夜空はなぜ暗いのか、オルバースのパラドックス

星が宇宙に限りなく、ずっと昔から散らばっているなら、どの方向を見ても視線はいつか星にぶつかるはずです。そうなら、夜空は星の表面のように明るく光るはず。これがオルバースのパラドックスです。答えの主役は「宇宙に年齢がある」ことでした。
3行でわかる
- 夜空が暗いいちばんの理由は、宇宙に年齢(約138億年)があり、星や銀河が光ってきた時間が限られていること。
- 宇宙の膨張も光を弱めるが、その効果は約2倍で、主役ではないと計算されている。
- 夜空は真っ暗ではなく、銀河の光の合計とビッグバンの名残の電波で弱く光っている。その明るさが銀河だけで説明できるかは、測定が続いている。
01 わかっていること夜空が暗いのはなぜ?
宇宙に年齢があり、星や銀河が光ってきた時間が限られているからです。遠すぎる星の光はまだ届いておらず、星が光る時間も、空を埋めつくすには足りません。
ドイツの天文学者オルバースは1823年、宇宙が無限に広く、星が一様に散らばっているなら、どの方向にもいつか星があるはずだと問いかけました[7]。遠い星は暗く見えますが、遠くなるほど星の数も増えるので、空全体は明るくなるはずです。
「宇宙のちりが光をさえぎる」という説明は成り立ちません。光を受けたちりはやがて温まり、元の星と同じくらい明るく光るからです[7]。
今の答えは、宇宙は無限に古くないということです。いちばん遠い星の光はまだ届いておらず、星や銀河もいつかは暗くなるため、明るい空ができる条件がそろう時はありません[7]。宇宙の年齢は約138億年です[6](宇宙の年齢)。
02 どうやってわかったのかどうやって確かめたの?
計算では、夜空の暗さを決めるのは主に銀河が光る時間の長さで、膨張の効果は約2倍にとどまります。観測でも、銀河の光を全部足した明るさは有限の値に収まっています。
わかっているウェッソンら(1987年、The Astrophysical Journal)[1]
銀河の間に満ちる光(銀河系外背景光)の明るさは、桁としては銀河が光る期間の長さで決まり、宇宙の膨張の影響は約2倍にすぎないと示しました。
どうやって: 宇宙の膨張を含むモデルで、銀河の光がどれだけたまるかを計算し直しました。「膨張が答えだ」という広まった説明を見直した研究です。
わかっているドライバーら(2016年、The Astrophysical Journal)[2]
紫外線から遠赤外線まで、暗い銀河を数えていくと、足し合わせた光の量は一定の値に収まりました。銀河の光の合計は、可視光の側と赤外線の側で約48%対52%でした。
どうやって: 地上と宇宙の望遠鏡の、広く深い銀河の観測データを組み合わせ、明るさごとの銀河の数から光の合計を出しました。
わかっていないラウアーら(2022年、The Astrophysical Journal Letters)[3]
探査機ニューホライズンズで空の明るさを測ると、知られている銀河の光とほぼ同じ量の、正体のわからない光が残りました。
どうやって: 太陽から51.3天文単位(地球と太陽の距離の約51倍)離れた場所で、太陽系のちりに散った光の影響が少ない空を撮影しました。
有力な仮説ポストマンら(2024年、The Astrophysical Journal)[4]
16か所の空で測り直すと、可視光の背景の明るさは11.16ナノワット毎平方メートル毎ステラジアンで、そのうち8.17は背景の銀河の光で説明できました。残り2.99は0と区別できず、最も簡単な解釈は「すべて銀河の光」だとしています。
どうやって: 同じニューホライズンズで観測する場所を増やし、天の川銀河のちりが散らす光を、プランク衛星のデータで見積もって差し引きました。2022年の結果を置き換える解析です。
わかっているフィクセン(2009年、The Astrophysical Journal)[5]
空のどの方向からも届く宇宙マイクロ波背景放射の温度は、2.7260K(誤差0.0013K)でした。目には見えませんが、夜空は電波では一様に光っています。
どうやって: COBE衛星の測定器のデータを、WMAP衛星のデータで較正し直して温度を求めました。
03 数字と例えでいうと夜空はどれくらい暗いの?
