって絞り込みました。
有力な仮説Genovaら(2019年、Geophysical Research Letters)[3]
液体の外核のさらに内側に、固体の内核があるという結果になりました。内核の半径は、外核の半径の0.3〜0.7倍と幅のある見積もりです。
どうやって: メッセンジャーの電波の記録を見直し、水星の自転の軸の向きや、太陽の引力による変形を測り直して、中身の模型を計算しました。
わかっているNittlerら(2011年、Science)[4]
表面の岩には鉄が少なく、硫黄は地球や月の岩の10倍以上ありました。研究チームは、水星が酸素の少ない材料からできたためだと考えています。核に鉄が多いのに、表面には鉄が少ないのです。
どうやって: 太陽の光を受けて表面の岩が出すX線を、元素ごとに測りました。
有力な仮説Peplowskiら(2011年、Science)[5]
表面には、熱で逃げやすい元素のカリウムが約1150ppm(0.1%ほど)ありました。研究チームは、この量は「水星や材料がとても強く熱せられた」とする成り立ちの説とは合わないとしています。
どうやって: 表面の放射性の元素が出すガンマ線を測り、カリウム・トリウム・ウランの量を求めました。測ったのは北半球です。
03 数字と例えでいうと水星の核はどれくらい大きいの?
水星を直径10cmのボールにすると、核は直径約8.3cmの球になります。体積でいえば水星の約57%が核で、地球の約16%と比べて3倍以上です。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 水星の半径 | 約2440km[6] | 地球(約6371km)の約0.38倍(計算) |
| 核の半径 | 約2020km[1] | 水星の半径の約83%。地球の核(約3485km)は地球の半径の約55%[7](計算) |
| 核が占める体積 | 水星の約57%(計算) | 水星を直径10cmのボールにすると、核は直径約8.3cmの球。地球は約16%(計算) |
| 平均の密度 | 1立方メートルあたり5429kg[6] | 地球の5513kgとほぼ同じ[7]。大きさは地球の半分もないのに、地球並みに重い |
| 太陽からの距離 | 平均約5790万km[6] | 地球の約0.39倍。届く太陽の光の強さは地球の約6.7倍(計算) |
体積は半径の3乗に比例するので、(2020÷2440)の3乗で約0.57としました。光の強さは距離の2乗に反比例するので、(1÷0.387)の2乗で約6.7倍です。どちらもNASAの数値と上の論文の値から計算しました。
04 まだわかっていないことなぜ水星だけ鉄が多いの?
理由はまだ決着していません。大きな天体の衝突で外側の岩がはがれた説、生まれる前の円盤で鉄が太陽の近くに集まった説などがあり、どの説もまだ決め手に欠けます。
- 衝突で外側の岩がはがれたのかBenzら(1988年)は、若い水星に大きな天体がぶつかり、外側のマントル(岩の層)がはぎとられたという説を計算で調べました[8]。月の成り立ちと同じく「大きな衝突」で説明する考え方です。ただし、表面に熱で逃げやすいカリウムが残っていたことは、強く熱せられる説と合わないという指摘があります[5]。
- 生まれる前から鉄が集まっていたのかMcDonoughとYoshizaki(2021年)は、惑星のもとになった円盤の磁場が太陽の近くほど強く、鉄が内側に集まりやすかったという模型を出しました[9]。この模型では、太陽に近い惑星ほど核が大きくなります。まだ1つのチームの提案で、確かめはこれからです。
- 内核の大きさ固体の内核があるという結果は出ましたが、大きさは外核の0.3〜0.7倍と幅が広いままです[3]。
- ベピコロンボの観測待ちヨーロッパ宇宙機関(ESA)と日本のJAXAの探査機ベピコロンボは、2026年10月時点のESAの予定では、2026年11月21日に水星を回る軌道に入り、2027年4月ごろから本格的な観測を始めます[10]。表面や中身、磁場を調べる計画で、鉄が多い理由を絞る手がかりが期待されています。
05関連する記事
06よくある質問
水星はなぜ鉄が多いの?
理由はまだ決着していません。若い水星に大きな天体がぶつかって外側の岩がはがれた説や、惑星が生まれる前の円盤で鉄が太陽の近くに集まっていた説などがあります。探査機ベピコロンボの観測で、手がかりが増えると期待されています。
水星の核はどれくらい大きいの?
探査機メッセンジャーのデータをもとにした研究では、液体の核の上の端は中心から約2020kmと見積もられています。水星の半径は約2440kmなので、半径の約8割、体積の約57%が核です(体積は計算)。
ベピコロンボはいつ水星に着くの?
2026年10月時点のESAの予定では、2026年11月21日に水星を回る軌道に入ります。その後、日本の「みお」とヨーロッパの周回機に分かれ、2027年4月ごろから本格的な観測を始める予定です。
水星は地球と同じくらい重いの?
重さ(質量)は地球よりずっと小さいですが、1立方メートルあたりの重さ(密度)は5429kgで、地球の5513kgとほぼ同じです。小さいのに密度が高いのは、中に鉄の核が大きいためと考えられています。
出典
- Hauck, S. A., Margot, J.-L., Solomon, S. C., Phillips, R. J., et al. (2013). The curious case of Mercury's internal structure. Journal of Geophysical Research: Planets 118, 1204–1220. https://doi.org/10.1002/jgre.20091
- Smith, D. E., Zuber, M. T., Phillips, R. J., Solomon, S. C., et al. (2012). Gravity Field and Internal Structure of Mercury from MESSENGER. Science 336, 214–217. https://doi.org/10.1126/science.1218809
- Genova, A., Goossens, S., Mazarico, E., Lemoine, F. G., et al. (2019). Geodetic Evidence That Mercury Has A Solid Inner Core. Geophysical Research Letters 46, 3625–3633. https://doi.org/10.1029/2018GL081135
- Nittler, L. R., Starr, R. D., Weider, S. Z., McCoy, T. J., et al. (2011). The Major-Element Composition of Mercury's Surface from MESSENGER X-ray Spectrometry. Science 333, 1847–1850. https://doi.org/10.1126/science.1211567
- Peplowski, P. N., Evans, L. G., Hauck, S. A., McCoy, T. J., et al. (2011). Radioactive Elements on Mercury's Surface from MESSENGER: Implications for the Planet's Formation and Evolution. Science 333, 1850–1852. https://doi.org/10.1126/science.1211576
- NASA. Mercury Fact Sheet(NSSDCA). https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/mercuryfact.html
- NASA. Earth Fact Sheet(NSSDCA). https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html
- Benz, W., Slattery, W. L., Cameron, A. G. W. (1988). Collisional stripping of Mercury's mantle. Icarus 74, 516–528. https://doi.org/10.1016/0019-1035(88)90118-2
- McDonough, W. F., Yoshizaki, T. (2021). Terrestrial planet compositions controlled by accretion disk magnetic field. Progress in Earth and Planetary Science 8, 39. https://doi.org/10.1186/s40645-021-00429-4
- ESA (2026). BepiColombo begins Mercury arrival with MTM separation success. https://www.esa.int/Enabling_Support/Operations/BepiColombo_begins_Mercury_arrival_with_MTM_separation_success


