ホーキング放射とは何か、ブラックホールは蒸発するのか

光さえ出られないはずのブラックホールが、実はごくわずかに光っている。1974年、物理学者スティーブン・ホーキングはそう予測しました。これがホーキング放射です。理論ではブラックホールはいつか蒸発しますが、本物のブラックホールからの放射は、まだ一度も観測されていません。
3行でわかる
- ホーキング放射は、量子力学の効果でブラックホールがわずかな熱を持ち、光や粒子を出すという理論上の予測。
- 温度は重いほど低く、太陽ほどの重さで約0.00000006K。宇宙を満たす光(約2.7K)より冷たいので、今の観測では見えない。
- ブラックホールが蒸発して消えたら、中に落ちた物の情報はどこへ行くのか。この「情報のパラドックス」はまだ解けていない。
01 わかっていることホーキング放射とは何?
ホーキング放射は、ブラックホールが量子力学(ごく小さな世界のルール)の効果で、熱い物のように光や粒子を出すという予測です。1974年にホーキングが発表しました。
それまでの重力の理論では、ブラックホールは物を吸い込むだけで、何も出しませんでした。ホーキングは、量子力学を合わせて考えると、どんなブラックホールも粒子を作って出すことを示しました[1][2]。
ポイントは、温度が重さに反比例することです。重いブラックホールほど冷たく、軽いほど熱くなります[2]。粒子を出した分だけブラックホールは軽くなり、最後には消えると考えられています。
02 どうやってわかったのかなぜまだ観測されていないの?
本物のブラックホールは温度が低すぎて、放射が弱すぎるからです。太陽ほどの重さでも、宇宙全体を満たす光より何千万倍も冷たく、今の望遠鏡では測れません。
有力な仮説Hawking(1974年 Nature、1975年 Communications in Mathematical Physics)[1][2]
ブラックホールは、温度がおよそ「100万分の1K ×(太陽の重さ÷そのブラックホールの重さ)」の物体のように光を出します。この放射でゆっくり軽くなり、最後には消えます。
どうやって: ブラックホールのまわりの空間で、量子力学の計算をしました。理論の計算であり、本物のブラックホールで確かめた観測はまだありません。
わかっているFixsen(2009年、The Astrophysical Journal)[6]
宇宙全体を満たす光(宇宙マイクロ波背景放射、ビッグバンの名残の光)の温度は2.72548Kです。
どうやって: 人工衛星COBEの測定を較正し直し、ほかの測定とまとめました。ブラックホールがこれより冷たいと、出す光より吸い込む光のほうが多くなるため、理屈の上では今は蒸発どころか少しずつ重くなります。
有力な仮説Steinhauer(2016年、Nature Physics)[5]
ごく低温の原子のガス(ボース・アインシュタイン凝縮)で、音が出られなくなる「音のブラックホール」を作りました。そこからホーキング放射によく似た放射が自然に出ていることが報告されました。
どうやって: 境目の内と外で対になって出る音の粒の関係を測りました。本物のブラックホールではなく、仕組みを似せた実験です。
わかっていないCarrら(2010年、Physical Review D)[4]
宇宙の初めにできたかもしれない小さなブラックホール(原始ブラックホール)は、軽いので熱く、今ごろ蒸発しているものもあるはずです。重さ10の9乗〜10の17乗グラムのものについて、蒸発の影響が観測と矛盾しない数の上限を出しました。
どうやって: 蒸発で出る光や粒子が、宇宙の元素や背景の光をどれだけ変えるかを計算し、観測と比べました。原始ブラックホールが本当にあるかどうかは、わかっていません。
03 数字と例えでいうとどれくらい冷たくて、どれくらいで消える?
