ダイヤモンドの惑星はあるのか、かに座55番星eの説が揺れた理由

2012年、「ダイヤモンドでできた惑星が見つかったかもしれない」という話が世界中で報じられました。舞台は約41光年先の惑星、かに座55番星eです。ところがその後の観測で、説の土台は揺れ続けています。科学の説が観測でどう変わっていくのかを、この惑星でたどります。
3行でわかる
- 2012年の論文は、かに座55番星eの重さと大きさは「炭素が多い中身」でも説明できると示した。高い圧力の下では炭素はダイヤモンドになる。
- 根拠の1つだった「主星の炭素が酸素より多い」という測定は、2013年の測り直しで炭素÷酸素が1.12から0.78に下がり、弱まった。
- 2024年、ウェッブ宇宙望遠鏡は二酸化炭素か一酸化炭素を含む大気の手がかりを見つけた。それでも、中身がダイヤモンドかどうかはわかっていない。
01 わかっていることかに座55番星eはどんな惑星?
かに座55番星eは、約41光年先の恒星のすぐそばを約18時間で1周する、地球の約2倍の大きさの岩の惑星です。昼の側は1000度を大きく超える、とても熱い世界です。
重さは地球の約8.6倍、半径は約2倍です[2]。地球より大きな岩の惑星は「スーパーアース」と呼ばれます(くわしくはスーパーアースの記事)。主星は6等級ほどで、暗い空なら肉眼でぎりぎり見える明るさです[2]。
惑星は主星から約225万kmしか離れていません。水星と太陽の距離の約25分の1です[6]。いつも同じ面を主星に向けていると考えられています[6]。
02 どうやってわかったのかダイヤモンド説はどう生まれて、どう揺れた?
2012年に「炭素の多い中身」の模型が出され、2013年に主星の炭素の量が測り直されて根拠が弱まりました。2016年と2024年の観測は、表面と大気の様子を少しずつ明らかにしています。
わかっていないMadhusudhanら(2012年、The Astrophysical Journal Letters)[1]
この惑星の重さと大きさは、水の層がなくても、鉄・炭素・炭化ケイ素(炭素とケイ素の化合物)などの「炭素が多い中身」で説明できると示しました。その後、主星の炭素÷酸素の比が測り直され(下のTeskeら)、この説の根拠は弱まりました。
どうやって: 物質ごとに、圧力をかけたときの縮み方を計算して、重さと大きさに合う組み合わせを探しました。炭素は約10万気圧を超えるとグラファイト(鉛筆の芯の成分)からダイヤモンドに変わるとして計算しています。著者ら自身が「炭素が多いことを確かめるには追加の観測が必要」と書いています。
わかっているTeskeら(2013年、The Astrophysical Journal)[3]
主星の炭素÷酸素の比は、前の研究の1.12でなく、平均で0.78でした。炭素の多い惑星ができやすい境目とされる0.8のすぐ下です。
どうやって: 前の研究が使った酸素の光の線には、ニッケルの線が重なって見誤りやすいことを指摘しました。ほかの炭素と酸素の線も使って測り直しています。2012年の模型は「惑星は主星と同じ材料でできた」と仮定していたため、この結果で根拠が弱まりました。
わかっているDemoryら(2016年、Nature)[4]
昼の側のいちばん熱い半球は約2700K(約2400度)、夜の側は約1380K(約1100度)でした。昼と夜で温度が大きく違います。
どうやって: スピッツァー宇宙望遠鏡で、惑星が1周する間の赤外線の明るさの変化を測り、温度の地図を作りました。夜の側の値は誤差が大きく、プラスマイナス約400Kあります。
有力な仮説Huら(2024年、Nature)[5][6]
ウェッブ宇宙望遠鏡の観測から、二酸化炭素か一酸化炭素を多く含む大気がある可能性が高いと報告しました。大気はマグマの海(溶けた岩の海)から出たガスで保たれていると考えています。光で大気を読む方法は系外惑星の大気の記事にあります。
どうやって: 惑星が主星の裏に隠れる前後で、赤外線の明るさの差を測りました。大気がないなら昼の側は約2200度のはずが、測ると約1540度で、熱が夜の側へ運ばれていると解釈しました。ESAは「これまでで最も良い証拠」と表現し、確定とはしていません。
03 数字と例えでいうとどれくらい近くて、どれくらい熱い?
