系外惑星と生命

月にクマムシが落ちた?2019年の探査機事故と、生き物は宇宙を運ばれるのか

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月探査機ベレシートの模型
Photo: TaBaZzz / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

2019年4月、イスラエルの民間探査機ベレシートが月に墜落しました。積み荷の「月の図書館」には、乾いて休眠したクマムシが入っていたと報じられています。「月にクマムシが住みついた」という見出しも出回りましたが、研究からわかることは、それよりずっと地味で慎重です。

3行でわかる

  1. ベレシートは2019年4月11日、月の「晴れの海」への着陸に失敗して墜落した。積み荷にクマムシが入っていたことは、運んだ団体の共同創設者が報道に答えた話で、生きているかを確かめた観測はない。
  2. 実験室で休眠したクマムシを撃ち出した研究では、秒速0.9キロまでの衝突なら生き残り、それより速いと生き残らなかった。墜落の少し前に記録されたベレシートの速さは秒速約0.96キロで、この実験の限界に近い。ただ実際にぶつかった速さや、積み荷の中での衝撃は測られていない。
  3. もし生き残っていても、月の表面には液体の水がないので、クマムシは目を覚まして動いたり増えたりできない。「月に住みついた」は言いすぎ。

01 わかっていること月に落ちたクマムシは生きているの?

月に落ちたクマムシが生きているかどうかは、わかっていません。だれも確かめに行っていないからです。ただ、生きていたとしても乾いた休眠のままで、月で動いたり増えたりはできません。

ベレシートは、イスラエルの団体SpaceILの探査機です。2019年4月11日、月の表側にある「晴れの海」に着陸しようとして、硬く着地(墜落)しました[4]。

積み荷には、アーチ・ミッション財団の「月の図書館」がありました。厚さ40マイクロメートルのニッケルの円盤25枚に、3000万ページ分の情報を記録したものです[6]。財団の共同創設者は2019年8月、乾かしたクマムシ数千匹もいっしょに積んだと報道に答えました[7]。

クマムシ(体長1ミリほどの小さな動物)は、乾くと体を縮めて休眠します。この状態で宇宙に出しても、水をかけると生き返ったものがいます[2]。ただし、生き返るには水が必要です。くわしい宇宙実験の話はクマムシは宇宙で生きられるのかにまとめています。

02 どうやってわかったのか墜落の衝撃でクマムシは生き残れたの?

実験では、休眠したクマムシは秒速0.9キロの衝突までは生き残りました。墜落の少し前に記録された速さは秒速約0.96キロで、この実験の限界に近い値です(実際にぶつかった速さは測られていません)。ただし、図書館の中でクマムシが受けた衝撃は測られていません。

わかっているNASAの月周回機LRO(2019年)[4]

墜落から11日後の2019年4月22日、月を回る探査機LROのカメラが現場を撮影しました。幅約10メートルの黒っぽいしみが写り、ここが墜落した場所とされました。

どうやって: 高さ約90キロから撮った写真を、2016年の同じ場所の写真と比べました。ベレシートは約8.4度という浅い角度で斜めに突っこんだと見られています。

わかっている米国惑星協会の報告(2019年)[5]

最後のほうに届いたデータでは、高さ149メートルで、横向きに秒速947メートル、下向きに秒速134メートルで進んでいました。合わせると秒速約956メートルです。

どうやって: 管制室で公開された探査機のデータを、記者が記録しました。主エンジンが止まり、再び動いたときにはもう低すぎて速すぎたと報じられています。

有力な仮説TraspasとBurchell(2021年、Astrobiology)[1]

休眠したクマムシをガス銃で撃ち出して的に当てると、秒速0.9キロ(約1.14ギガパスカルの衝撃)までは生き残り、それより速いと生き残りませんでした。

どうやって: 凍らせて休眠させたクマムシを、実験室のガス銃で飛ばしました。実験に使ったのは1種類のクマムシで、宇宙船の部品に包まれた状態での衝撃は試していません。

わかっているJönssonら(2008年、Current Biology)[2]

休眠したクマムシを人工衛星で12日間、宇宙の真空にさらすと、地上に戻して水をかけたあと生き返ったものがいました。太陽の紫外線をそのまま浴びると、生き残りは大きく減りました。

どうやって: 2007年に人工衛星の外側にクマムシを置き、宇宙の真空・宇宙線・紫外線にさらしてから回収しました。地球のまわりを回る軌道での実験で、月の表面ではありません。

実験の限界(秒速0.9キロ)と墜落の速さ(秒速約0.96キロ)は近く、「たぶん生き残れなかった」と言い切るほどの差ではありません。図書館はニッケルの円盤と樹脂に包まれていました[6][7]。その中のクマムシが受けた衝撃は、だれも測っていません。

03 数字と例えでいうと月はクマムシにとってどれくらい厳しい場所?

