宇宙で最初の巨大ブラックホールはどう生まれたのか、重い種と軽い種

宇宙が生まれて7億年もたたないうちに、太陽の10億倍ほどのブラックホールがもうありました。観測は、こうした「早すぎる巨人」をいくつも見つけています。どうやってそこまで育ったのかは、まだわかっていません。最初の「種」が軽かったのか重かったのか、2つの説を比べます。
3行でわかる
- 宇宙の年齢が今の5%ほど(約7億年)のころに、太陽の8億〜16億倍のブラックホールが見つかっている。
- 最初のブラックホールの「種」には2つの説がある。最初の星が残した太陽の10〜100倍の「軽い種」と、ガスの雲が一気につぶれてできた太陽の1万〜10万倍の「重い種」。
- 2023年、ビッグバンから約4.7億年後の銀河UHZ1で、重い種の説に合うブラックホールが見つかった。ただし1つの天体の観測で、決着はしていない。
01 わかっていること宇宙の初めに、巨大なブラックホールはあったの?
ありました。宇宙の年齢が今の約5%のころの銀河の中心に、太陽の約8億倍のブラックホールが見つかっています。問題は、短い時間でどうやってそこまで育ったかです。
多くの銀河の中心には、太陽の何百万倍から何十億倍もの重さのブラックホール(超大質量ブラックホール)があります。天の川銀河の中心のものは、太陽の約400万倍(測定によって約410万〜430万倍)です(天の川銀河の中心にあるブラックホール)。
遠くを見ることは、昔を見ることです。光が届くまでに時間がかかるからです。遠い銀河の中心で、ガスを飲みこみながら明るく光るブラックホール(クエーサー)を探すと、宇宙の初めにも巨大なものが見つかりました[1][2]。
ブラックホールが太る速さには、ふつう上限があると考えられています。落ちこむガスが熱くなって出す光が、次に落ちてくるガスを押し返すからです(エディントン限界)[7]。この上限のせいで、「時間が足りない」という問題が生まれます。
02 どうやってわかったのか昔のブラックホールを、どうやって見つけたの?
遠いクエーサーの光を波長ごとに分ける観測と、X線と赤外線の望遠鏡を組み合わせた観測で見つかりました。最近はウェッブ宇宙望遠鏡が、さらに昔のブラックホールを探しています。
わかっているBañadosら(2017年、Nature)[1]
クエーサー J1342+0928(赤方偏移7.54)の中心に、太陽の約8億倍のブラックホールがありました。宇宙の年齢がわずか6.9億年、今の5%のころです。
どうやって: クエーサーの光を波長ごとに分け、ブラックホールのまわりのガスの動きから重さを見積もりました。論文は、この重さを説明するには、種が太陽の約1万倍より重いか、ときどき上限を大きく超えて太る必要があると書いています。
わかっているWangら(2021年、The Astrophysical Journal Letters)[2]
クエーサー J0313-1806(赤方偏移7.64)のブラックホールは、太陽の約16億倍(誤差±4億倍)でした。ビッグバンから約6.7億年後で、発表時点で最も遠いクエーサーです。
どうやって: 望遠鏡で光を波長ごとに分けて調べました。論文は、これほど早く重いブラックホールがあることは、成長の理論にとって大きな難問だと書いています。
有力な仮説Bogdánら(2023年、Nature Astronomy)[3][5]
ビッグバンから約4.7億年後の銀河UHZ1の中心から、X線が見つかりました。ブラックホールの重さは太陽の1000万〜1億倍と見積もられ、銀河の星を全部合わせた重さと同じくらいでした。近くの宇宙では、ブラックホールは星の重さの約0.1%しかありません。
どうやって: NASAのX線望遠鏡チャンドラで2週間以上観測し、ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線の観測と合わせました。手前の銀河団の重力がレンズの役をして、X線を約4倍明るくしていました。重さは「上限いっぱいの速さで太っている」と仮定した見積もりです。
有力な仮説Natarajanら(2023年、The Astrophysical Journal Letters)[4]
UHZ1の明るさや色、形は、ガスが一気につぶれてできた重い種のブラックホールを持つ銀河として、理論で予想されていた姿とよく合うと報告しました。重さは太陽の約4000万倍と見積もっています。
どうやって: X線と赤外線の観測を、事前に計算していた理論のモデルと比べました。UHZ1を、重い種でできた銀河の「最初の候補」と位置づけています。
有力な仮説Maiolinoら(2024年、Nature)[6]
赤方偏移10.6の明るい銀河GN-z11の中心に、太陽の約160万倍のブラックホールがあり、上限の約5倍の速さでガスを飲みこんでいると報告しました。
どうやって: ウェッブ宇宙望遠鏡で銀河の光を分け、ブラックホールの近くでしか出ない光の特徴を見つけました。結果は、重い種の説とも、軽い種がときどき上限を超えて太った説とも合うとしています。
03 数字と例えでいうとどれくらい早く育ったの?