かに座55番星eは主星から地球と月の距離の約6倍しか離れておらず、1年は約18時間です。説の根拠だった炭素÷酸素の比は、測り直しで1.12から0.78に変わりました。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 地球からの距離 | 約41光年[6] | 今見えている主星の光は、約41年前に出た光 |
| 主星からの距離 | 約225万km[6] | 地球と月の距離(約38万km)の約6倍。水星と太陽の約25分の1 |
| 1周にかかる時間 | 約0.74日[2] | 約18時間。朝6時に1周を始めると、その日の夜中0時ごろに1周が終わる |
| 重さ・半径 | 地球の約8.6倍・約2倍[2] | 平均の密度は1立方センチあたり約5.9グラムで、地球(約5.5グラム)と近い |
| 主星の炭素÷酸素 | 1.12 → 0.78[1][3] | 炭素の多い惑星ができやすい境目は約0.8。測り直しで境目の上から下へ移った |
| グラファイトがダイヤモンドに変わる圧力 | 10ギガパスカル[1] | 約10万気圧。地上の空気の重さの約10万倍 |
地球と月の距離・気圧の換算は計算で出しました。2012年の報道では「惑星の表面がダイヤモンドで覆われている」ような書き方も見られましたが、論文が示したのは中身の模型の1つで、表面を観測したわけではありません。
04 まだわかっていないことダイヤモンドの惑星は結局あるの?
かに座55番星eの中にダイヤモンドがあるかどうかは、まだわかっていません。重さと大きさだけでは、中身を1つに決められないためです。炭素の多い惑星がほかにあるかどうかも、確かめられていません。
- 中身が何でできているか同じ重さと大きさでも、岩と鉄、炭素の多い物質、溶けた岩とガスなど、いくつもの組み合わせで説明できます[1][5]。中を直接見る方法はありません。
- 大気は二酸化炭素か一酸化炭素か2024年の観測では、どちらのガスかまでは決まっていません。大気は時間で変わる可能性もあり、さらに観測が続けられています[6]。
- 惑星は主星と同じ材料でできるのか2012年の論文も、惑星ができる円盤の中では場所によって炭素と酸素の割合が変わりうると書いています[1]。主星を測るだけで惑星の中身を決められるかは、まだ議論があります。
05関連する記事
06よくある質問
ダイヤモンドの惑星は本当にあるの?
まだ確かめられていません。2012年にかに座55番星eの中身が炭素の多い物質かもしれないという論文が出ましたが、2013年に主星の炭素の量が測り直されて根拠が弱まりました。重さと大きさだけでは中身を1つに決められず、ダイヤモンドがあるかどうかはわかっていません。
かに座55番星eはどこにある?肉眼で見える?
地球から約41光年先、かに座の方向にあります。主星は6等級ほどで、街明かりのない暗い空なら肉眼でぎりぎり見えます。惑星そのものは主星に近すぎて、望遠鏡でも直接は見えません。
なぜダイヤモンドの惑星と言われたの?
主星の炭素が酸素より多いと測られていたため、惑星も炭素の多い材料でできたと仮定した模型が作られたからです。炭素は約10万気圧を超えるとダイヤモンドに変わるため、惑星の中の高い圧力でダイヤモンドができうると計算されました。
ウェッブ宇宙望遠鏡は何を見つけたの?
2024年、二酸化炭素か一酸化炭素を多く含む大気がある可能性が高いと報告されました。昼の側の温度が大気のない場合の予想より低く、熱が夜の側へ運ばれていると考えられたためです。岩の系外惑星の大気の、これまでで最も良い証拠とされていますが、確定ではありません。
出典
- Madhusudhan, N., Lee, K. K. M., Mousis, O. (2012). A Possible Carbon-rich Interior in Super-Earth 55 Cancri e. The Astrophysical Journal Letters 759, L40. https://doi.org/10.1088/2041-8205/759/2/L40
- Winn, J. N., et al. (2011). A Super-Earth Transiting a Naked-eye Star. The Astrophysical Journal Letters 737, L18. https://doi.org/10.1088/2041-8205/737/1/L18
- Teske, J. K., Cunha, K., Schuler, S. C., Griffith, C. A., Smith, V. V. (2013). Carbon and Oxygen Abundances in Cool Metal-rich Exoplanet Hosts: A Case Study of the C/O Ratio of 55 Cancri. The Astrophysical Journal 778, 132. https://doi.org/10.1088/0004-637X/778/2/132
- Demory, B.-O., et al. (2016). A map of the large day–night temperature gradient of a super-Earth exoplanet. Nature 532, 207–209. https://doi.org/10.1038/nature17169
- Hu, R., et al. (2024). A secondary atmosphere on the rocky exoplanet 55 Cancri e. Nature 630, 609–612. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07432-x
- ESA/Webb (2024). Webb hints at possible atmosphere surrounding rocky exoplanet (weic2412). https://esawebb.org/news/weic2412/


