生命のしるし(バイオシグネチャー)とは、何が見つかれば生命と言えるのか

遠くの惑星に生き物がいるかは、行って確かめることができません。そこで研究者は、生き物が残す「しるし」を探します。これがバイオシグネチャーです。ただ、しるしの多くは生き物がいなくてもできるため、1つ見つかっただけでは「生命がいた」とは言えません。
3行でわかる
- バイオシグネチャーは、生き物がいる、またはいた手がかりになる物質・模様・変化のこと。大気の酸素とメタンが一緒にあることは、代表的な候補とされる。
- 酸素だけ、メタンだけなら、生き物がいなくてもできる場合がある(偽陽性)。そのため、星や惑星の環境とあわせて判断する。
- NASAの研究者は2021年、生命の手がかりの確かさを7段階で示す尺度(CoLD)を提案した。地球の外で生命が確かめられた例は、まだない。
01 わかっていることバイオシグネチャーとは何?
生き物がいる、またはいた手がかりになる物質や模様、変化のことです。大気の気体の組み合わせ、岩の中の有機物や鉱物、地面の色などが候補になります。
バイオシグネチャーは、日本語で「生命のしるし」や「生命の痕跡」と呼ばれます。太陽系の中なら探査機で岩を調べ、太陽系の外なら望遠鏡で惑星の大気を調べます(系外惑星の大気から何がわかるのか)。
大事なのは、しるしは「生き物がいる証明」ではなく「生き物がいるかもしれない手がかり」だということです。研究者の総まとめでも、それぞれのしるしに、生き物なしで同じものができる道すじ(偽陽性)が挙げられています[2][3]。
| しるしの候補 | どんなものか |
|---|---|
| 大気の気体 | 酸素・オゾン・メタンなど。とくに、ふつうは反応して消え合う気体が一緒に多くあると、何かが作り続けている手がかりになる[4][5]。 |
| 地面の色 | 地球の植物は、赤い光をよく吸い、そのすぐ外側の光を強く跳ね返す。宇宙から見ると、この境目がはっきり出る[4]。 |
| 岩の中の有機物や鉱物 | 火星の岩などで調べる。ただし有機物や多くの鉱物は、生き物がいなくてもできる(火星に生命はいたのか)。 |
02 どうやってわかったのか生命のしるしは、どうやって確かめるの?
まず地球を宇宙から見て、しるしが本当に見えるかを試しました。そのうえで、生き物なしで同じしるしができないかを1つずつ調べ、確かさを段階で表す考え方が出てきています。
わかっているSaganら(1993年、Nature)[4]
探査機ガリレオが1990年12月に地球のそばを通ったとき、たくさんの酸素、赤い光を強く吸う地面の色、つり合いから大きくずれた量のメタンをとらえました。この3つがそろうことは、地球の生命を強く示すとしました。
どうやって: 木星へ向かう探査機を、あえて地球に向けて観測しました。地球を「生命がいるとわかっている見本」にした、宇宙からの生命探しの試験です。
有力な仮説Krissansen-Tottonら(2018年、Science Advances)[5]
住めそうな惑星の大気に、メタンと二酸化炭素が一緒にあることは、生命のしるしになりうると示しました。
どうやって: 地球の歴史のそれぞれの時代について、大気の気体がどれくらい化学的なつり合いからずれていたかを計算しました。1965年にLovelockが示した「大気のかたよりから生命を探す」考え方を発展させたものです[6]。
有力な仮説Meadowsら(2018年、Astrobiology)[3]
酸素は強いしるしの候補ですが、2つの弱点があるとしました。地球でも酸素が多かったのは歴史の一部だけで、さらに生き物なしで酸素がたまる道すじがいくつも知られています。
どうやって: これまでの研究をまとめ直したものです。地球では、生き物が酸素を作っていても、何十億年も大気にたまらなかった時期があったとしています。しるしが「ない」ことも、生命がいない証明にはなりません。
わかっているGreenら(2021年、Nature)[1]
NASAの研究者らが、生命の手がかりの確かさを1〜7の段階で伝える尺度「CoLD(生命検出の確かさ)」を提案しました。
どうやって: 発表が実際より強く受け取られないよう、伝え方の土台として示したものです。尺度の名前もふくめ、決まりではなく議論の出発点だと著者ら自身が書いています。
わかっていないMadhusudhanら(2025年)、Luqueら(2025年)[7][8]
惑星K2-18bで、生き物が作る気体の候補DMS(硫化ジメチル)の手がかりが報告されました。しかし別のチームの再分析では、DMSがあるという確かな証拠はないとされました。
どうやって: どちらもウェッブ宇宙望遠鏡のデータを使っています。同じデータでも分析の仕方で結論が変わる例で、決着には追加の観測が必要とされています(宇宙人はいるのか)。
03 数字と例えでいうと「生命を見つけた」と言えるのは、どの段階?
