もしダークエネルギーがなかったら宇宙はどうなっていたか

宇宙の中身の約7割は、正体のわからないダークエネルギーです。もしそれがなかったら、星や銀河は生まれなかったのでしょうか。コンピューターの中に「ダークエネルギーのない宇宙」を作って比べた研究では、星の量はほとんど変わりませんでした。大きく変わるのは、これからの未来です。
3行でわかる
- ダークエネルギーのない宇宙をシミュレーションで作ると、今までにできた星の量は約15%多くなるだけで、銀河の性質もほとんど見分けがつきませんでした。
- 大きく変わるのは未来です。膨張は加速せず遅くなり続け、遠くの銀河が見えなくなっていく未来も起きない計算です。
- 逆に、ダークエネルギーが今よりけた違いに強ければ、銀河ができにくくなります。なぜ今の量なのかは、わかっていません。
01 わかっていることダークエネルギーがなかったら、星や銀河はできなかった?
できたと考えられています。宇宙で星がいちばん盛んに生まれたのは誕生から約35億年後で、ダークエネルギーの影響が目立ち始める前でした。そのため、なくても星の量はあまり変わらないという計算結果が出ています。
ダークエネルギーは、宇宙の膨張を加速させているもののことです。見つかった経緯はダークエネルギーとは何かで説明しています。
ダークエネルギーの濃さは、宇宙が広がっても薄まらないと考えられています。物質は広がるほど薄まります。だから昔の宇宙では物質が主役で、ダークエネルギーが効いてきたのは最近の数十億年です。
この「もしも」は、実際の宇宙では確かめられません。ここで書くのは、ダークエネルギーだけを取り除いた宇宙を、計算とシミュレーションで作った研究の結果です。
02 どうやってわかったのか「ない宇宙」をどうやって調べたの?
まず超新星の観測で、ダークエネルギーのない宇宙では今の観測が説明できないことが示されました。そのうえで、ダークエネルギーだけを取り除いた宇宙をスーパーコンピューターで作り、私たちの宇宙と比べています。
わかっているリースら(1998年、The Astronomical Journal)[1]
遠くのIa型超新星は、ダークエネルギーのない宇宙で予想されるより、平均で10〜15%遠くにありました。どの分析方法でも、膨張が加速している宇宙が選ばれました。
どうやって: 明るさのそろった超新星16個(遠い)と34個(近い)の見かけの明るさから距離を求め、宇宙の中身ごとの予想と比べました。
わかっているパールマッターら(1999年、The Astrophysical Journal)[2]
別のチームが42個の超新星で調べ、ダークエネルギー(宇宙定数)がプラスである確率を99%と求めました。ダークエネルギーのない平らな宇宙とは、データが強く食い違いました。
どうやって: 赤方偏移0.18〜0.83の超新星と近くの超新星を合わせて分析しました。物質だけで開いた宇宙も、データとよく合いませんでした。
有力な仮説サルシードら(2018年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[3]
ダークエネルギーのない宇宙では、今までにできた星の量は約15%多いだけでした。私たちの宇宙では、これから生まれる星も含めた全部のうち約88%が、すでにできていると見積もっています。
どうやって: 銀河のでき方をよく再現する「EAGLE」というシミュレーションで、私たちの宇宙と、ダークエネルギーだけを取り除いて初めの状態をそろえた宇宙を比べました。巨大ブラックホールの働きのほうが、星の量への影響ははるかに大きい(なければ今の星づくりは約2.5倍)とわかりました。
有力な仮説バーンズら(2018年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[4]
ダークエネルギーの強さを0から今の300倍まで変えた宇宙を作りました。今の10倍にしても、星のでき方への影響は小さいものでした。
どうやって: 同じEAGLEのシミュレーションで、強さだけを変えて比べました。星づくりのピークが加速の始まる前にあるため、強さを変えても差が出にくいとしています。
有力な仮説ワインバーグ(1987年、Physical Review Letters)[5]
宇宙が縮まない場合、ダークエネルギーの強さの上限は「重力でまとまった天体ができなくなるほど大きくない」ことだけだ、と論じました。強すぎれば、銀河のようなまとまりができません。
どうやって: 理論の計算です。観測者がいる宇宙なら、ダークエネルギーはこの上限より小さいはずだ、という考え方(人間原理)を使っています。
有力な仮説ローブ(2002年、Physical Review D)[6]
ダークエネルギーで膨張が加速し続けると、遠くの銀河の光はいつか届かなくなります。今、赤方偏移5〜10に見える銀河は、その銀河が40億〜60億歳になったころの姿までしか見えないと計算しました。
どうやって: ダークエネルギーが今のまま変わらないと仮定して、光の届き方を計算しました。ダークエネルギーがなければ、この「見えなくなる」理由そのものがなくなります。
03 数字と例えでいうとある宇宙と、ない宇宙で、何がどれだけ違うの?
