双子のパラドックスとは何か、宇宙から帰ると年の差はつくのか

双子の1人が光に近い速さで宇宙へ旅立ち、地球に戻ってくる。すると、旅をした人のほうが若くなっています。おかしな話に聞こえますが、相対性理論の予想で、時計を使った実験でも確かめられています。宇宙ステーションに1年近くいた本物の双子の研究もありますが、こちらは体の変化を調べたもので、年の差の話とは別です。
3行でわかる
- 双子のパラドックスは、宇宙を旅して戻った人のほうが若くなる、という相対性理論の思考実験。矛盾に見えるが、行って戻った人だけが向きを変えているので、2人の立場は同じではない。
- 動いた時計が遅れることは、旅客機に乗せた原子時計の実験(1972年)などで確かめられている。
- NASAの双子研究(2019年)は、宇宙にいた340日で体がどう変わるかを調べたもの。時間の遅れによる年の差は、計算で約0.008秒とごくわずか。
01 わかっていること双子のパラドックスとは何?
宇宙を速く旅して戻った人が、地球に残った双子より若くなる、という話です。どちらから見ても相手が動いているのに、なぜ片方だけ若いのか、という疑問が「パラドックス」と呼ばれます。
相対性理論では、動いている人の時計はゆっくり進んで見えます。地球の人から見れば、旅をする人の時計が遅れます。でも旅をする人から見れば、動いているのは地球のほうです。
答えの鍵は、旅をした人だけが途中で向きを変えて(加速して)戻ってくることです。地球に残った人は向きを変えないので、2人の立場は対等ではありません。相対性理論で計算すると、向きを変えて戻ってきた人の時計のほうが、刻んだ時間が短くなります。
アインシュタインは1905年の論文で、すでに「時計を閉じた道に沿って動かし元の場所に戻すと、置いておいた時計より遅れている」と書きました[1]。
02 どうやってわかったのか本当に年の差がつくと、どうやって確かめたの?
人を光に近い速さで飛ばした実験はありません。代わりに、原子時計を旅客機で運ぶ実験や、速く動く素粒子の寿命の測定で、動いた「時計」が遅れることが確かめられています。
わかっているHafeleとKeating(1972年、Science)[2][3]
原子時計4台を旅客機で世界1周させると、東回りの時計は地上より59ナノ秒遅れて戻ってきました。行って戻った時計が、置いておいた時計とずれることを確かめた実験です。
どうやって: 1971年に定期便で地球を1周させ、地上の時計と比べました。重力の弱い高い所を飛んだ分の効果も合わせて計算し、予想と合いました。詳しくは宇宙では時間の進み方が変わるのかに書いています。
わかっているBaileyら(1977年、Nature)[4]
光の速さの約99.94%で円形の装置を回り続けたミューオン(すぐにこわれる小さな粒)は、止まっているときの約29倍長生きしました。ぐるぐる回って同じ場所に戻ってくる粒の時計が、ゆっくり進んだことになります。
どうやって: CERN(欧州原子核研究機構)の装置で、回るミューオンがこわれる速さを測り、相対性理論の予想と0.2%以内で合いました。
わかっているGarrett-Bakelmanら(2019年、Science)[5]
宇宙ステーションに340日いたスコット・ケリーさんと、地上にいた双子のマーク・ケリーさんを比べました。染色体の端(テロメア)は宇宙で平均約14.5%長くなり、帰ってから約48時間で急に短くなりました。
どうやって: NASAの10の研究チームが、遺伝子・血液・認知力などを調べた研究です[6]。時間の遅れを測った研究ではなく、宇宙での暮らしが体をどう変えるかを調べたものです。1組の双子だけなので、すべての人に当てはまるとは言えません。
03 数字と例えでいうと宇宙から帰ると、どれくらい年の差がつくの?
