ダークマターは今も体を通り抜けているのか

今この瞬間も、目に見えない粒があなたの体を通り抜けているかもしれません。ダークマターが粒でできているなら、という前提つきですが、研究者はその数を計算しています。どこまでが観測でわかっていて、どこからが仮定なのかを分けて見ていきます。
3行でわかる
- 太陽の近くにもダークマターがあり、その濃さは星の動きから「1立方センチに水素原子0.3〜0.6個分の重さ」と見積もられています。
- 粒の重さを陽子の約64倍と仮定した計算では、毎秒何十億個もの粒が体を通り抜け、体の原子核にぶつかるのは1年に数個から30個ほどでした(2012年の計算)。
- ただし、粒はまだ1つも見つかっていません。粒の重さがわからないので、数は前提しだいで大きく変わります。
01 わかっていることダークマターは私たちのまわりにもあるの?
あると考えられています。天の川銀河はダークマターの大きな雲(ハロー)に包まれていて、太陽系もその中を動いています。太陽の近くの濃さは、星の動きから見積もられています。
ダークマターがあると考えられる理由(銀河の回り方、光の曲がり方、宇宙の背景放射)は、ダークマターとは何かで説明しています。ここでは「自分のまわり」に絞ります。
天の川銀河の円盤の星は、円盤の上下にも少しずつ揺れ動いています。揺れの大きさは、そこにある重さ全体で決まります。見える星やガスの重さを引いた残りが、ダークマターの濃さです。
その濃さはとても薄く、地球と同じ大きさの球に入っている量は、計算すると0.6〜1.2kgほどです。それでも銀河全体では、見える物質よりずっと多くなります。
02 どうやってわかったのか通り抜ける数は、どうやって見積もるの?
3つの数を使います。太陽の近くのダークマターの濃さ、太陽系がダークマターの中を進む速さ、そして粒1個の重さです。最初の2つは観測から求め、最後の1つは仮定です。
わかっているリード(2014年、Journal of Physics G)[1]
太陽の近くのダークマターの濃さを測った研究をまとめました。銀河の回る速さから外挿すると、1立方センチあたり0.2〜0.56GeV(陽子1個の重さが約0.94GeV)でした。
どうやって: 円盤の星の上下の動きを使う方法と、銀河全体の回転から割り出す方法を比べました。方法によって値がばらつき、偽のデータでの試験が必要だと強調しています。
わかっているデ・サラスとヴィトマルク(2021年、Reports on Progress in Physics)[2]
ガイア衛星のデータを使った研究も含めると、太陽の近くだけを見る方法では1立方センチあたり0.4〜0.6GeV、銀河全体から求める方法では0.3〜0.5GeVに多くの結果が集まりました。
どうやって: 最近の測定を比べました。銀河がつり合った静かな状態にある、という仮定が崩れている証拠が増えていて、それが誤差のもとになっていると指摘しています。
有力な仮説フリースら(2013年、Reviews of Modern Physics)[3]
太陽系は銀河の中を秒速約235km(以前は220kmとされていた)で回っています。ダークマターの雲がほとんど回っていなければ、地球には「ダークマターの風」が吹きます。地球の公転(秒速29.8km)が足し引きされるので、風は6月に強く、12月に弱いと予想されます。
どうやって: 銀河の回転の測定と、ダークマターの雲の標準的なモデルから計算しました。雲の中に流れ(ストリーム)があれば、時期や強さが変わる可能性もあるとしています。
有力な仮説フリースとサベージ(2012年、Physics Letters B)[4]
体重70kgの人を考え、粒の重さを60GeV(陽子の約64倍)と仮定しました。毎秒何十億個もの粒が体を通り抜け、体の原子核にぶつかるのは1年に約5個(原子核全体とぶつかる場合)から約30個(水素の原子核のスピンと関係する場合)でした。
どうやって: 体をつくる元素の割合と、当時の実験で許された最大の「ぶつかりやすさ」を使って計算しました。粒によるからだへの影響は、宇宙線などの自然の放射線にくらべて無視できるほど小さく、害はないとしています。
わかっていないLZ実験(2023年、Physical Review Letters)[5]
5.5トンの液体キセノンで60日間待ちましたが、粒の信号は見つかりませんでした。粒が36GeVなら、ぶつかりやすさは9.2×10-48平方センチより小さいとわかりました。
どうやって: アメリカの地下の研究施設で、粒がキセノンの原子核にぶつかったときのかすかな光を待ちました。2012年の計算が使った値(10-44平方センチ)の約1000分の1にあたり、体の中でぶつかる回数の見積もりも、そのぶん小さくなります(36GeVの値での比較)。
03 数字と例えでいうと体の中には今いくつあるの?