今までの星の量の差は約15%と小さく、差が大きくなるのは未来です。宇宙が200億歳のとき、私たちの宇宙は「ない宇宙」より約25%大きく、膨張の速さは約50%速いと計算されています。
| 項目 | 私たちの宇宙と「ない宇宙」の違い | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 今までにできた星の量 | ない宇宙のほうが約15%多い [3] | 100個のところが115個。銀河の性質はほぼ同じ |
| 銀河のもとの育つ速さ | 138億歳で約20%、200億歳で約40%の差 [3] | 差は時間がたつほど開く |
| 200億歳のときの宇宙 | 私たちの宇宙が約25%大きく、膨張は約50%速い [3] | 同じ年に生まれた風船の、大きさの差が開いていく |
| 超新星までの距離 | ない宇宙の予想より10〜15%遠かった [1] | 100mと思った的が110〜115m先にあった |
| 宇宙の年齢 | 今の膨張の速さ(秒速67.4km/メガパーセク)[7]のまま取り除くと約97億年(計算) | 実際の138億年より約40億年若くなり、計算が合わなくなる |
最後の行は、今の膨張の速さをそのまま使い、中身が物質だけの平らな宇宙と仮定した計算です。ワインバーグも1987年の論文で、ダークエネルギーがあれば宇宙の「年齢の問題」が和らぐと書いていました。宇宙の年齢の測り方は宇宙の年齢138億年はどうやって測ったのかで説明しています。
04 まだわかっていないことこの「もしも」で答えが出ていないのは?
いちばんの謎は、なぜダークエネルギーが今の量なのかです。人間原理で説明しようとする研究もありますが、シミュレーションでは星の量への影響が小さすぎて、量を決める理由になりにくいことがわかってきました。
- なぜ今の量なのかサルシードらとバーンズらは、ダークエネルギーの強さが星や銀河のでき方にあまり効かないため、「観測者がいるから今の量」という説明だけでは決めきれないとしています。
- ダークエネルギーは時間とともに変わるのかDESIの2024年の分析は、変化している可能性を示しましたが、決着していません。変わるなら、宇宙の未来の計算も変わります。
- 正体が何か空間そのものがもつエネルギーという考えが最も簡単ですが、確かめられていません。正体がわからないので、「ない宇宙」も仮定の上の計算です。
05関連する記事
06よくある質問
ダークエネルギーがなかったら、宇宙は縮んでいた?
中身がちょうど平らな宇宙になる量の物質だけなら、膨張は遅くなりながらも止まらず、縮みません。サルシードらのシミュレーションの「ない宇宙」もこの形です。物質がそれより多ければ、いつか縮む可能性があります。
ダークエネルギーがなくても、銀河は今と同じ形だった?
サルシードらのシミュレーションでは、ダークエネルギーのある宇宙とない宇宙で、今の銀河の性質はほとんど見分けがつきませんでした。星の量への影響は、巨大ブラックホールの働きのほうがずっと大きいとされています。
ダークエネルギーが強すぎたら、どうなる?
ワインバーグの1987年の計算では、強すぎると重力で天体がまとまる前に宇宙が広がってしまい、銀河ができなくなります。バーンズらのシミュレーションでは、今の10倍程度なら星のでき方への影響は小さいとされました。
出典
- Riess, A. G. et al. (1998). Observational Evidence from Supernovae for an Accelerating Universe and a Cosmological Constant. The Astronomical Journal 116, 1009-1038. https://doi.org/10.1086/300499
- Perlmutter, S. et al. (1999). Measurements of Ω and Λ from 42 High-Redshift Supernovae. The Astrophysical Journal 517, 565-586. https://doi.org/10.1086/307221
- Salcido, J. et al. (2018). The impact of dark energy on galaxy formation. What does the future of our Universe hold? Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 477, 3744-3759. https://doi.org/10.1093/mnras/sty879
- Barnes, L. A. et al. (2018). Galaxy formation efficiency and the multiverse explanation of the cosmological constant with EAGLE simulations. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 477, 3727-3743. https://doi.org/10.1093/mnras/sty846
- Weinberg, S. (1987). Anthropic Bound on the Cosmological Constant. Physical Review Letters 59, 2607-2610. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.59.2607
- Loeb, A. (2002). Long-term future of extragalactic astronomy. Physical Review D 65, 047301. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.65.047301
- Planck Collaboration (2020). Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters. Astronomy & Astrophysics 641, A6. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833910
- DESI Collaboration, Adame, A. G. et al. (2025). DESI 2024 VI: cosmological constraints from the measurements of baryon acoustic oscillations. Journal of Cosmology and Astroparticle Physics 2025(02), 021. https://doi.org/10.1088/1475-7516/2025/02/021