夜空は電波では2.7Kのぬくもりで、可視光では銀河の光の合計でかすかに光っています。膨張の効果は約2倍で、暗さの主な理由は宇宙の年齢です。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 宇宙の年齢 | 約138億年[6] | 光が届くのは、最大でも138億年分の旅をした光だけ |
| 膨張が背景の光を弱める効果 | 約2倍[1] | 暗さの主な理由(光ってきた時間の短さ)にくらべると小さい |
| 可視光の背景の明るさ(ニューホライズンズ) | 11.16 nW/m²/sr[4] | そのうち約73%(8.17)は、知られている銀河の光で説明できる(計算) |
| 銀河の光の合計の内訳 | 可視光側48%:赤外線側52%[2] | 銀河から出て宇宙を満たす光は、目に見える側と赤外線の側でほぼ半分ずつ |
| 宇宙マイクロ波背景放射 | 2.7260K[5] | マイナス約270.4度。いちばん強い波長は約1.06ミリ(計算)で、電子レンジの電波(約12センチ)よりずっと短い |
| ニューホライズンズの観測位置 | 51.3天文単位[3] | 太陽から約77億キロ(計算)。地球と太陽の距離の約51倍 |
04 まだわかっていないこと夜空の暗さで、まだわかっていないことは?
夜空のかすかな光が、知られている銀河だけで説明できるかは、まだ測定が続いています。2022年に報告された正体不明の光は、2024年の測り直しで小さくなりましたが、0とは言い切れていません。
- 背景の光は銀河だけで説明できるか2022年の測定では、銀河と同じくらいの正体不明の光が残りました[3]。2024年の測り直しでは残りは0と区別できなくなりましたが、誤差は±2.03あり[4]、未知の光がまったくないとは決まっていません。
- 地球の近くから測るとなぜ合わないのか地球の近くから空の明るさを直接測ると、銀河を数えた値より明るく出ます。ドライバーらは、太陽系のちりが散らす光(黄道光)の見積もりがずれている可能性を挙げています[2]。
- 見えていない暗い銀河はどれくらいあるかドライバーらは、表面が暗くて見つけにくい銀河や、銀河の集団の間に漂う星の光は少ないと考えています[2]。ただ、これは数えた銀河からの見積もりで、すべてを数え切れたわけではありません。
- 宇宙は無限かオルバースのパラドックスの答えには、宇宙が有限か無限かは必要ありません。宇宙全体の大きさは、まだわかっていません(宇宙の果て)。
05関連する記事
06よくある質問
オルバースのパラドックスとは?
宇宙が無限に広く、ずっと昔から星が一様に散らばっているなら、どの方向にも星があり、夜空は明るく光るはずだという矛盾です。ドイツの天文学者オルバースが1823年に問いかけました。
夜空が暗いのは、宇宙が膨張しているからではないの?
膨張も光を弱めますが、主な理由ではありません。1987年のウェッソンらの計算では、背景の光の明るさは主に銀河が光る期間の長さで決まり、膨張の効果は約2倍にとどまりました。主な理由は、宇宙に年齢があることです。
宇宙のちりが星の光をさえぎっているのでは?
ちりだけでは説明できません。光を受けたちりはやがて温まり、元の星と同じくらい明るく光ってしまうからです。
宇宙は本当に真っ暗なの?
真っ暗ではありません。空のどこからも2.7260Kの宇宙マイクロ波背景放射が届き、可視光でも遠くの銀河の光が重なってかすかに光っています。ニューホライズンズの測定では、その明るさの大部分は知られている銀河で説明できました。
出典
- Wesson, P. S., Valle, K., Stabell, R. (1987). The extragalactic background light and a definitive resolution of Olbers’s paradox. The Astrophysical Journal 317, 601. https://doi.org/10.1086/165306
- Driver, S. P., Andrews, S. K., Davies, L. J., et al. (2016). Measurements of Extragalactic Background Light from the Far UV to the Far IR from Deep Ground- and Space-based Galaxy Counts. The Astrophysical Journal 827, 108. https://doi.org/10.3847/0004-637X/827/2/108
- Lauer, T. R., Postman, M., Spencer, J. R., et al. (2022). Anomalous Flux in the Cosmic Optical Background Detected with New Horizons Observations. The Astrophysical Journal Letters 927, L8. https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac573d
- Postman, M., Lauer, T. R., Parker, J. W., et al. (2024). New Synoptic Observations of the Cosmic Optical Background with New Horizons. The Astrophysical Journal 972, 95. https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad5ffc
- Fixsen, D. J. (2009). The Temperature of the Cosmic Microwave Background. The Astrophysical Journal 707, 916–920. https://doi.org/10.1088/0004-637X/707/2/916
- Planck Collaboration (2020). Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters. Astronomy & Astrophysics 641, A6. https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833910
- Kwitter, K. B. (1999). Why is the night sky dark? Scientific American(ウィリアムズ大学の天文学者による解説). https://www.scientificamerican.com/article/why-is-the-night-sky-dark/


