北極星は変わるのか、1万2000年後はベガ

北極星は「いつも北にあって動かない星」として知られています。でも、ずっと北極星でいられるわけではありません。地球の回る軸の向きがゆっくり変わるので、約1万2000年後には、こと座のベガが北の空の中心近くに来ます。
3行でわかる
- 地球の自転軸(地球が回る軸)は、こまの首振りのように、約2万6000年かけて向きを一回りさせる。これを歳差という。そのため、北の空の目印になる星は入れかわる。
- 長い期間に使える歳差の式(Vondrákら、2011年)とヒッパルコス衛星が測った星の動きで計算すると、ベガが北の空の中心にいちばん近づくのは西暦1万3600年ごろ。ただし離れ方は約5.7度で、今の北極星ほどぴったりではない。
- 今の北極星(ポラリス)は西暦2100年ごろに北の空の中心に最も近づく(約0.46度)。北極星までの距離は、研究によって約320〜520光年と食い違ったまま決着していない。
01 わかっていること北極星はずっと同じ星なの?
いいえ。地球の自転軸の向きは約2万6000年で一回りするので、天の北極の近くにある星は入れかわります。約5000年前はりゅう座のトゥバン、今はポラリス、約1万2000年後はベガが北の目印に近づきます。
夜空の星は、ある1点を中心に回って見えます。この中心が天の北極(地球の自転軸を北へのばした先の空の点)です。今はそのすぐ近くにポラリスがあるので、北極星はほとんど動かないように見えます。
ところが、地球の自転軸の向きは少しずつ変わります。地球は赤道のあたりが少しふくらんだ形で、太陽と月の引力がこのふくらみを引くため、自転軸がこまの首振りのように回ります。国立天文台の解説では、この周期は約2万6000年です[3]。
同じ解説によると、今から5000年ほど前、自転軸はりゅう座のトゥバンの方向を向いていました[3]。江戸時代の天文学者、渋川春海のころは、北極星と天の北極が約2.5度離れていたとされます[3]。この動きで春分点もずれていくため、星占いの星座と実際の星座のずれも同じ理由で生まれます。
02 どうやってわかったのか何千年も先の北極星を、どうやって計算するの?
地球の自転軸の動きを表す式と、星そのものの動きを測ったカタログを組み合わせて計算します。数千年以上先を計算するには、長い期間でも使えるように作られた式が必要です。
わかっているVondrákら(2011年、Astronomy & Astrophysics)[1]
国際天文学連合(IAU)が使っている歳差の式は、2000年の前後数百年しか正しく使えず、遠い時代では計算がずれていくことが知られていました。Vondrákらは、長い期間でも使える新しい式を作りました。この記事の計算は、この式を使っています。
どうやって: 地球や惑星の動きを数値計算した結果と比べながら、自転軸の向きと地球の公転面の動きを、長い期間でも表せる式にまとめました。
わかっているvan Leeuwen(2007年、Astronomy & Astrophysics)[2][6]
ヒッパルコス衛星の観測データを解析し直し、星の位置・距離・1年ごとの動き(固有運動)のカタログを作りました。ベガは1年に約0.35秒角(1度の約1万分の1)ずつ空の上を動いています(カタログの値から計算)。
どうやって: 宇宙から星の位置を何度も測り、地球が太陽の周りを回ることで生じる見かけのずれ(年周視差)から距離を求めました。
わかっている国立天文台 暦計算室(歳差の解説)[3]
自転軸は約2万6000年の周期で回ります。今のポラリスも、天の北極の周りを半径40分角(約0.67度)ほどの小さな円を描いて回っています。
どうやって: 暦を計算する部署が、歳差のしくみと歴史(紀元前2世紀ごろのヒッパルコスによる発見など)を公式に解説しています。
03 数字と例えでいうと北の目印の星は、どう移り変わるの?
