宇宙探査

宇宙服なしで宇宙に出たら人はどうなるのか

約6分で読めます

船外活動中に撮影した国際宇宙ステーション
Photo: European Space Agency / CC BY-SA 3.0 igo / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

宇宙服なしで宇宙に出ると、映画のように体が破裂するのでしょうか。記録と研究を見ると、破裂はしません。体はふくらみ、十数秒で意識を失います。そして空気がすぐ戻って助かった人の記録が、1966年に1件あります。

3行でわかる

  1. 1966年、NASAの真空の部屋で試験中の宇宙服から空気が抜けた。中の人は12〜15秒で意識を失ったが、約20秒で空気が戻され、意識を取り戻した。
  2. 体は破裂しない。気圧が地上の約6%より下がると、体の中の水が気体になって体がふくらむ(エブリズム)。
  3. 何秒までなら後遺症なく助かるのか、人についてのデータはごくわずか。1960年代の動物実験が今も主な手がかり。

01 わかっていること宇宙服なしで宇宙に出たら体は破裂する?

破裂しません。真空にさらされた体は、中の水分が気体になってふくらみますが、皮膚の中に収まります。いちばん先に困るのは、息から酸素がとれず、十数秒で意識を失うことです(03の表)。

体の温度(約37℃)では、まわりの気圧が47mmHg(地上の約6%)以下になると、体の中の水が気体に変わり始めます[2]。これをエブリズムと呼びます。気圧がもっと低い実験では、水蒸気で体全体がふくらむことが記録されています[1]。

エブリズムについての研究をまとめた2013年の論文は、けがの起き方は予測でき、多くは手当てができ、助かる場合も多いと考えられると結論しています[2]。ただし、そのもとになる人や動物のデータは「とても少ない」とも書いています。

この記事は、事故の記録・動物実験・航空医学の資料で確かめられたことだけを書いています。けがの様子は、必要な範囲だけにとどめました。

02 どうやってわかったのか真空にさらされた人の記録はあるの?

あります。1966年12月14日、NASAの有人宇宙船センター(MSC)にある真空の部屋で、宇宙服の空気が約0.5秒で抜けた事故が報告書に残っています。中の人は12〜15秒で意識を失い、空気が戻ったあと意識を取り戻しました。

わかっているRoth(1968年、NASA Contractor Report CR-1223)[1]

宇宙服と部屋をつなぐ管の接続部が外れ、宇宙服の中の気圧は約0.5秒で地上の約0.7%(0.1psi)まで下がりました。中の人は12〜15秒で意識を失いました。真空にさらされたのは約20秒で、宇宙服に空気が戻されたあと意識を取り戻しました。

どうやって: NASAの依頼でまとめられた、急に空気が抜ける事故の報告書です。その後の検査では両耳の鼓膜が赤くなっていましたが、神経・胸の検査と心電図はふだんと変わりませんでした。

わかっている1960年代の動物実験(NASAの1968年の報告書によるまとめ)[1]

NASAの1968年の報告書のまとめによると、チンパンジーは、真空に近い気圧に最大3.5分さらされても、約4時間でふだんの課題をこなせる状態に戻りました。脳の電気活動を測った1頭は、意識を保てた時間が11秒でした。犬では約90秒までの実験で死亡はなく、120秒を超えると命を落とす例が多くなりました。

どうやって: 米国の航空宇宙医学の研究機関が、気圧を急に下げる装置で行った実験です。今では行われにくい種類の実験で、その結果が今も主な手がかりになっています。

有力な仮説Garbinoら(2025年、Aerospace Medicine and Human Performance)[3]

ネズミ20匹を、最低0.3mmHgまで、最大2分さらす実験をしました。水が液体でいられなくなる高度約37km(約12万フィート)より上では、温度の影響が大きく出ることがわかりました。けがを、宇宙船の空気が抜ける場合と宇宙服の空気が抜ける場合の2種類に分けることを提案しています。

どうやって: 気圧と時間を3段階に分けてさらし、その後の体を調べました。この分野の研究は1940〜1960年代からほとんど進んでいない、と論文自身が書いています。

03 数字と例えでいうと意識を保てるのは何秒くらい?

