ブラックホール

映画『インターステラー』の水の惑星の1時間が7年は本当にありうるのか

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中心にブラックホールがある銀河NGC 4395
Photo: Credit for NGC 4395 image: Adam Block/Mount Lemmon SkyCenter/University of Arizo / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

映画『インターステラー』(2014年)では、巨大なブラックホール「ガルガンチュア」のそばを回る水の惑星で過ごす1時間が、遠く離れた場所の7年にあたります。物理学者キップ・ソーンが科学監修をした作品で、この数字は相対性理論の計算にもとづいています。では、本物の宇宙でもありうるのでしょうか。

3行でわかる

  1. 1時間が7年は、時間の進み方が約6万1000倍違うということ(計算)。相対性理論の式では、とても速く回るブラックホールのすぐそばなら、この差が出る。
  2. そのためにはブラックホールが、理論上の上限ぎりぎり(上限との差が約100兆分の1)で回っている必要がある。映画の描画を担当した研究チームの論文も、とても速い回転が必要だと書いている。
  3. ガスを吸い込んで回転が速くなるブラックホールでも、上限の約99.8%で止まると計算されている。そこでの時間の遅れは最大で約11倍(計算)で、本物の宇宙でこの惑星がありうるかはわからない。

01 わかっていること1時間が7年になることは本当にありうるの?

相対性理論の式の上ではありえます。ただし、ブラックホールが理論上の上限ぎりぎりで回っている必要があり、そんなブラックホールが宇宙にあるかはわかっていません。

重力の強い場所では、時計がゆっくり進みます。ブラックホールのそばは、宇宙でいちばん重力が強い場所の1つです。しくみは宇宙では時間の進み方が変わるのかで書いています。

回っていないブラックホールでは、惑星が安定して回れるのは、ある程度離れた場所までです。そこでの時間の遅れは約1.4倍(計算)にとどまります。もっと近づくと、惑星は落ちてしまいます。

ところが、ブラックホールが回っていると、まわりの空間ごと引きずられ、ずっと近くでも安定して回れるようになります[1]。回転が上限に近いほど近づけて、時間の遅れも大きくなります。

02 どうやってわかったのか科学監修のチームや研究者は、どう計算したの?

映画の描画を担当したチームは、大きな時間の遅れにはほぼ上限の回転が必要だと論文に書きました。別の研究者は、その条件で惑星の軌道を計算し、時間の遅れが約6万倍になると示しました。

わかっているKerr(1963年、Physical Review Letters)[1]

回っている重い物のまわりの空間を表す、アインシュタインの式の答えを見つけました。回るブラックホールの性質は、この答え(カー解)で計算します。

どうやって: 式を解いた理論の研究です。回るブラックホールの計算は、すべてここから始まります。

わかっているJames、von Tunzelmann、Franklin、Thorne(2015年、Classical and Quantum Gravity)[2]

映画のブラックホールの見た目を、光の進み方を計算して描いた方法をまとめました。映画で描かれた大きな時間の遅れには、ほぼ上限の回転が必要だと書いています。

どうやって: 映画では、影の形がゆがみすぎて観客を混乱させないよう、描画のときだけ回転を上限の60%に落としたことも、論文で正直に説明しています。

有力な仮説Opatrný、Richterek、Bakala(2017年、American Journal of Physics)[3]

ソーンの解説書の設定(回転が上限より約1.3×10のマイナス14乗だけ小さい)で、水の惑星の軌道を計算しました。時間の遅れは約6万倍で、映画の3時間が21年にあたる設定と合います。

どうやって: 回るブラックホールのまわりの軌道を計算しました。同じ計算で、宇宙を満たす弱い光がこの惑星では強く青い側にずれて、惑星の温度が約890度になるという、きびしい見積もりも出しています。

有力な仮説Thorne(1974年、The Astrophysical Journal)[4]

ブラックホールがまわりのガスを吸い込むと回転は速くなりますが、吸い込む光が回転にブレーキをかけるため、上限の約99.8%で止まると計算しました。

どうやって: ガスの円盤から落ちる物質と光が、回転をどう変えるかを計算しました。

わかっているReynolds(2021年、Annual Review of Astronomy and Astrophysics)[5]

ガスを吸い込んでいる巨大ブラックホールの多くは、速く回っていることが観測からわかってきました。

どうやって: ブラックホールのすぐそばのガスが出すX線の形などから、回転の速さを測った研究をまとめた総説です。

03 数字と例えでいうとどれくらい速く回っていればいいの?

