クマムシは宇宙で生きられるのか、宇宙実験でわかったこと

クマムシは「宇宙でも生きられる生き物」と紹介されることがあります。実際に2007年、乾いて休眠した状態のクマムシが宇宙空間にさらされ、地球に戻ってから動き出しました。ただしそれは、決まった条件で短い期間耐えたという話です。宇宙で動いたり、暮らしたりできるという意味ではありません。
3行でわかる
- 2007年の宇宙実験で、乾いて休眠したクマムシは、真空と宇宙線だけの場合(太陽の紫外線なし)、地上に置いたものと同じくらい生き返った。
- 太陽の紫外線も浴びたグループは、生き返った数が大きく減り、回復したのは一部だけだった。
- 宇宙で動いたり増えたりしたわけではない。水があって動いている状態のクマムシは、37℃ほどの熱に24時間さらされると半数が死ぬという実験もある。
01 わかっていることクマムシは宇宙で生きられるの?
乾いて休眠した状態なら、宇宙の真空に短い期間さらされても生き返ることがわかっています。紫外線には弱く、宇宙で動いて暮らせるわけではありません。
クマムシは、コケの中などにいる小さな動物です。いちばん大きな種類でも、体長は1ミリを少し超えるくらいです[7]。水がなくなると体を縮めて、ほとんど活動しない休眠の状態になります。
宇宙で強さを見せたのは、この休眠の状態のときです。2007年9月、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の人工衛星フォトンM3に、約3,000匹のクマムシが乗って12日間の飛行をしました[7]。外にさらされたクマムシは、地球に戻って水を与えると、多くが動き出しました[1]。
一方で、太陽の紫外線をさえぎらずに浴びたグループは、ほとんどが生き返りませんでした[1]。「宇宙で生きられる」というより、「休眠した状態で、紫外線を避ければ、宇宙の真空に耐えられた」と言うのが正確です。
02 どうやってわかったのかどんな実験で確かめたの?
人工衛星の外側にクマムシを置いて宇宙にさらす実験と、地上で熱・寒さ・衝撃・放射線に耐えられるかを測る実験で確かめられています。
有力な仮説Jönssonら(2008年、Current Biology)[1]
乾いて休眠した2種類のクマムシは、宇宙の真空と宇宙線だけなら、地上に置いたものと比べて生き残る割合が下がりませんでした。太陽の紫外線も浴びると生き残りは大きく減りましたが、一部は回復しました。
どうやって: 人工衛星の外の装置にクマムシを入れ、紫外線のフィルターがあるものとないものに分けて宇宙にさらしました。生き残ったクマムシは卵を産み、その卵はかえりました。1回の飛行での実験です。
有力な仮説Rebecchiら(2009年、Astrobiology)[2]
同じ飛行で、水があって動いている状態のクマムシも調べました。無重力と宇宙の放射線は、生き残りやDNAの傷に影響しませんでした。宇宙で脱皮し、メスは卵を産み、生まれた子も普通に動きました。
どうやって: 動いている状態のクマムシは水のある容器に入れて12日間飛んだもので、宇宙の真空にはさらされていません。
有力な仮説TraspasとBurchell(2021年、Astrobiology)[3]
休眠したクマムシを銃で撃ち出して的に当てると、秒速0.9キロ(1.14ギガパスカルの衝撃)までは生き残り、それより速いと生き残りませんでした。
どうやって: 実験室のガス銃で、休眠したクマムシを速く飛ばしました。著者らは、地球の岩が月にぶつかるときのふつうの速さでは、生き残れないと計算しています。
有力な仮説Nevesら(2020年、Scientific Reports)[4]
動いている状態のクマムシは、37.1℃で24時間すごすと半数が死にました。乾いた状態では、1時間なら82.7℃、24時間なら63.1℃で半数が死にました。
どうやって: ヨコヅナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)を、温度と時間を変えて熱にさらしました。著者らは、高い温度はクマムシの弱点だとしています。
有力な仮説Hashimotoら(2016年、Nature Communications)[5]
クマムシにしかないたんぱく質「Dsup」を人の培養細胞に入れると、エックス線によるDNAの傷が約40%減りました。
どうやって: ヨコヅナクマムシの遺伝情報をすべて読み、見つけたたんぱく質を人の細胞でつくらせました。これはしくみの一部で、クマムシ全体の強さを説明しきるものではありません。
有力な仮説Tsujimotoら(2016年、Cryobiology)[6]
1983年に南極で集め、−20℃で30年半凍らせていたコケから、クマムシ2匹と卵1個が生き返りました。生き返った1匹と、卵からかえった1匹は、その後くり返し卵を産みました。
どうやって: 凍ったコケをとかし、クマムシが動き出すまでを記録しました。回復には時間がかかり、著者らは長い休眠の間にたまった傷の修理が必要だったと考えています。
03 数字と例えでいうとクマムシは、どれくらいの条件に耐えたの?