真空での手がかりは、1966年の事故の12〜15秒と、NASAの1968年の報告書のまとめにあるチンパンジーの実験の11秒です。米国連邦航空局(FAA)の9〜12秒は、高度約13〜15kmの薄い空気で正しく動ける時間(有効意識時間)の目安で、真空とは条件が違います。

項目数字身近な例えでいうと
体の水が気体になり始める気圧47mmHg以下[2]地上の気圧の約6%。高度約19kmの空にあたる[3]
1966年の事故で下がった気圧約0.1psi[1]地上の約0.7%(計算)
薄い空気で正しく動ける時間(高度約13〜15km。真空とは条件が違う)9〜12秒[4]血液が肺から脳まで回る時間に、脳にたくわえた酸素の分を足したくらい[4]
1966年の事故で意識を失うまで12〜15秒[1]約20秒で空気が戻され、助かった
チンパンジーの実験意識11秒、最大3.5分で回復例(NASAの1968年の報告書のまとめ)[1]人に同じ数字が当てはまるかは確かめられていない

FAAの数字は、高い空で酸素が足りなくなった操縦士についての平均の目安で、真空にさらされた場合の数字ではありません。人によって大きく違い、意識を失う前から判断や動きは鈍り始めます[4]。NASAの報告書は、息を止めたり大きく吸い込んだりしていると、肺が傷つきやすくなる例を挙げています[1]。

04 まだわかっていないこと真空で何秒まで助かるかは決まっている?

決まっていません。人が真空に近い状態にさらされた記録はごくわずかで(この記事で確かめられたのは1966年の1件)、動物実験も1960年代のものが中心です。人が後遺症なく助かる時間の上限は、まだわかっていません。

05関連する記事

06よくある質問

宇宙服なしで宇宙に出たら体は破裂する?

破裂しません。気圧が地上の約6%(47mmHg)より下がると、体の中の水が気体になって体がふくらみます(エブリズム)が、皮膚の中に収まります。1966年にNASAの真空の部屋で宇宙服の空気が抜けた事故でも、体が破裂することはありませんでした。

真空で人は何秒くらい意識を保てる?

記録と実験では十数秒です。1966年のNASAの事故では12〜15秒で意識を失い、NASAの1968年の報告書のまとめによると、チンパンジーの実験では11秒でした。米国連邦航空局が示す9〜12秒は、高度約13〜15kmの薄い空気で正しく動ける時間の目安で、真空とは条件が違います。人によって大きく違い、意識を失う前から判断は鈍り始めます。

真空にさらされても助かることはある?

あります。1966年の事故では、真空にさらされたのは約20秒で、空気が戻されたあと意識を取り戻し、検査で大きな異常は見つかりませんでした。この記事で確かめた人の記録は、この1件です。研究をまとめた2013年の論文も、多くの場合は手当てができ、助かる場合もあると結論しています。ただし人のデータはごくわずかです。

真空で息を止めるとどうなる?

NASAの1968年の報告書は、急に気圧が下がるときに息を止めたり大きく吸い込んだりしていると、肺が傷つきやすくなる例を挙げています。肺の中の空気が外に出られず、ふくらむためです。

出典

  1. Roth, E. M. (1968). Rapid (explosive) decompression emergencies in pressure-suited subjects. NASA Contractor Report NASA-CR-1223. https://ntrs.nasa.gov/citations/19690004637
  2. Murray, D. H., Pilmanis, A. A., Blue, R. S., Pattarini, J. M., Law, J., Bayne, C. G., Turney, M. W., Clark, J. B. (2013). Pathophysiology, prevention, and treatment of ebullism. Aviation, Space, and Environmental Medicine 84(2), 89–96. https://doi.org/10.3357/asem.3468.2013
  3. Garbino, A., Nusbaum, D., Goughnour, S., Dalal, S., Carminati, M.-V. G., Clark, J. (2025). Rodent Model for High Altitude and Ebullism Exposure Studies. Aerospace Medicine and Human Performance 96(3), 198–205. https://doi.org/10.3357/AMHP.6509.2025
  4. Federal Aviation Administration (2015). Advisory Circular AC 61-107B Change 1: Aircraft Operations at Altitudes Above 25,000 Feet Mean Sea Level or Mach Numbers Greater Than .75(Figure 2-3 有効意識時間の表). https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC_61-107B_CHG_1.pdf