上限いっぱいの速さで太り続けても、重さが約2.7倍になるのに約5000万年かかります。太陽の100倍の種が10億倍になるには約8億年かかり、宇宙の初めにはその時間が足りません。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 上限いっぱいで太るときの速さ | 約5000万年で約2.7倍[7] | 1億年で約7.4倍。休まず太り続けた場合 |
| 太陽の100倍の種が10億倍になるまで | 約8億年[7] | J1342+0928の時代(宇宙が6.9億歳)より長い |
| 軽い種(太陽の100倍)がUHZ1の重さ(約4000万倍)になるまで | 約6.5億年(計算) | UHZ1の時代(約4.7億年後)に間に合わない |
| 重い種(太陽の10万倍)が約4000万倍になるまで | 約3億年(計算) | UHZ1の時代に間に合う |
| UHZ1が見えている時代 | ビッグバンから約4.7億年後、約132億光年先[5] | 宇宙の歴史138億年を1年にすると、1月13日ごろ |
| J1342+0928のブラックホール | 太陽の約8億倍[1] | 天の川銀河の中心の約190倍 |
| UHZ1のブラックホールと銀河の星の重さの比 | ほぼ同じ[3] | 近くの宇宙では約1000分の1 |
計算は「上限いっぱいの速さで、休まず太り続けた」とした単純な見積もりです。実際には、ガスが吹き飛ばされるなどして休まず太るのは難しいと考えられています[7]。種ができたのもビッグバンのしばらく後なので、使える時間はさらに短くなります。
04 まだわかっていないこと最初のブラックホールの謎は、どこまで解けたの?
最初の種が軽かったのか重かったのかは、決着していません。UHZ1は重い種の説に合いますが、1つの天体の観測で、重さもX線の明るさからの見積もりです。
- 種は軽かったのか、重かったのか両方があったのかもしれません。解説論文は、宇宙の初めのブラックホールは太陽の約10倍から10億倍まで切れ目なく並び、できたときの重さも育ち方もさまざまだったと考えられる、とまとめています[7]。
- UHZ1の重さは確かか重さは「上限いっぱいで太っている」と仮定して、X線の明るさから見積もったものです[3]。ガスの動きから直接測った値ではなく、似た天体もまだ少ないため、1つの例で説を決めることはできません。
- 重い種はどうやってできるのかガスの雲が星に分かれずに一気につぶれるには、ガスが冷えないまま(約5000K以上)でいる必要があると考えられています[7]。そうした条件がどれくらいの場所でそろったのかは、わかっていません。
- どうやって見分けるのかブラックホールの合体を重力波でとらえる将来の宇宙の重力波望遠鏡LISAと、さまざまな波長の観測を組み合わせるのが有望とされています[7]。
05関連する記事
06よくある質問
宇宙で最初のブラックホールはいつできた?
まだわかっていません。解説論文は、最初の星が死んでできたブラックホールが、赤方偏移30という早い時期(宇宙の年齢が約1億年のころ、計算)にもできた可能性があると書いています。観測で確かめられている最も昔のものは、ビッグバンから約4.7億年後のUHZ1などです。
ブラックホールの重い種と軽い種の違いは?
軽い種は、最初の世代の星が死んで残した太陽の10〜100倍ほどのブラックホールです。重い種は、ガスの雲が星に分かれずに一気につぶれてできた太陽の1万〜10万倍ほどのものです。重い種のほうが、早く巨大に育つのに有利です。
UHZ1とは何?
ビッグバンから約4.7億年後の姿が見えている、約132億光年先の銀河です。2023年、チャンドラX線望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡の観測で、中心に太陽の1000万〜1億倍と見積もられるブラックホールが見つかりました。
なぜ宇宙の初めの巨大ブラックホールは早すぎると言われるの?
ブラックホールが太る速さには上限があり、上限いっぱいでも重さが約2.7倍になるのに約5000万年かかるためです。太陽の100倍の種が10億倍になるには約8億年かかりますが、太陽の約8億倍のブラックホールが、宇宙がまだ6.9億歳のころに見つかっています。
出典
- Bañados, E., Venemans, B. P., Mazzucchelli, C., et al. (2017). An 800-million-solar-mass black hole in a significantly neutral Universe at a redshift of 7.5. Nature 553, 473–476. https://doi.org/10.1038/nature25180
- Wang, F., Yang, J., Fan, X., et al. (2021). A Luminous Quasar at Redshift 7.642. The Astrophysical Journal Letters 907, L1. https://doi.org/10.3847/2041-8213/abd8c6
- Bogdán, Á., Goulding, A. D., Natarajan, P., et al. (2023). Evidence for heavy-seed origin of early supermassive black holes from a z ≈ 10 X-ray quasar. Nature Astronomy 8, 126–133. https://doi.org/10.1038/s41550-023-02111-9
- Natarajan, P., Pacucci, F., Ricarte, A., et al. (2023). First Detection of an Overmassive Black Hole Galaxy UHZ1: Evidence for Heavy Black Hole Seed Formation from Direct Collapse. The Astrophysical Journal Letters 960, L1. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ad0e76
- Chandra X-ray Observatory(NASA)(2023). Photo Album: UHZ1 (November 6, 2023). https://chandra.harvard.edu/photo/2023/uhz1/
- Maiolino, R., Scholtz, J., Witstok, J., et al. (2024). A small and vigorous black hole in the early Universe. Nature 627, 59–63. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07052-5
- Inayoshi, K., Visbal, E., Haiman, Z. (2020). The Assembly of the First Massive Black Holes. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 58, 27–97. https://doi.org/10.1146/annurev-astro-120419-014455