CoLDの尺度では、しるしを見つけるのが第1段階で、別の観測で確かめられるのが第7段階です。生き物なしの説明を1つずつ消していかないと、上の段階には進めません。
| 段階 | 何をするか | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 1 | 生き物が出しうるしるしを見つける | 台所でパンくずを見つけた |
| 2 | 機械の汚れや地球から持ちこんだものではないと確かめる | 自分がこぼしたものではないと確かめた |
| 3 | その場所で、生き物がそのしるしを作れると示す | ネズミならパンくずを運べるとわかった |
| 4 | 生き物以外では作れそうにないと示す | 風や家族が運んだのではなさそうだ |
| 5 | 別の種類のしるしを、もう1つ見つける | 小さな足あとも見つけた |
| 6 | 発表のあとに出された別の説明も消す | 家族の意見も聞いて、別の説明が残らない |
| 7 | 別の観測やチームで、独立に確かめられる | 夜にカメラでネズミが写った |
段階の中身は、Greenら(2021年)の提案を、わかりやすく言い直したものです[1]。例えはSEADICEが付けたもので、論文にはありません。2025年の火星の岩の斑点は、NASAが「生命の痕跡の候補」と呼んだ段階で、地球に持ち帰って調べる必要があるとされています[9]。
04 まだわかっていないこと生命のしるしで、まだわかっていないことは?
生き物なしでどこまでしるしができるのか、地球と違う生き物のしるしは何か、どの段階で「発見」と言うかは、まだ決まっていません。比べられる生命の例が、地球の1つしかないためです。
- 生き物なしで、どこまでしるしができるのか酸素は、星の強い光で水が分解されるなど、生き物なしでたまる道すじが考えられています[3]。ほかにも未知の道すじがあるかもしれず、惑星ごとに環境を調べる必要があります。
- 地球と違う生き物は、どんなしるしを残すのかしるしの候補は、ほとんどが地球の生き物から考えたものです[2]。まったく違うしくみの生き物がいれば、今の候補では見落とすかもしれません。
- どこまでそろえば「発見」なのかCoLDは議論の出発点として出された提案で、研究者の間で決まった基準ではありません[1]。どの段階で「生命を見つけた」と発表するかは、合意ができていません。
- K2-18bのDMSは本当にあるのか報告と再分析で結論が分かれ、追加の観測を待っている状態です[7][8]。
05関連する記事
06よくある質問
バイオシグネチャーとは何?
生き物がいる、またはいた手がかりになる物質や模様、変化のことです。日本語では生命のしるし、生命の痕跡とも呼ばれます。大気の酸素とメタン、植物のような地面の色、岩の中の有機物などが候補です。生命の証明ではなく、手がかりです。
酸素が見つかれば、生き物がいると言える?
酸素だけでは言えません。星の強い光で水が分解されるなど、生き物なしで酸素がたまる道すじが考えられています。メタンなどほかの気体との組み合わせや、星と惑星の環境とあわせて判断します。
CoLDスケールとは何?
NASAの研究者らが2021年にNatureで提案した、生命の手がかりの確かさを1〜7の段階で示す尺度です。しるしを見つけるのが第1段階、別の観測で確かめるのが第7段階です。決まった基準ではなく、議論の出発点として出されたものです。
地球の外で生命のしるしは見つかった?
候補はいくつか報告されていますが、生命と確かめられたものはありません。火星の岩の斑点は「生命の痕跡の候補」、K2-18bのDMSは再分析で確かな証拠はないとされ、どちらも決着していません。
出典
- Green, J., Hoehler, T., Neveu, M., et al. (2021). Call for a framework for reporting evidence for life beyond Earth. Nature 598, 575–579. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03804-9
- Schwieterman, E. W., Kiang, N. Y., Parenteau, M. N., et al. (2018). Exoplanet Biosignatures: A Review of Remotely Detectable Signs of Life. Astrobiology 18, 663–708. https://doi.org/10.1089/ast.2017.1729
- Meadows, V. S., Reinhard, C. T., Arney, G. N., et al. (2018). Exoplanet Biosignatures: Understanding Oxygen as a Biosignature in the Context of Its Environment. Astrobiology 18, 630–662. https://doi.org/10.1089/ast.2017.1727
- Sagan, C., Thompson, W. R., Carlson, R., Gurnett, D., Hord, C. (1993). A search for life on Earth from the Galileo spacecraft. Nature 365, 715–721. https://doi.org/10.1038/365715a0
- Krissansen-Totton, J., Olson, S., Catling, D. C. (2018). Disequilibrium biosignatures over Earth history and implications for detecting exoplanet life. Science Advances 4, eaao5747. https://doi.org/10.1126/sciadv.aao5747
- Lovelock, J. E. (1965). A Physical Basis for Life Detection Experiments. Nature 207, 568–570. https://doi.org/10.1038/207568a0
- Madhusudhan, N., Constantinou, S., Holmberg, M., et al. (2025). New Constraints on DMS and DMDS in the Atmosphere of K2-18 b from JWST MIRI. The Astrophysical Journal Letters 983, L40. https://doi.org/10.3847/2041-8213/adc1c8
- Luque, R., Piaulet-Ghorayeb, C., Radica, M., et al. (2025). Insufficient evidence for DMS and DMDS in the atmosphere of K2-18 b. Astronomy & Astrophysics 700, A284. https://doi.org/10.1051/0004-6361/202555580
- NASA (2025). NASA Says Mars Rover Discovered Potential Biosignature Last Year. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-says-mars-rover-discovered-potential-biosignature-last-year/


