宇宙探査

宇宙はどんなにおいがするのか、宇宙飛行士の証言と研究

約6分で読めます

国際宇宙ステーションの外で船外活動をする宇宙飛行士
Photo: NASA / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と公的機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

宇宙空間はほぼ真空なので、鼻で直接かぐことはできません。それでも、船外活動から戻った宇宙飛行士は、宇宙服や道具に独特のにおいが残っていると語ってきました。ここでは、宇宙飛行士の証言と、探査機が分子を測った研究を分けて見ていきます。

3行でわかる

  1. 宇宙飛行士は、船外活動のあとの宇宙服に「火薬」「オゾン」「金属」のようなにおいを感じると語っている。ただしこれは証言で、においの元を測った研究ではない。
  2. 原因は、宇宙ステーションのまわりの薄い酸素が表面を酸化させるという説などがあるが、NASAの研究者も「わかっていない」と言っている。
  3. においの元になる分子を実際に測った例はある。探査機ロゼッタは彗星67Pで、腐った卵のにおいの硫化水素などを測った。

01 わかっていること宇宙飛行士は宇宙のにおいをどう語っている?

宇宙飛行士は、船外活動から戻って宇宙服のヘルメットを外したときに、火薬・オゾン・溶接の煙・焼いたステーキのようなにおいがすると語っています。NASAはこれらの証言をまとめて紹介しています。

宇宙服の中ではプラスチックのにおいしかしないそうです[1]。においに気づくのは、ステーションの中に戻り、宇宙服や手袋、道具に鼻が近づいたときです。

月面を歩いたアポロの宇宙飛行士は、月の砂を「使ったあとの火薬」にたとえました[1]。NASAは訓練のために、香料の会社にこのにおいの再現を頼んだこともあります[1]。

証言は大切な手がかりですが、研究ではありません。においの感じ方は人によって違い、言葉のたとえも人それぞれです。この記事では、証言と測定を分けて書きます。

02 どうやってわかったのかにおいの元は測られている?

宇宙ステーションのにおいの元を測った研究は見当たりません。一方、彗星や宇宙のガスでは、においのある分子が実際に測られています。においを「かいだ」のではなく、分子の種類と量を機械で測った研究です。

わかっていないNASAエイムズ研究センターの解説(2021年)[1]

宇宙ステーションのにおいは、一種の「燃焼」から来ている可能性があるとNASAの研究者は説明しています。ステーションのまわりのごく薄い酸素が、勢いよくぶつかって表面を酸化させるという考えです。

どうやって: 研究者の経験と知識にもとづく説明で、においの元を宇宙服から集めて測ったものではありません。別のNASAの研究者は、すすに含まれる分子(多環芳香族炭化水素)が関わっているかもしれないとしつつ、「短く言えば、わからない」と述べています。

わかっているCalmonteら(2016年、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)[3]

探査機ロゼッタは、彗星67P(チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星)のまわりのガスで、腐った卵のにおいの元である硫化水素を測りました。量は水の約1.1%で、硫黄を含む分子の中でいちばん多いものでした。

どうやって: ロゼッタの装置ROSINAが、彗星から出るガスを取り込み、分子の重さで種類を見分けました。測った割合は、場所や季節によって0.1%未満から10%近くまで変わりました。

わかっているAltweggら(2016年、Science Advances)[4]

同じ彗星67Pのガスから、いちばん簡単なアミノ酸のグリシンと、リンを見つけました。どちらも生命の材料になる物質です。

どうやって: 同じくROSINAで、2014年10月と2015年に測りました。グリシンの量は水の0〜約0.16%で、誤差は2倍ほどあると著者らは書いています。

わかっているTielens(2008年、Annual Review of Astronomy and Astrophysics)[5]

すすや焦げの成分と同じ仲間の分子(多環芳香族炭化水素)は、銀河の中にたくさんあり、どこにでも見つかります。

どうやって: 宇宙から届く赤外線に、この分子に特有の光の模様が見えることを、実験室の測定と比べてまとめた総説です。宇宙ステーションのにおいの元だと確かめたものではありません。

03 数字と例えでいうと彗星はどんなにおいの分子を出している?

彗星67Pでは、腐った卵・馬小屋・アーモンドのようなにおいの元になる分子が測られました。ただしガスはとても薄く、ほとんどは水と二酸化炭素です。

彗星67Pで測られた分子地上でのにおいのたとえ確かさ
硫化水素腐った卵[2]測定済み。水の約1.1%[3]
アンモニア馬小屋[2]測定済み[2]
ホルムアルデヒド鼻をつく、息がつまるにおい[2]測定済み[2]
シアン化水素かすかな苦いアーモンド[2]測定済み[2]
メタノールアルコール[2]測定済み[2]

においのたとえは、ROSINAの責任者がESAのブログで説明したものです[2]。ESAは同じ記事で、これらの分子の密度はとても低いと注意しています。彗星のそばに人がいても、この表のとおりににおうとは限りません。彗星そのものについては彗星の記事にまとめています。

04 まだわかっていないこと宇宙のにおいの正体は何?

宇宙飛行士が感じるにおいの元は、まだわかっていません。宇宙服から分子を集めて測った研究が見当たらず、酸化説も、すすの分子の説も、確かめられていないためです。

05関連する記事

06よくある質問

宇宙はどんなにおいがするの?

船外活動から戻った宇宙飛行士は、宇宙服に火薬・オゾン・金属・焼いたステーキのようなにおいが残っていると語っています。ただし宇宙空間はほぼ真空なので直接かぐことはできず、においの元もまだわかっていません。

宇宙のにおいは何が原因?

まだわかっていません。NASAの研究者は、宇宙ステーションのまわりの薄い酸素が表面を酸化させる一種の燃焼や、すすの仲間の分子が関わっている可能性を挙げていますが、においの元を測った研究は見当たりません。

彗星はどんなにおいがする?

探査機ロゼッタが測った彗星67Pのガスには、腐った卵のにおいの硫化水素、馬小屋のにおいのアンモニア、苦いアーモンドのにおいのシアン化水素などが含まれていました。ただしガスはとても薄く、人がそばにいても同じようににおうとは限りません。

月の砂はどんなにおい?

アポロの宇宙飛行士は、月面から船内に持ち込んだ砂のにおいを「使ったあとの火薬」にたとえました。なぜそのようなにおいがしたのかは、まだわかっていません。

出典

  1. NASA Ames Research Center (2021). What does space smell like? Interesting Fact of the Month, December 2021. https://www.nasa.gov/space-science-and-astrobiology-at-ames/interesting-fact-of-the-month-current/interesting-fact-of-the-month-2021/
  2. ESA Rosetta blog (2014-10-23). The ‘perfume’ of 67P/C-G. https://blogs.esa.int/rosetta/2014/10/23/the-perfume-of-67pc-g/
  3. Calmonte, U., Altwegg, K., Balsiger, H., Berthelier, J.-J., et al. (2016). Sulphur-bearing species in the coma of comet 67P/Churyumov–Gerasimenko. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 462, S253–S273. https://doi.org/10.1093/mnras/stw2601
  4. Altwegg, K., et al. (2016). Prebiotic chemicals—amino acid and phosphorus—in the coma of comet 67P/Churyumov-Gerasimenko. Science Advances 2, e1600285. https://doi.org/10.1126/sciadv.1600285
  5. Tielens, A. G. G. M. (2008). Interstellar Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Molecules. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 46, 289–337. https://doi.org/10.1146/annurev.astro.46.060407.145211