太陽ほどの重さのブラックホールの温度は約0.00000006Kで、消えるまで約10の67乗年かかります(計算)。宇宙の年齢の10の57乗倍という、想像できないほど長い時間です。
| ブラックホールの重さ | 温度(計算) | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 天の川銀河の中心(太陽の約430万倍) | 約0.000000000000014K | 宇宙を満たす光(約2.7K)の約200兆分の1 |
| 太陽と同じ | 約0.00000006K | 宇宙を満たす光の約4400万分の1。蒸発に約10の67乗年 |
| 地球と同じ | 約0.02K | 大きさは直径約1.8cm。それでもまだ宇宙を満たす光より冷たい |
| 月と同じ | 約1.7K | 大きさは直径約0.2mm。月の約6割より軽くなって、やっと2.7Kより熱くなる |
| 約10の15乗グラム(約10億トン) | ずっと熱い | ホーキングは、宇宙の初めにできたこれより軽いものはすでに蒸発したはずと書いた[2] |
温度と蒸発時間は、ホーキングの式(温度は重さに反比例、蒸発時間は重さの3乗に比例)で計算しました。蒸発時間は光だけを出すとした単純な見積もりです。
04 まだわかっていないことブラックホールの中と情報のパラドックスとは?
ブラックホールが蒸発して消えたとき、中に落ちた物の情報が残るのか消えるのかは、まだわかっていません。重力と量子力学をまとめる理論が完成していないためです。
- 情報は消えるのか、残るのかホーキングは1976年、落ちた物の情報の一部は失われ、元の状態を計算で戻せなくなると論じました[3]。量子力学のふつうの考え方では情報は消えないため、どちらが正しいか、今も議論が続いています。
- ブラックホールの中心はどうなっているのか中心では今の物理の法則が使えなくなると考えられています。蒸発の最後の瞬間に何が起きるのかも、まだ計算でも答えが出ていません。
- 原始ブラックホールはあるのか宇宙の初めに小さなブラックホールができたかどうかは、わかっていません。見つかれば、ホーキング放射を確かめる手がかりになります[4]。
05関連する記事
06よくある質問
ホーキング放射はもう観測されている?
本物のブラックホールからは、まだ観測されていません。太陽ほどの重さのブラックホールの温度は約0.00000006K(計算)で、宇宙全体を満たす光の約2.7Kよりはるかに低く、弱すぎて測れないためです。実験室でブラックホールに似せた仕組みでは、よく似た現象が報告されています。
ブラックホールはいつか蒸発して消える?
ホーキングの計算では、ブラックホールは少しずつ軽くなり、最後には消えます。ただし太陽ほどの重さなら、ホーキングの式で計算すると約10の67乗年かかり、今の宇宙の年齢(約138億年)よりけた違いに長い時間です。
ブラックホールの情報のパラドックスとは?
ブラックホールが熱い光だけを出して消えると、中に落ちた物の情報まで消えてしまうように見える、という問題です。ホーキングは1976年に情報は失われると論じましたが、量子力学のふつうの考え方とぶつかるため、今も答えは出ていません。
小さいブラックホールほど早く蒸発するの?
はい。ホーキング放射の温度は重さに反比例するため、軽いほど熱く、早く蒸発します。ホーキングは1975年に、宇宙の初めにできた重さ約10の15乗グラム(約10億トン)より軽いブラックホールは、すでに蒸発しているはずだと書きました。
出典
- Hawking, S. W. (1974). Black hole explosions? Nature 248, 30–31. https://doi.org/10.1038/248030a0
- Hawking, S. W. (1975). Particle creation by black holes. Communications in Mathematical Physics 43, 199–220. https://doi.org/10.1007/BF02345020
- Hawking, S. W. (1976). Breakdown of predictability in gravitational collapse. Physical Review D 14, 2460–2473. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.14.2460
- Carr, B. J., Kohri, K., Sendouda, Y., Yokoyama, J. (2010). New cosmological constraints on primordial black holes. Physical Review D 81, 104019. https://doi.org/10.1103/PhysRevD.81.104019
- Steinhauer, J. (2016). Observation of quantum Hawking radiation and its entanglement in an analogue black hole. Nature Physics 12, 959–965. https://doi.org/10.1038/nphys3863
- Fixsen, D. J. (2009). The Temperature of the Cosmic Microwave Background. The Astrophysical Journal 707, 916–920. https://doi.org/10.1088/0004-637X/707/2/916