1時間が7年になるには、上限との差が約100兆分の1という回転が必要です(計算)。自然にできると考えられている上限の約99.8%では、時間の遅れは最大で約11倍です。

ブラックホールの回転(上限を1とする)安定して回れるいちばん内側の軌道での時間の遅れ(計算)身近な例えでいうと
0(回っていない)約1.4倍惑星の1時間が、遠くでは約1時間25分
0.6(映画の描画で使った値)[2]約1.8倍惑星の1時間が、遠くでは約1時間46分
0.998(ガスで速くなる上限の目安)[4]約11倍惑星の1時間が、遠くでは約11時間
上限より約1.3×10のマイナス14乗だけ小さい(ソーンの設定)[3]約6万倍惑星の1時間が、遠くでは約7年

時間の遅れは、回るブラックホールのまわりを円く回る軌道の式で、SEADICEが計算しました。どの行も、そのブラックホールのまわりで安定して回れるいちばん内側の軌道での値です。7年は1時間の約6万1000倍(7×365.25×24)です。

04 まだわかっていないことまだわからないことは?

上限ぎりぎりで回るブラックホールが宇宙にあるのか、そのすぐそばに惑星があって無事でいられるのかは、わかっていません。回転の測り方にもまだ幅があります。

05関連する記事

06よくある質問

インターステラーの1時間7年は科学的に正しい?

相対性理論の式の上では、とても速く回るブラックホールのすぐそばなら、時間の進み方が約6万倍違うことはありえます。ただし、回転は上限との差が約100兆分の1という極端な値が必要で、そんなブラックホールが宇宙にあるかはわかっていません。

ガルガンチュアは本物のブラックホールに似ている?

見た目は、光の進み方を相対性理論で計算して描かれています。ただし、映画では観客にわかりやすいよう、描画のときだけ回転を上限の60%に落とし、光の色の変化も省いたと、描画チームの論文に書かれています。

回っていないブラックホールでは時間はどれくらい遅れる?

惑星が安定して回れるいちばん内側の軌道で、約1.4倍です(計算)。惑星の1時間が遠くでは約1時間25分になるくらいで、映画のような差にはなりません。

水の惑星のような星は実際に見つかっている?

ブラックホールのまわりを回る惑星は、まだ見つかっていません。上限ぎりぎりで回るブラックホールがあるか、すぐそばで惑星が無事でいられるかも、わかっていません。

出典

  1. Kerr, R. P. (1963). Gravitational Field of a Spinning Mass as an Example of Algebraically Special Metrics. Physical Review Letters 11, 237–238. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.11.237
  2. James, O., von Tunzelmann, E., Franklin, P., Thorne, K. S. (2015). Gravitational lensing by spinning black holes in astrophysics, and in the movie Interstellar. Classical and Quantum Gravity 32, 065001. https://doi.org/10.1088/0264-9381/32/6/065001
  3. Opatrný, T., Richterek, L., Bakala, P. (2017). Life under a black sun. American Journal of Physics 85, 14–22. https://doi.org/10.1119/1.4966905
  4. Thorne, K. S. (1974). Disk-Accretion onto a Black Hole. II. Evolution of the Hole. The Astrophysical Journal 191, 507–519. https://doi.org/10.1086/152991
  5. Reynolds, C. S. (2021). Observational Constraints on Black Hole Spin. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 59, 117–154. https://doi.org/10.1146/annurev-astro-112420-035022