宇宙ステーションに340日いても、年の差は約0.008秒(計算)です。何年もの差がつくのは、光に近い速さで旅をした場合だけです。
| 場面 | 年の差 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 旅客機で世界1周(東回り) | 59ナノ秒[3] | 0.000000059秒。1秒の約1700万分の1 |
| 宇宙ステーションに340日(ケリーさんの滞在) | 約0.008秒若い(計算) | まばたき1回(約0.1秒)の10分の1よりも短い |
| 光の速さの80%でプロキシマ・ケンタウリまで往復(もしも) | 地球では約10.6年、旅した人は約6.4年(計算) | 出発のとき同い年だった双子に、約4.2歳の差がつく |
| 光の速さの99%で同じ往復(もしも) | 地球では約8.6年、旅した人は約1.2年(計算) | 約7.4歳の差がつく |
宇宙ステーションの値は、高さ400kmの円軌道で1日に約25マイクロ秒遅れる(相対性理論の式でSEADICEが計算)として、340日分を足しました。プロキシマ・ケンタウリまでの距離は約4.24光年とし、加速や減速にかかる時間は省いた「もしも」の計算です。今の技術でそこまで速く飛ぶ方法はありません(プロキシマbまで何年かかるのか)。
04 まだわかっていないこと双子のパラドックスで、まだわからないことは?
時間の遅れのしくみ自体は実験で確かめられています。わからないのは、長い宇宙滞在が体の老化にどう効くかと、人が光に近い速さで旅できるかどうかです。
- 長い宇宙滞在は、体の老化を早めるのか遅らせるのかNASAの双子研究では、テロメアが宇宙で長くなり、帰ると短くなりました[5]。調べたのは1組の双子だけで、長い目で見た老化への影響はわかっていません。
- 人は光に近い速さで旅ができるのか相対性理論では年の差がつくことははっきりしていますが、人を乗せて光の速さの何割もの速さに加速するエネルギーや、宇宙のちりや放射線から身を守る方法は、まだありません。
- ごく小さな世界での時間はどうなっているのか重力と量子力学をまとめた理論がまだないため、原子よりずっと小さな世界やブラックホールの中心で時間がどうふるまうかは、わかっていません。
05関連する記事
06よくある質問
双子のパラドックスはなぜ矛盾ではない?
旅をした人だけが途中で向きを変えて戻ってくるので、2人の立場は同じではないからです。相対性理論で計算すると、向きを変えて戻ってきた人の時計のほうが、刻んだ時間が短くなります。原子時計を旅客機で運ぶ実験でも、東回りに世界1周した時計が、地上の時計より遅れて戻ってくることが確かめられています。
NASAの双子研究で、宇宙にいた兄は若くなった?
時間の遅れでいえば、宇宙ステーションに340日いた分で約0.008秒若くなった計算です(SEADICEの計算)。NASAの双子研究はこの差を測ったものではなく、遺伝子や血液、認知力など体の変化を調べた研究です。
宇宙飛行士は年をとるのが遅い?
ほんのわずかに遅くなります。宇宙ステーションの高さでは、速く動いていることの効果が勝って、時計は地上より1日に約25マイクロ秒遅れます(計算)。1年いても約0.009秒で、体で感じられる差ではありません。
出典
- Einstein, A. (1905). Zur Elektrodynamik bewegter Körper. Annalen der Physik 322, 891–921. https://doi.org/10.1002/andp.19053221004
- Hafele, J. C., Keating, R. E. (1972). Around-the-World Atomic Clocks: Predicted Relativistic Time Gains. Science 177, 166–168. https://doi.org/10.1126/science.177.4044.166
- Hafele, J. C., Keating, R. E. (1972). Around-the-World Atomic Clocks: Observed Relativistic Time Gains. Science 177, 168–170. https://doi.org/10.1126/science.177.4044.168
- Bailey, J., et al. (1977). Measurements of relativistic time dilatation for positive and negative muons in a circular orbit. Nature 268, 301–305. https://doi.org/10.1038/268301a0
- Garrett-Bakelman, F. E., Darshi, M., Green, S. J., et al. (2019). The NASA Twins Study: A multidimensional analysis of a year-long human spaceflight. Science 364, eaau8650. https://doi.org/10.1126/science.aau8650
- NASA. Twins Study. https://www.nasa.gov/humans-in-space/twins-study/