月の赤道では、昼は約112度、夜明け前は約マイナス178度になります。空気も液体の水もありません。休眠したクマムシは耐えるかもしれませんが、目を覚まして暮らせる場所ではありません。

項目値身近な例えでいうと
墜落直前の速さ秒速約956メートル[5]時速に直すと約3400キロ。新幹線(時速320キロ)の約11倍
クマムシが生き残れた衝突の限界秒速0.9キロ(約1.14ギガパスカル)[1]墜落の速さは、この限界より約6%速い
墜落の跡幅約10メートルのしみ[4]25メートルプールの半分より狭い
月の赤道の昼の温度約385K(約112度)[3]沸騰したお湯(100度)より熱い
月の赤道の夜明け前の温度約95K(約マイナス178度)[3]冬の南極の最低気温よりずっと冷たい
月の図書館ニッケル円盤25枚、各40マイクロメートル[6]1枚の厚さは髪の毛(約0.07ミリ)より薄い

速さは横向き秒速947メートルと下向き秒速134メートルを合わせて計算しました。温度はケルビン(K)から273を引いて「度」に直しました。髪の毛の太さは目安です。

04 まだわかっていないこと月のクマムシについて、まだ謎なのは?

月のクマムシが生きているか、図書館がどれだけ壊れずに残ったかは、わかっていません。何年も月の昼と夜にさらされたあとで、休眠したクマムシが生き返れるかも、確かめた実験はありません。

05関連する記事

06よくある質問

月に落ちたクマムシは今も生きている?

わかっていません。2019年に墜落したベレシートに乾いたクマムシが積まれていたと報じられましたが、だれも確かめていません。実験では秒速0.9キロまでの衝突なら生き残りましたが、墜落の速さは秒速約0.96キロでした。

クマムシは月で増えることができる?

できないと考えられます。クマムシが目を覚まして動くには液体の水が必要で、月の表面にはありません。生き残っていたとしても、乾いて休眠したままです。

なぜ探査機にクマムシを積んだの?

アーチ・ミッション財団は、人類の知識を記録した「月の図書館」を月に置く活動をしていて、報道によるとクマムシもその積み荷に加えられました。研究のための実験装置として積まれたものではありません。

クマムシは宇宙で生きられる?

乾いて休眠したクマムシは、宇宙の真空に12日間さらされたあとでも、水をかけると生き返ったものがいます。ただし、太陽の紫外線をそのまま浴びると生き残りは大きく減り、宇宙で動いたり増えたりしたわけではありません。

出典

  1. Traspas, A., Burchell, M. J. (2021). Tardigrade Survival Limits in High-Speed Impacts: Implications for Panspermia and Collection of Samples from Plumes Emitted by Ice Worlds. Astrobiology 21(7), 845–852. https://doi.org/10.1089/ast.2020.2405
  2. Jönsson, K. I., Rabbow, E., Schill, R. O., Harms-Ringdahl, M., Rettberg, P. (2008). Tardigrades survive exposure to space in low Earth orbit. Current Biology 18, R729–R731. https://doi.org/10.1016/j.cub.2008.06.048
  3. Hayne, P. O., Bandfield, J. L., Siegler, M. A., Vasavada, A. R., et al. (2017). Global Regolith Thermophysical Properties of the Moon From the Diviner Lunar Radiometer Experiment. Journal of Geophysical Research: Planets 122, 2371–2400. https://doi.org/10.1002/2017JE005387
  4. NASA (2019). LRO Spots Beresheet Impact Site. https://www.nasa.gov/feature/goddard/2019/lro-beresheet-impact-site-spotted
  5. Davis, J. (2019). Beresheet comes close, crashes. The Planetary Society. https://planetary.org/articles/beresheet-comes-close-crashes
  6. Arch Mission Foundation. Lunar Library I(SpaceIL・ベレシート). https://www.archmission.org/spaceil
  7. Live Science (2019). Thousands of Tardigrades Stranded on the Moon After Lunar Lander Crash.(財団共同創設者への取材の報道) https://www.livescience.com/66109-tardigrades-moon-israeli-lander.html