計算では、北の目印はトゥバン、ポラリス、ケフェウス座の星、はくちょう座の星をへて、西暦1万3600年ごろにベガへ移ります。ただしベガは天の北極から満月約11個分離れます。
| 時期(いちばん近づくころ) | 北の目印に近い星と、天の北極からの離れ方 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 紀元前2800年ごろ | トゥバン(りゅう座)約0.1度 | 満月の5分の1ほど。ほぼ真上の中心 |
| 西暦2100年ごろ | ポラリス(こぐま座)約0.46度 | 満月1個分ほど。2026年は約0.63度 |
| 西暦4100年ごろ | エライ(ケフェウス座γ星)約1.9度 | 満月約4個分 |
| 西暦7500年ごろ | アルデラミン(ケフェウス座α星)約1.9度 | 満月約4個分 |
| 西暦1万1600年ごろ | はくちょう座δ星 約3.2度 | 満月約6個分 |
| 西暦1万3600年ごろ | ベガ(こと座)約5.7度 | 満月約11個分。今から約1万1600年後 |
計算の条件: 歳差はVondrákらの式[1]、星の位置と動きはヒッパルコス衛星の再解析カタログ[2][6]を使い、星は今の速さのまま真っすぐ進むとしました。北の空(赤緯20度より北)にある、ヒッパルコス等級で3.7等より明るい星から選んでいます。大気による見え方のずれは入れていません。満月の見かけの大きさは約0.5度として例えました。
星そのものの動きも効きます。ベガの動きを入れずに計算すると、いちばん近づくのは西暦1万3700年ごろで、離れ方は約6.5度になりました。明るさでは、ベガ(0.03等)は今のポラリス(1.97等)の約6倍明るい星です(ヒッパルコス衛星のカタログ[7]の等級から計算)。等級のしくみは1等星と6等星の明るさの違いで説明しています。
04 まだわかっていないこと北極星について、まだ決着していないことは?
今の北極星ポラリスまでの距離は、研究によって約320光年から約520光年まで食い違っています。何万年も先の星の位置も、星が今の動きのまま進むという仮定に頼っています。
- 北極星までは何光年なのかヒッパルコス衛星の測定では年周視差が7.54ミリ秒角(約430光年)でした[5]。Turnerら(2013年)は星の色や光の性質から約99パーセク(約320光年)と見積もり[4]、Bondら(2018年)はハッブル宇宙望遠鏡で伴星を測って6.26ミリ秒角(約520光年)としました[5]。北極星は明るさが変わる星(ケフェウス型変光星)で、距離が決まると星の明るさや進化の段階の見方も変わります。
- 1万年以上先の星の正確な位置この記事の計算は、星が今の速さで真っすぐ進むと仮定しています。星の動きを測った値にはわずかな誤差があり、何千年分も積み重なると位置のずれも大きくなります。歳差の式も、遠い時代ほど確かめる手段が限られます[1]。
05関連する記事
06よくある質問
北極星は何年後に変わるの?
北の目印になる星は少しずつ入れかわります。長い期間に使える歳差の式とヒッパルコス衛星のデータで計算すると、ケフェウス座の星(西暦4100年ごろと7500年ごろ)をへて、ベガが北の空の中心に最も近づくのは西暦1万3600年ごろ、今から約1万1600年後です。
北極星は真北にあるの?
ほぼ真北ですが、ぴったりではありません。2026年の北極星は天の北極から約0.63度離れていて、天の北極の周りを小さな円を描いて回っています。最も近づくのは西暦2100年ごろで、約0.46度です。
ベガが北極星になったら、ずっとそのままなの?
いいえ。地球の自転軸は約2万6000年で一回りするので、ベガのあとも北の目印は入れかわり続けます。星が今の動きのまま進むと仮定した計算では、西暦2万7000年ごろにポラリスがふたたび天の北極の近くに戻ります。
5000年前の北極星は何だったの?
りゅう座のトゥバンです。国立天文台の解説では、今から5000年ほど前、地球の自転軸はトゥバンの方向を向いていたとされます。計算では、紀元前2800年ごろに天の北極から約0.1度まで近づきました。
出典
- Vondrák, J., Capitaine, N., Wallace, P. (2011). New precession expressions, valid for long time intervals. Astronomy & Astrophysics 534, A22. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201117274
- van Leeuwen, F. (2007). Validation of the new Hipparcos reduction. Astronomy & Astrophysics 474, 653–664. https://doi.org/10.1051/0004-6361:20078357
- 国立天文台 暦計算室. 暦Wiki「歳差」. https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/BAD0BAB9.html
- Turner, D. G., Kovtyukh, V. V., Usenko, I. A., Gorlova, N. I. (2013). The Pulsation Mode of the Cepheid Polaris. The Astrophysical Journal Letters 762, L8. https://doi.org/10.1088/2041-8205/762/1/L8
- Bond, H. E., Nelan, E. P., Remage Evans, N., Schaefer, G. H., Harmer, D. (2018). Hubble Space Telescope Trigonometric Parallax of Polaris B, Companion of the Nearest Cepheid. The Astrophysical Journal 853, 55. https://doi.org/10.3847/1538-4357/aaa3f9
- van Leeuwen, F. (2007). Hipparcos, the New Reduction of the Raw Data(カタログ I/311、VizieR). https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR?-source=I/311
- ESA (1997). The Hipparcos and Tycho Catalogues(カタログ I/239、VizieR). https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR?-source=I/239