休眠したクマムシは、真空や−20℃の30年に耐えた一方、秒速0.9キロを超える衝撃や、太陽の紫外線には耐えられませんでした。動いている状態では37℃ほどの熱でも弱ります。
| 条件 | 結果 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 宇宙の真空と宇宙線(休眠)[1] | 地上と同じくらい生き返った | 12日間の飛行での結果 |
| 真空+太陽の紫外線(休眠)[1] | 生き残りが大きく減り、回復は一部 | 宇宙では、地上ではさえぎられる強い紫外線も届く |
| 衝撃(休眠)[3] | 秒速0.9キロ、1.14ギガパスカルまで | 時速3,240キロ、音の速さ(秒速340メートル)の約2.6倍。1平方センチに約12トン(計算) |
| 熱・24時間(動いている状態)[4] | 37.1℃で半数が死ぬ | 人の体温とほぼ同じ温度 |
| 熱・1時間(休眠)[4] | 82.7℃で半数が死ぬ | 沸とうしたお湯(100℃)より低い |
| 冷凍(休眠)[6] | −20℃で30年半 | 家庭の冷凍庫と同じくらいの低さ |
| 放射線(人の細胞での実験)[5] | DNAの傷が約40%減った | 傷10個が約6個になる割合(計算) |
時速は秒速0.9キロ×3,600秒、音の速さとの比は900÷340、重さは1.14ギガパスカル×1平方センチ÷重力(9.8)で計算しました。宇宙で人の体に何が起きるかは、宇宙に長くいると体はどうなるのかで扱っています。
04 まだわかっていないことクマムシと宇宙について、まだ謎なのは?
紫外線を浴びても生き残った個体がなぜ耐えたのか、もっと長く宇宙にさらされても生き返るのかは、わかっていません。宇宙で何世代も増えられるかも確かめられていません。
- 紫外線に耐えた個体は、なぜ耐えたのかESAは、宇宙での生き残りのしくみを調べることを次の課題としています[7]。Dsupのようなたんぱく質は見つかっていますが、しくみの一部です[5]。
- もっと長い期間なら、どうなるか2007年の実験は12日間の飛行でした[7]。年単位で宇宙空間にさらしたときの生き残りは、この記事で確かめた研究には含まれていません。
- 宇宙で何世代も暮らせるのか動いている状態のクマムシが人工衛星の中で卵を産んだ例はあります[2]。でも、真空の宇宙空間では水がなく、動いて暮らすことはできません。
- 岩に乗って惑星の間を移れるのか衝撃には弱く、ふつうの衝突の速さでは生き残れないという計算があります[3]。生命が宇宙から来たという説の確かさは、パンスペルミア説を確かめるで整理しています。
05関連する記事
06よくある質問
クマムシは宇宙で生きられるの?
乾いて休眠した状態なら、宇宙の真空と宇宙線に12日間の飛行でさらされても、多くが生き返りました。ただし太陽の紫外線を浴びるとほとんどが死にました。宇宙空間で動いたり暮らしたりできるわけではありません。
クマムシは不死身なの?
不死身ではありません。動いている状態では37℃ほどの熱に24時間さらされると半数が死に、休眠した状態でも、秒速0.9キロを超える衝撃では生き残れませんでした。強いのは主に、水がなくなって休眠しているときです。
クマムシはなぜ宇宙で生き返れたの?
くわしいしくみは、まだわかっていません。水がなくなると休眠し、ほとんど活動しない状態になることが関係すると考えられています。ヨコヅナクマムシからは、DNAの傷を減らすたんぱく質Dsupも見つかっていますが、しくみの一部です。
クマムシの宇宙実験はいつ行われた?
代表的なのは、2007年9月にヨーロッパ宇宙機関(ESA)の人工衛星フォトンM3で行われた実験です。約3,000匹のクマムシが12日間の飛行をしました。結果は2008年に論文として発表されました。
出典
- Jönsson, K. I., Rabbow, E., Schill, R. O., et al. (2008). Tardigrades survive exposure to space in low Earth orbit. Current Biology 18, R729–R731. https://doi.org/10.1016/j.cub.2008.06.048
- Rebecchi, L., Altiero, T., Guidetti, R., et al. (2009). Tardigrade Resistance to Space Effects: First Results of Experiments on the LIFE-TARSE Mission on FOTON-M3 (September 2007). Astrobiology 9, 581–591. https://doi.org/10.1089/ast.2008.0305
- Traspas, A., Burchell, M. J. (2021). Tardigrade Survival Limits in High-Speed Impacts—Implications for Panspermia and Collection of Samples from Plumes Emitted by Ice Worlds. Astrobiology 21, 845–852. https://doi.org/10.1089/ast.2020.2405
- Neves, R. C., Hvidepil, L. K. B., Sørensen-Hygum, T. L., et al. (2020). Thermotolerance experiments on active and desiccated states of Ramazzottius varieornatus emphasize that tardigrades are sensitive to high temperatures. Scientific Reports 10, 94. https://doi.org/10.1038/s41598-019-56965-z
- Hashimoto, T., Horikawa, D. D., Saito, Y., et al. (2016). Extremotolerant tardigrade genome and improved radiotolerance of human cultured cells by tardigrade-unique protein. Nature Communications 7, 12808. https://doi.org/10.1038/ncomms12808
- Tsujimoto, M., Imura, S., Kanda, H. (2016). Recovery and reproduction of an Antarctic tardigrade retrieved from a moss sample frozen for over 30 years. Cryobiology 72, 78–81. https://doi.org/10.1016/j.cryobiol.2015.12.003
- ESA (2008). Tiny animals survive exposure to space. https://www.esa.int/Science_Exploration/Human_and_Robotic_Exploration/Research/Tiny_animals_survive_exposure_to_space