濃さを1立方センチあたり0.4GeV、粒の重さを60GeVと仮定すると、1リットルに約7個、70リットルの体の中には常に約470個が入っている計算です。粒の重さの仮定を変えると、この数は大きく変わります。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 太陽の近くの濃さ | 1立方センチあたり0.3〜0.6GeV [1][2] | 1立方センチに水素原子0.3〜0.6個分の重さ |
| 地球と同じ体積に入る量 | 約0.6〜1.2kg(上の濃さから計算) | 500mLのペットボトル1〜2本分の重さ |
| 体の中の粒の数 | 約470個(0.4GeV・60GeVと仮定した計算) | 1リットルの水筒に約7個 |
| 体の中のダークマターの重さ | 約5×10-20グラム(同じ仮定の計算) | ほぼゼロ。重さを感じることはない |
| 太陽系が進む速さ | 秒速約235km [3] | 東京から大阪(直線で約400km)を2秒足らず |
| 体の原子核にぶつかる回数 | 1年に約5〜30回(2012年の上限で計算)[4] | その後の実験で、上限はさらに下がった [5] |
粒の数は「濃さ÷粒1個の重さ」で決まります。粒が重ければ数は減り、軽ければ増えます。粒が陽子の約1000倍の重さなら、体の中の数は約30個まで減る計算です。
04 まだわかっていないことこの話で、まだ答えが出ていないのは?
いちばん大きな謎は、ダークマターが本当に粒なのか、粒なら1個の重さはいくつなのかです。重さがわからない限り、体を通り抜ける「数」は決まりません。
- 粒なのか、重さはいくつか重い粒、ずっと軽い粒など、候補はたくさんあります。地下の実験では、まだ1つも捕まっていません。
- 太陽の近くの濃さの正確な値方法によって0.3〜0.6GeVと約2倍の幅があります。銀河が揺れ動いていて、計算の前提が成り立たない部分があるためです。
- 地球の近くを流れる「筋」があるか小さな銀河が壊れた名残の流れがダークマターにもあれば、風の向きや強さが変わります。どれくらいあるかはわかっていません。
05関連する記事
06よくある質問
ダークマターが体を通り抜けても大丈夫?
大丈夫と考えられています。フリースとサベージの2012年の計算では、粒が体の原子核にぶつかっても、受ける放射線は宇宙線などの自然の放射線にくらべて無視できるほど小さいとされました。宇宙線の粒は、毎秒数個の割合で体を通り抜けています。
ダークマターは壁や地面で止まらないの?
止まらないと考えられています。ふつうの物質とほとんどぶつからないためです。だから探す実験は、じゃまになる宇宙線をさえぎるために地下深くに置かれています。LZ実験もアメリカの地下の研究施設で行われました。
夏と冬で、通り抜ける数は変わるの?
標準的なモデルでは、地球の公転の向きが太陽系の進む向きとそろう6月ごろに風が強く、12月ごろに弱いと予想されています。この1年の変化は、もし信号が見つかったときに、本物のダークマターかを見分ける手がかりになります。
出典
- Read, J. I. (2014). The local dark matter density. Journal of Physics G 41, 063101. https://doi.org/10.1088/0954-3899/41/6/063101
- de Salas, P. F. & Widmark, A. (2021). Dark matter local density determination: recent observations and future prospects. Reports on Progress in Physics 84, 104901. https://doi.org/10.1088/1361-6633/ac24e7
- Freese, K., Lisanti, M. & Savage, C. (2013). Colloquium: Annual modulation of dark matter. Reviews of Modern Physics 85, 1561. https://doi.org/10.1103/RevModPhys.85.1561
- Freese, K. & Savage, C. (2012). Dark matter collisions with the human body. Physics Letters B 717, 25-28. https://doi.org/10.1016/j.physletb.2012.09.041
- LZ Collaboration, Aalbers, J. et al. (2023). First Dark Matter Search Results from the LUX-ZEPLIN (LZ) Experiment. Physical Review Letters 131, 041002. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.041002


